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第四章 齟齬(3) 二つの出産(2)

 ドンとランシールが床を叩く音がする。

 「ここからは女の世界。あなた達は邪魔になります。どうぞお引き取りを。」

 カトリン・ル・フェイの声が凍るほどに冷たくなり、その声と同じ程冷たい目が男達を見た。

 その視線には魔力があるのか、どうしても彼女の意志に逆らえない。

 「それでは・・・」

 彼女は傍らの産婆に声を掛け一枚の紙切れを渡した。

 「それらを集めてください。

 それと男の人達は太い木の枝を一本、生木の皮を剥ぎ荒縄をそれに巻き付けてください。シーナが舌を噛まない為の用心です。」

 その言葉にも逆らえず、ディアスが木の枝を一本持ってきた。

 「度の強い酒を。」

 それにはローコッドが応じた。

 その間に産婆がカトリン・ル・フェイに言われたもの、毒草か何かの根やら、干涸らびたヤモリ、毒を持ったガマガエルやらを集めてきた。

 「オリーブオイルを鍋に入れてそれらをトロトロと弱火で煮てください。

 シーナの苦痛を和らげる為です。

 半刻ほどで煮上がります。その間に準備を。」、

 カトリン・ル・フェイは産婆を促した。

 産婆が深皿に短刀やら鋏やらを入れていくのが前の部屋で動けぬ男達の目に見えた。

 「刃物は要りません。」

 それを見たカトリン・ル・フェイの声。

 「私の手で直接腹を探ります。

 それには・・・」

 彼女は深皿の酒に火を入れ自身の手をかざした。

 苦痛の声と肌を焼く臭いが漂う。

 「彼女の下腹をきれいにして酒を掛けて。」

 苦痛の呻きと共にカトリン・ル・フェイの声が聞こえる。

 それから暫く、カトリン・ル・フェイは一人の赤児を抱いて現れた。

 赤児を抱く手は焼けただれている。

 「シーナは頑張りました。今は安らかに眠っています。

 向こうに行って誉めてやってください。」

 産婆に産湯を使わせる為に赤児を渡し、カトリン・ル・フェイはガックリと膝を着いた。

 「(ジン)を使いました。私も・・・」

 彼女はその場で突っ伏した。

 衝立の向こうに男達が走る。そこには青白い顔をしたシーナが横たわっている。

 「こんな方法しか・・・」

 ランシールはその場で泣き崩れ、他の者達も呆然と立ち尽くした。そんな中、

 「サムソンの血を残す為・・・」

 ディアスが静かにシーナに近づきその手を取った。

 「・・・温かい・・・シーナは・・・」

 「生きているよ。私もあんなのは初めて見た。」

 産婆がポンとディアスの肩を叩いた。

 産婆の話では消毒と言って己の手を二度炎にかざした。その時の肌の焼ける臭いがディアス達の鼻に届いたのだろう。

 そして飾り毛の無くなったシーナの下腹に掌を宛がうとその手がずぶずぶと腹の中に沈んでいった。その手を暫く動かすと赤児をその手に持ち上げた。血はシーナの身体の外に流れ出ることはほとんど無かったが、腹を割られ、その底をまさぐられるシーナの苦痛はいかほどだったか。だが涙は流したもののシーナはそれに耐えた。

 「そして、見たとおりさ。

 二人とも助かった。」

 「マルス・・」

 ディアスがか細い声に耳をそばだてる。

 「意識がなくなりそうなときにサムソンが来てくれた。そして名を武神マルスと・・・」

 そう言ってシーナもまた眠りに落ちた。


 火傷の苦痛に呻くカトリン・ル・フェイの手を男達が寝ずに冷やす。

 そして朝、彼女が目を覚ました。

 「カトリン・・・」

 ディアスが頭を下げる。その目からは一条の涙が・・・・

 「まだ後が大事です。後の感染を恐れ私の手を焼きました。ですがまだ安心は出来ません。シーナの胎内には血が残り後産もまだです。

 それを良く介抱してあげなければ。」

 起き上がろうとするカトリンをディアスが床に押しつけた。

 「ありがとう・・俺はてっきり・・・」

 「誰が死ぬと言いましたか。私は児が見られると言ったはずです。」

 苦痛の表情の中でカトリンがニコッと笑った。

 「貴女の火傷は・・・」

 「このままです。」

 その横からのローコッドの声にカトリンが応える。

 「貴女の白い魔力で・・・」

 「出来ません。私は他の魔術師が出来ない術を手に入れました。その代償が自身の傷を癒やすことが出来ないこと。

 そんな事より彼女を・・・回復には一月(ひとつき)以上掛かります。その手当てが・・・」

 「今日は寝ていてくれ。」

 ディアスは力強くカトリンの身体を寝床に押しつけた。


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