第四章 齟齬(16) 村造り(2)
× × × ×
アファリは今日もディアス達の村にやって来ていた。それにネルが渋い顔をする。
「多すぎるよ。」
「お手伝い、お手伝い。」
頻繁にこの村に来るせいかアファリの言葉は上達していた。
「今日はランシールの剣術の稽古だって言うから相手をしに来たの。」
「だからといってそうしょっちゅう来るもんじゃない。
村の者達に怪しまれるぞ。」
「何を・・」
アファリはあっけらかんと言い、ネルはそれに舌打ちをした。
ディアスとランシールはアファリを伴って森に入った。
稽古の準備をする。と言ってアファリは森の少し開けた所の木にスルスルと登り、太い枝に棒きれを結びつけた縄を次々と結わえた。
アファリは、良し準備完了。と勇んで木から降りてきたがディアスとランシールの姿はそこにはなかった。そこへ森の少し奥から話し声が聞こえ、アファリはその声の元へ駆け出した。
その眼に映ったのは人相の悪い四人の男達。アファリは急激に行き足を止めた。がすぐに男達に取り囲まれた。
四方から男達がアファリを囲む。魔物が相手であれば斧を振ったであろうアファリが人を相手にそれを躊躇した。その隙を突かれ、後ろに回った男がアファリの身体を羽交い締めにし、持ち上げた。
声を出そうとした口を塞がれ、宙を蹴る両足が両脇の男に抱え取られる。
「いい獲物だぜ。」
首領格の正面の男がニヤニヤ笑いながらアファリに近づき綿の服の胸元に手を掛ける。と、太い腕に血管が浮き出し、その服をビリビリに破き捨てた。まだ膨らみきれない乳房が露わになり、アファリがそれを隠そうと身をよじる。
三人の男達の力で地にねじ伏せられたアファリの下腹を被う帯に男の指が懸かり、アファリの身体を押さえつける三人の男達も野卑た笑いを口元に浮かべ、食い入るようにアファリの股間に目をやる。
コンコンと軽く首領格の男の頭を堅いものが叩く。
煩そうにそれを払いのける。
その後にまた・・
「邪魔すんな。」
頭を上げた首領格の男の頬桁が強かに槍の柄に張り倒され、地面を滑る。
ザッと立ち上がる残った三人の男達に向け若い男が滅茶苦茶に剣を振り回して挑みかかる。が、その剣先は尽く躱される。
「ディアス、ランシール・・・」
それを見上げるアファリがか細い声を上げ、破き捨てられた自身の服を胸に掻き抱きその裸身を隠す。
ふざけやがって・・立ち上がった男達が剣の柄に手を掛ける。
血は見たくなかったが・・
それを見たディアスもまた傍らに槍を突き立て剣に手を添えた。
その時・・木の上から何かが降り落ち一人の男が朱に染まった。
「だれだ。」
ランシールが大声を上げる。
「賞金稼ぎのクラレス。」
二人の男を前にそこに立ったのは女。あっと言う間にその二人の男も斬り斃した。
「こいつ等はこの南の国ケルト王国の首都ケルンで悪事を働き賞金が懸かっている。」
クラレスと名乗った女は最初にディアスが殴り倒した男に縄をかけながらそう言った。
「そいつをどうする気だ。」
ディアスが静かに声を掛ける。
「決まったこと、ケルンに連れて行き賞金を頂く。
だが半分はあんたのものだ。後から持っていくよ。」
女は指笛を吹き、駆けつけた馬にその賞金首の男を乗せ上げた。
そこへノルトンの地脈の知らせで聞いたとローコッドとネルが駆けつけてきた。
ネルは自分の上着でアファリを包みその眼を覗き込んだ。
それに答えるようにアファリが首を横に振る。
それなら良し。
と言葉を残して立ち上がると、斬られた三人の男達の傷を見聞した。
「鋭い。」
一言洩らす。
「誰が・・・」
向こうに歩いて行っている女だ。
ディアスが馬を牽く女を指さす。
「クラレスという賞金稼ぎだそうだ。」