第三章 躍動(1)
馬に乗った騎士、魔王ベレトは新しい棲み処を得る為、森の中を南に向かっていた。その廻りにラッパを手にした四体の低位の魔王ツィツィミトルをはびらせ、それを数体の悪魔サレオスが囲む。前衛には幽鬼ストリゴイイ、そして偵察隊として邪鬼ハダッハを広く散開させていた。
いつものように登場のラッパを吹こうとするツィツィミトルを制止し、静かに道程を進めていた。
突然、灰色の馬の足が木の根に絡み穫られた。
いななく馬、それを見下ろす木の上から声がする。
「待っていたよ。随分遅かったな。」
ベレトが馬上から木を見上げる。
木と思ったものに眼がありそれがぎょろりと動く。
「グリーンマン。」
嗄れた声が森に響く。
「階位は吾より下、勝てると思ったか。」
全頭の兜の奥から馬鹿にしたような声が聞こえる。
「お前には勝てずとも馬の足は止められる。」
声と共に一人の男が木の高みから投げた二本のクナイの後ろをベレトをめがけ逆さに振り降りてくる。
フン。と、鼻で笑いながらベレトがその攻撃を躱す。
「本命はこっちだよ。」
アレンが腰から抜いたナイフがベレトの馬の頭に突き刺さった。
馬が竿立ちになり次の瞬間ガクンと地に着いた前足が折れた。
「カワンチャ。」
アレンの着地点に集まろうとするツィツィミトルを牽制する為、すかさず地霊を呼び出す。
集まってくる両手に二種の斧を持ったサレオスはグリーンマンの拳が殴り倒す。
馬は倒れた。だが、ベレトはその背から飛び降り槍を構える。
「ネヴァン。」
アレンは召喚魔をもう一体呼んだ。
「どれだけ呼ぼうと同じだ下位の魔物に儂は倒せない。」
ベレトが吠える。
「グリーンマンはツィツィミトルの相手、ネヴァンはサレオス。集まってくるお前の手下はカワンチャだ。」
「儂は誰を相手にすれば良いのかな。」
「俺だよ。」
「人ごときが・・・」
ベレトがもう一度吠える。
「役不足かな。」
アレンはもう一度クナイを投げた。
「効かぬと行って居ろうが・」
ベレトがそれを軽く弾いた。
その間隙を突いてアレンがナイフで斬りかかる。
「無駄だ・・死ね。」
ベレトの槍が唸る。しかしそこにはもうアレンの姿はなかった。
「遅いんだよ。」
飛び上がりベレトの背後に回ったアレンが抜き打ちに鬼切り丸を振り降ろす。
森中に響き渡るような断末魔の声を上げベレトが塵となって崩れ落ちていく。
「フン・・口ほどもない。」
笑いに唇を歪めるアレンの廻りに生き残ったベレトの配下が集まってくる。
「ちと数を読み誤ったかな。」
アレンが苦笑いを見せる。それを取り囲むサレオスの胸から鋼鉄の槍が飛び出る。
「土蜘蛛・・・」
「アレンさん。」
遠くから声がする。
「カイか・・・」
その声にアレンも呼びかける。
「ワーロック様も一緒です。」
「お前が戦っていると聞いてな。」
森の木々を透かして見えるカイの後ろからもう一つの声。その前を緑の髪の毛を振り乱した妖鬼が駆けてくるのが見える。その両横にはいつ復活したのか前鬼と後鬼、アレンを目指すストリゴイイとハダッハを蹴散らしている。
「助かったぞ。」
アレンが大声を上げた。




