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第四章 齟齬(9) 時と共に(4)

 それからも魔物は現れ続けた。

 「多過ぎはしませんか。」

 カイがふと洩らす。

 「確かに・・・何処かに大物が巣くっているかも知れません。」

 「この先にドワーフの村があったとドラゴに聞いたことがあります。」

 「あの門ですか。気をつけて行きましょう。」

 と言う側からまた魔物。

 「ここは我等が根城。この門は通さぬ。」

 手先がピンクの腕が大手を広げる。

 「何かついてる。」

 その腕には手首から肩まで真っ赤な鱗が立ち上がり縦向きに一列並んでいた。

 魔物の身体全体が暗がりから出てくる。

 「なんか変・・・」

 カチュが笑う。

 人形(ひとがた)・・ではある。が頭が男根。

 「笑うか・・我が姿を・・・」

 男の頭頂から白濁の液が飛びカチュの身体を捕らえた。

 「何これ・・気持ち悪い。」

 粘つくその白濁の液がカチュの身体にまとわりつく。

 「心配するな・・すぐに固まる。」

 その魔物は笑ったのだろう。

 「そしてお前等全員、取って喰ってやる。」

 「嫌だ・・・パリパリしてきた。」

 液体が乾くにつれカチュの身体が動かなくなっていく。

 「それ。」

 魔物は気合いをかけると、門の中から次々と新たな魔物が現れた。

 「邪神パレスでは・・・」

 カイはワーロックから受け継いだ魔物の知識を総動員した。

 それにシドが肯いた。

 「我が(しもべ)ブッカブーとアエーシュマだ。」

 水色の身体のブッカブーが十体以上、羽根を生やした汚い茶色の悪魔が十体程度。

 「これ何とかして。」

 迫り来る魔物達を前に動けぬカチュが悲鳴を上げる。

 それを庇うようにヴァルナが立ちはだかりイクティニケ呼び出した。

 呼び出されたイクティニケは五体のコンスを引き連れている。

 「ジーン。」

 カチュもまた幻魔ジンを呼び出した。

 ジンが四体、それぞれが武器を手に持っている。

 「カイ、パレスは貴方に任せた。

 だが召喚魔を呼び出すなら二体までにしておきなさい。」

 シドは注意を与える。

 「(ジン)を喰われすぎます。」

 じりっとカイがパレスに迫ると、まだまだといいながらパレスが後ろへ下がり、門の中に隠れ、そこに現れたのがドラゴンの身体に猫の頭と人の腕を持った魔物。

 「邪神オーカス。魔術を使います。」

 シドが言う側から小さな火の玉が数個飛んできた。

 カイの前に起った風の壁がそれを吹き飛ばす。が、その中の一個がカイの服を焦がした。

 それを主人の危機と感じたのかヴァルナが駆け寄ろうとする。

 「来るな。こいつは僕が斃す。」

 カイは大声を上げそれを制止した。

 カイの風の魔法はオーカスが操る炎によって下から煽られあらぬ方向に飛んでいく。

 魔術と魔術・・膠着状態に落ちていく。

 (ジン)は使うが衝撃波しかないか・・考える横をシドに固められていた樹脂を剥がして貰ったカチュがカイを助けるつもりか、つかつかと進み、長柄の柄でポカリとオーカスの頭を叩いた。

