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第四章 齟齬(5) 二つの出産(4)

×  ×  ×  ×


目の前が暗くなる。フラフラとしたティアの足取りが止まり。木の根に突っ伏した。

 その背後に今は姿を現した男がピックを逆手に迫る。

 カツンと乾いた音と共にその(ピツク)が弾き飛ばされる。

 (ピツク)を弾き飛ばした刃物はそのまま木の幹に突き刺さった。

 「クナイ・・・」

 暗くなっていく視界の中でその刃物を見定めたティアが口の中で微かに呟く。

 「ワーロック、ティアは頼んだ。」

 アレンはピックを持った暗殺者(アサシン)に飛びかかり、あっと言う間に足の下に踏みつけた。

「ティアに何をした。」

 アレンの問いには答えず暗殺者(アサシン)は舌を噛み切った。

 「チッ・・・」

 アレンが舌を鳴らしワーロックを振り向いた。

 「鴆毒(ちんどく)だ・・・」

 その眼にワーロックが悲しげに首を振る。

 「ほんの僅かでも瞬時に死に至る。それをここまで・・・」

 「助けられないのか。」

 「無理だ・・・たった一つの方法を除いて・・・」

 ワーロックは手の中の水蛇を見た。

 「まだ・・死ねない・・・」

 今にも消え入りそうなか細い声がティアの口から漏れる。

「方法は一つ・・この水蛇の(ジン)を受け入れること。」

 ティアが微かに頷く。

 「この水蛇は覚醒していないメリュジーヌ。貴女の(ジン)と融合し覚醒する。が、貴女もエルフでは無く龍族の一員となる・・それでも・・・」

 「子供達・・・護り・・たい・・・成長す・・・」

ティアの命の炎が絶えようとする。

 「ティアが良いって言ってるんだ。急げよ。」

 アレンがワーロックを急かすと、彼はティアの胸の上に水蛇を置き、その上にティアの手を組ませた。

 「宜しいんですね。魔物との融合・・・」

 もう声も出ないティアがほんの僅か頷く。

 その瞬間ティアの手の上に載せたワーロックの手がまぶしく輝く。その輝きにアレンは思わず目を閉じた。それでも瞼を通した光がその血管を浮き立たせて眼の中に飛び込んでくる。

 光が消え、アレンがティアを見る。と、さっきまでとは違う静かな寝息を立てている。

 「何も変わらないじゃ無いか。」

 ワーロックは静かにティアの白いドレスの袖をまくり腕を見せた。

 「鱗・・・」

 輝くように白い蛇の鱗が・・

 「自身の(ジン)と魔龍メリュジーヌの(ジン)。今、二つの(ジン)がティアの身体の中で葛藤している。それが完全に融合するのに暫く・・その上でメリュジーヌの(ジン)を完璧に制御する(すべ)を覚えなければならない。

