第四章 齟齬(13) 妖精の国(4)
ドラゴの亡骸を荼毘に付し、失意のルシールもワーロック達と一緒に行くことになった。
木々の密度が濃い。その濃いさに時に足下さえが見えぬ事がある。
カーター・ホフの森、妖精達が棲む所。
ルシールの胸に抱かれたウィーゴを含め、ワーロック達五人はそこに足を踏み入れた。
「難儀しそうですね。」
ワーロックが洩らす。
その声に反応したのか森の下生えがガサゴソと動く。
サッと緊張を見せるアレンをワーロックが手で制する。
「悪い者はいないはずです。」
その声の向こう、
「どこへ行く。」
白鎧の戦士達が現れた。
「オベロンの所だ。」
「通せぬ。」
アレンのぶっきらぼうな言い方に戦士達が色を成す。
「止めとけ、止めとけ・・お前達に俺は倒せない。」
アレンが顔の前に人差し指を立て横に振る。
その声にもかかわらず戦士達が剣を抜く。
「魔物の臭い。」
どうやらアレンの血に半分混じったランダの血を嗅ぎ付けたようだった。
「あなた達は・・ディーナ・シー。」
その横からルシールが声を掛ける。
ドワーフの赤ん坊を抱えたエルフに目をやり戦士達がひそひそと話し、剣を鞘に収めた。
「ドラゴとやらの・・・」
ルシールが頷く。
「以前は断っておきながら今さらなぜ。それにドラゴは・・・」
「亡くなりました。」
ルシールが悲しげに目を伏せた。
とにかく。とディーナ・シーが言い、ワーロック達を先導し妖精の宮殿に向かった。
オベロン、そして初めて会うティターニア二人してワーロック達を出迎えた。
歓待の宴が続く中、ワーロックはオベロンに声を掛けた。
「頼みがあってきた。」
「明日にしよう。こんな派手な宴は私も久方ぶりだ。今晩は楽しみ、明日・・・明日、聞こう。」
元来遊びと悪戯好きの妖精達、その宴に飽きることはない。ワーロックとティアは早々にその場を退席したが、アレンは残った。
翌朝、叩き起こされたアレンが眠い目を擦りながらオベロンの玉間に現れた。
「さて、頼みというのは、」
ワーロックが昨夜の宴のことをまだ話すオベロンとティターニアを見る。
「そうだったな。」
その声にオベロンもワーロックに目を移した。
「智の巨人ミーミル。」
「ミーミル。」
ワーロックの言葉をオベロンが鸚鵡返しにする。
「・・の住み処を探すのを手伝って欲しい。」
オベロンは話の続きを促す。
「ここに居る“光の子”ティア、二人の児は成したが、私にはカミュと共に潰えた本来の光が感じられない。」
オベロンが身を乗り出す。
「確かにティアの光はカミュに渡された。が、光の子同士が交わり新たな光が生まれたのでは・・・」
「私もそう思った。
だが、ティアに聞いた所、キュアは自身が倒れる直前にティアに“祝福”と称し呪いをかけた。
その結果生まれた子達の内、」
「ちょっとまて双子か。」
オベロンの問いにティアが悲しげに頷く。それに対し、
「それは目出度いことではないか。“光の子”が一度に二人も・・それは呪いではなく・・それをなぜ・・・」
「二人とも胸に太陽の紋章は持っていたそうだ。」
「良かったではないか。」
「ところが、一人の紋章は淡い光は放っていたが、もう一人の紋章は黒かったそうだ。」
「なぜだ。」
「光を滅する・・それがキュアの呪いだったと思います。」
ティアがワーロックの隣で悲しそうに言った。
「・・で、どうしようと。」
「ティアは命を狙われた。
本来の光の子が生まれていなければ、光を継ぐ者は未だティアだけ。となればそのティアの命を狙う者が、ティアが生きていることを容認するのか・・・」
「確かに危うさはあるな。」
オベロンも納得顔をする。
「そこで思い至ったのが智の巨人ミーミル。」
「ミーミルをどうしようというのだ。」
「どうこうする訳ではない。
ミミールが住む地は人の世とは隔絶していると聞く。そこにティアを匿う。」
「だが人には見えんぞ。どうやって探す。」
「確かに人には見えない。
ですが妖精にはどうでしょう。」
「ミーミルの属性は陽。
となれば陽の因子を持つ妖精・・・それならば・・・」
オベロンも賛同の意を示した。
ミーミルの泉を探し当てるまでワーロック、ティア、ルシールはここカーター・ホフの森に匿われることになり、その間アレンは下界を歩き回ることとなった。




