第三章 躍動(2)
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「あいつは・・・」
「あんたが思っているような者じゃない。」
ディアスの呟きにノルトンがボソッと応じる。
「今頃はベレトと闘っているよ。」
アファリの案内でアシュラ族の村を目指す道々ディアスとノルトンはアレンについて話していた。
「あいつにはあいつなりの目的がある。
魔物を倒すことに依ってしかその目的は達せられない。」
「どう言うことだ。」
「心は読んだ。だが、あいつが言いたがらぬことを儂が言うつもりはない。
まあ参考までにデーバを斃したときの言葉だけは教えてやるよ。」
「なんて言ったんだ。」
「“もう、この程度じゃ駄目か”と洩らしておった。」
「あれが村。」
アファリが森を出た所で高台を指さした。
遠くに見える高台、そこにはよく目をこらさないと見えはしないが、確かに村らしきものが存在する。
「村長が居る・・その下・・あなた達・・そこで待っている。」
森の端の木々がガサゴソと動く。
「私の仲間・・来た。」
三・四人、木陰に見え隠れする。その中の一人がディアス達の前に降りてきて、アファリに何か言い、アファリはその場を去った。
「アファリは巫女様達と長老会への報告に送った。ここからは私達が案内する。」
女は流暢な言葉で喋った。
「待ってくれ森の南、外の集落には私達の仲間が居る。彼らも一緒に。」
「お前達の仲間・・・」
「そうだ。彼らも一緒でなければ行くことは出来ない。」
「解った。使いを送る。その者の名は。」
「ローコッド・・他に、四人。」
「目印は。」
「その中にドゥリアードが居る。」
「ドゥリアード・・森の精・・そして知の民。
丁寧にお迎えしなければなるまい。」
女は強く頷いた。
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女だけの部族、アシュラ族・・・傭兵たる女戦士、それと魔物狩り。二つの顔を持っている。
普段は狩りと農耕で共同生活の生計を立て、戦士としての訓練を行っている。それが黄色の旗を持った使者が来ればその時から戦士に、魔物狩りにと変わる。
その性格は粗暴ではない。が、自身等の生活を守ることには非常な執着を見せる。他者・・特に男が村中に入ることを嫌い、無断で村中に入れば、捕らえ殺害することもある。
子孫は年に三度だけ、他部族の男を入れ子作りに励む。女は十六で男を迎え入れ、子を産む。生まれた男児は人買いに売り、経済は傭兵、魔物狩り、そしてこの売買で賄っている。
民度は高く、部族の性格からか他部族の言葉も理解できる。が、流暢なのは主に戦士。魔物狩りの隊は他部族との意思の疎通をそれ程必要としない為、片言程度の会話に終わる。
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「私の名はネル。」
女が話し出した。
「村の戦士です。アファリは魔物狩りの隊。
言葉が可笑しかったでしょう。」
にっこりと笑うネルの笑顔は美しい。その美しさも武器になるのだろう。
ではなぜ。とディアスが質問する。
「あなた方を見ていたのはあの子と私・・その他に二人の戦士。
あの子は魔物狩り。魔物を狩れる者は特殊な能力を持っています。ですからあなた方の元へ送りました。」
権能か・・・ノルトンがふと洩らす。
「それも男を知ると弱くなります。
ところであなた方は魔物狩りの玄人ですか。」
ネルの質問に、いいや。と首を振り、別れたアレンだけは別だがな。とディアスが付け加えた。
岩場が続く道。そのあちこちに監視台がある。それはよそ者の侵入に備える為だろう。ディアス達は物珍しそうに辺りを見渡した。
「よそ者が入れるのは一番西の集落まで。普段はそう決まっている。」
「集落は幾つ・・・」
「女王様がおいでになる所も含めて五つ。
使者と男達は一番西の集落にだけ迎え入れます。ですがあなた方は特別に南東の集落から入って貰います。」
頷くディアスに
「魔物狩りでなければこの森に入った訳は。」
と、ネルが問いかける。
「あなた達の領域を通して貰いたい。」
「通ってどこへ。」
「東の奥。」
そこまで話した所で彼女が言う南東の集落の入り口に着いた。
「後は女王様がお聞きになるでしょう。
こちらへ・・・」
ネルは先に立って大きな家へと案内し、
「お仲間がお着きになるまでここで滞在を。」
と告げて家を出て行った。