 それをオーカスが大仰に痛がる。

 「ハハハ・・・そういうことだ。」

 シドは数匹の魔物を相手しながらカイに声を掛ける。

 「そいつは魔術への耐性は強いが、物理的な攻撃には弱い。

 相手の素性(そせい)もよく見ることだ。」

 「これ、使ったら。」

 カチュがカイにコルブランドをポンと手渡した。その剣を見ただけでオーカスは逃げ腰になる。

 「僕は武器は・・・」

 と言いながらも軽くその剣を振る。それだけで背中を見せたオーカスのドラゴンの尾がサクッと斬れ落ちた。

 オーカスは脇目もふらず逃げに懸かる。

 そうはさせないとばかりに、カイはオーカスの行く手に鋭い風の壁を起ち上げ、一瞬怯んだ所を一気に斬り下げた。

 「そのままパレスを追いなさい。こちらは皆で片付けます。」

 カイの後をヴァルナが追い、カチュもまた。

 後ろに残るはブッカブー、アエーシュマ、それにオーカスが引き連れてきたルサールカとイヒカ。

 ウィーナは数体の魔物を水の中に取り込んでいるが、その数は増えるばかり。

 「斃しなさい。」

 シドがそれを叱咤する。

 「私は封じるだけで・・・」

 「中の圧力を上げなさい。それで斃せる。」

 言われるがままにウィーナが水球の圧力を上げる。と中に囚われた魔物が次々と潰れていった。

 シルマはピュトンと共に次々と魔物を斃している。

 その戦いを手助けするように土の中から槍の足が突き出る。

 「土蜘蛛・・カイの召喚魔ですね。」

 そしてシド・・彼が触るだけで低位の魔物は消し飛んでいく。

 一方、パレスを追ったカイ達の前には新たな魔物が現れた。それを相手にするのはイクティニケとそれに率いられたコンス。カチュもジンと共に奮戦している。

 パレスは相変わらず白濁液を飛ばしているが、それも残り少なくなってきたのかその量は徐々に減っている。それに(ジン)を使いすぎたのか喘ぐような動きにも成ってきた。

 その隙をカイは逃さなっかた。カチュに手渡されたコルブランドを一閃すると男根の頭がゴロリと地に落ちた。

 「あなたにも剣が必要ですね。」

 コルブランドをカチュに返すカイに魔物達を全て倒しここまで来たシドが声を掛けた。


 ドワーフの村の宝物庫。そこから妖気が漂い出ている。

 「この中ですか。」

 シドが顎をしゃくりヴァルナがその扉を押し開ける。そこには無数の餓鬼。それを見たカチュが悲鳴を上げる。

 「どきなさい。」

 シドがそれを押しのけ、扉の中に一歩踏み入れる。

 獲物・・その姿に餓鬼が群がる。その瞬間シドの身体から光が発せられ全ての餓鬼がボロボロと崩れ去る。

 「あなたは・・・」

 カイが驚きの目を見張る。

 「ただの魔術ですよ。」

 シドがそれに軽い笑いを返した。

 その目の前にボトッとヒトデのようなものが落ちた。

 「邪神モト。 首領はこいつでしたか。」

 シドがヒトデの真ん中から飛び出たピエロの頭を踏みつける。

 「これで勝ったと思うなよ。あのお方様がお前等を・・・」

 と言う間にモトの頭はシドの足に踏みつぶされた。

 その日は宝物庫で夜を明かし、次の道程、炎の回廊を目指した。

 炎の回廊と言うだけに灼熱の地を想像した。が、先に進めば進むほど気温が下がっていく。

 「変だな・・・」

 シドが首を傾げる。

 「涼しくっていいんじゃない。」

 と、脳天気なことを言っていたカチュも寒いと身を震わせだす。

 天井からはつららが下がり、床も凍り付きツルツルと滑る。

 「少し溶かしましょう。」

 シドが放つ火炎が床を嘗め、通り道だけは開いた。

 先に進むとあちこちで凍り付いた魔物が氷柱となっている。

 「もの凄い冷気ですね。」

 「あなたは結界を張りなさい、冷気を中に忍び込ませぬように・・皆が凍り付きます。」

 カチュとシルマはペガサスの背の雑嚢から外套を取り出しそれを羽織った。

 「こいつまで・・・」

 二匹ずつの毒蛇と百足を頭に持ち自身の頭は腹に備えた魔王サルガタナス。手に氷に輝く剣を持ち凍り付いている。

 「“氷の刃”・・こいつでも制御できなかったか。」

 「何ですかその・・」

 「“氷の刃”

 冷気を司る剣。この剣を鞘に収めきれれば冷気の力を使うことが出来ます。

 どうですカイ・・やってみますか。

 ヴァルナやアルゴスまでも使いこなす貴男ならば・・・」

 「アルゴスのことまで・・なぜ・・・」

 「私は人が持つ召喚魔が見えるんですよ。

 中位の魔物を使いこなせるのであれば・・・」

 「やってみます。」

 カイは結界を出た。

 「凍ったら溶かしてあげますよ。」

 シドは悪戯っぽく笑った。

 結界を出ただけで皮膚の上の水分が凍り付く。

 急がねば・・まず鞘を手にし、サルガタナスの手にある氷の刃に手を伸ばす。

 「指先に気を集中しなさい。身体は凍っても指先だけは動かすんです。」

 凍り付いたサルガタナスの手から氷の刃をもぎ取ると、その力に負けたサルガタナスの指が二本カランと乾いた音を立て床に壊れ落ちた。

 「集中です。

 そして手早く鞘に入れなさい。」

 鞘の大きさに比して剣はあまりに大きい。

 「大丈夫だ、入る。」

 カタカタと震えながらカイが鞘の入り口を剣先で探す。

 その頃にはカイの体の大半はもう凍り付いている。

 カイ・・大声を上げ結界を飛び出そうとするカチュをシルマが抱き留める。

 カチカチと堅いものどうしがふれあう音を立てながら剣先が鞘に収まった。

 「そのまま・・一気に入れろ。」

 剣は鞘に収まった。が、その時にはカイの身体は完全に凍り付いていた。

 シルマが抑えきれずカチュが結界を飛び出した。

 凍るわよ大声を上げシルマもまた・・・

 が凍り付くことはなかった。

 フーッとカイが大きな溜息をつく。

 「大丈夫だったの。」

 カチュがその躰にしがみつく。それを照れくさそうに押しのけながら、カイはこくりと頷いた。

 「行きましょうか。」

 シドは先に立って歩き始める。

 「魔物は。」

 「氷の刃が鞘に収まりここが元に戻れば再び火の海。ここは通れなくなります。

 急ぎましょう。」

 シドは先を急がせた。


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