第四章 齟齬(10) 妖精の国(1)
ゴンドルス大陸の北の奥まった所。ランダに吹き飛ばされたティターニアはあちこちを彷徨い歩き一人の男に導かれその森にいた。
眼しいた女の妖精がいると聞きつけまず最初にそこに来たのはディオニュソスとダフネだった。
それを聞きつけた妖精達が次々に集まり、黒い森に在ったような妖精の王国となっていった。
森は寒冷地にあるにもかかわらず、妖精達の精によるものなのか、年中温暖で花に囲まれ、果実も良く採れた。
しかし、ティターニアは目を開くことはなく、ただひたすらオベロンの到来を待った。その間に森に宮殿を造り、また森の前に街城を持った町を造り、そこに邪念のない人間を住まわせた。
そうやって百数十年、待ちわびたオベロンの声。その声に目を開き、再び二人は恋に堕ちた。
相変わらず二人の間に諍いはあったが、以前のように頻繁ではなく、ごく小さなものに限られた。
前のことに懲りたオベロンは今度は森を護ることにも力を入れた。
既にティターニアが造っていた町に住む者達に妖精の加護を与え、作物の豊穣の為の手伝いまでをし、森の外壁とした。
森の中にはディーナ・シーと呼ばれる妖精とも人ともつかぬ戦士の集団を配し、その長としてタム・リンを指名した。
タム・リンは日中は森の外までを猛烈な速さで見回り、ディーナ・シーは幾つもの集団に別れ昼夜を問わず森の警戒を怠らなかった。
それでもお祭り好きの妖精達への娯楽の為月に一回、満月の夜だけ舞踏会を許し、自身もそれを楽しんでいた。
森の宮殿近くには妖精だけではなく、精霊達までが住み始めていた。
「何か聞こえるんだが。」
「耳鳴りでしょ。」
オベロンの声にティターニアが応える。昔はこの言い方でさえ言い争いと成っていた。が、今は違う。オベロンはニコニコと笑い、それを聞き流した。
やはり何か聞こえる・・その音に気を集中する。
声・・・人の声・・か・・・。
念を込めそれを増幅する。
(ワーロック・・か。)
(やっと気付いてくれたようですね。)
(かなり遠いようだな。増幅しないと良く聞き取れない。)
(こちらも同じです。)
(で、何の用だ。)
(手を貸して欲しい。)
(このままで出来ることか。)
(まずそちらへ行きたい。)
「エコーを呼べ。」
オベロンは近くにいたフェアリーに声を掛けた。
(念話を送り、返ってくる声を聞いてくれ。)
ワーロックからの念話にエコーが応じる。
(この声を頼りにこちらに向かえばよい。)
それからワーロック達の新たな旅が始まった。どこからかアレンが調達してきた馬で先を急いだ。