 ティアの霊力にもよるが、それまでは魔龍の身体とティアの身体が同居する。」

 「この鱗か・・・」

 アレンはドレスの袖を戻しながら嘆息する。

 「ティアの霊力は強い。本来緑であるはずのメリュジーヌの鱗が白くなっている。

 そして・・・」

 「そして・・・」

 「お前には解るだろう、アレン。

 彼女の階位(レヴェル)が。」

 「魔物で言えば中位の上。」

 「元々メリュジーヌの階位(レヴェル)は覚醒したとしても中位の下の方のはず。覚醒無しに階位(レヴェル)が上がっている・・であればこれからもまだ伸びる。」

 「暫くはここか。」

 アレンがティアから目を離しワーロックを見る。

 「そうなる。まずティアが目覚めるまで。」

 「何時まで・・」

 「二つの(ジン)が完全に融合するまで。」


×  ×  ×  ×


 ティアが去って三月(みつき)、出来上がった壮大な政治処、枢密院に十二人の枢機卿、それに加えてラルゴとデルフまでが集まった。

 「二人に一人。」

 「子供の命までか・・・」

ホンボイが言い切るのにラルゴが異を唱える。

 「ティアが遺した孤児達・・それまでも淘汰されねばならんのか。」

 ラルゴの強い語調に関係なくホンボイが頷く。

 「一人は俺が育てる、ここから遠く離れた所で。」

 ラルゴが息巻く。

 困った顔をするホンボイの横からヨゼフが静かに話し始める。

 「亡きティア様のご意志は・・・

 乳母達から聞いている・・生まれ出て三ヶ月。既にお二人は争いを始めている。このままではティア様が命を懸けて生み出した光の子が、共倒れとも成りかねません。」

 「だから俺が・・・」

 ラルゴの声を手で制してヨゼフが続ける。 「ティア様のご意志は、カミュ様が遺した光の種を育てること。その為にわざわざここタンカを選んだ。

 そして、それを宗教にまで育てることによって光の種を守ろうとした。

 貴男は軍の総帥、その貴男が居なくなって、光の子を奪おうとする近隣三国からティア様の意志を護れますか。」

 ラルゴが言葉に詰まり俯いた所でヨゼフは言葉の調子を変える。

 「捨てる・・それでも不安は残りますが遠くに捨てるだけです。運が良ければ、命に縁があれば・・・」

 そこまで言ってヨゼフは下唇を噛み、肩を振るわせた。

 「解った・・・枢密院の意見に・・従う。」

 ラルゴも遂に折れた。


 「早急に準備だ。

 上の子セフィロ、黒い太陽を胸に持つ子、この子は我等に災いをもたらす。

 闇の緒を引くものはすぐに処分する。」

 「処分・・・」

 ヨゼフの後ろから声がする。

 「お前は捨てるだけと言わなかったか。

 それを処分だと・・ラルゴも俺も黙ってはいないぞ。」

 それはボルスの声だった。

 「言い方を誤っただけです。あなたの目の前でこの子を捨てる算段をすぐに致します。」

ヨゼフは慌ててその場を取り繕った。


 宮殿の中庭に大きな鳥が降り立っている。ヨゼフはその足下にセフィロを寝せた籐籠を置き、ごく小さな声で

 「頼んだぞマルファス。」

 と大きな鳥に話しかけた。そしてボルスに向き直り、

 「南にも大陸があると聞きます。そこは温暖で人が住みやすいとも・・そこまでこの鳥に運ばせます。

 運が良ければ・・・」

 そう言うヨゼフとそれを見守るボルスを残して大きな黒い鳥は飛び立った。


×  ×  ×  ×


「イシュー、どうだいその弓と矢の調子は。」

 「すこぶる良い。」

 「ヤフー人の貢ぎ物と言うからどんなものかと思ったが・・・」

 「そんなに馬鹿にするものじゃ無いよ。」

 弓場でのイシューとダイクの会話。

「アポロンの弓と金の矢。

 魔物にだけ効果があるそうだ。」

 イシューは的に当たった矢を集め始め、

 「しかも矢篭には常に二十四本の矢がある。」

 ふと空を見た。

 「ダイクあれが見えるか。」

 「でっかい・・カラス。

 何か下げて居るぞ。」

 ダイクの声の間にイシューはキリキリと弓を引き絞る。

「無理だよ。この距離じゃあ届かない。」

 と言う側から金属音を発して矢が飛んだ。 大ガラスの飛び方が怪しくなり、そして落ちていった。

 「大した威力だな。

 落ちたって事は魔物か・・魔物じゃないものを()つとどうなるのかな。」

 「お前を()ってみようか。」

 イシューがダイクに弓を向けるとダイクは慌てて自分の胸の前で両手を振った。

 「それよりあの篭、気にならないか。」

 「確かに。」

 二人は目配せをした。だがそこにラファルが駆け込んできた。

 「王様がお呼びです。」


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