第二章 新天地(12) 塔の美女(6)
太い血管が浮き出た筋肉質の黄色い躰に爬虫類のような顔が乗り、躰の中央が緑。背中からは負うように巨大な鉤爪を生やした魔物。
「デーバだ。その前に居る角を生やし長い鉄の爪を付けたのがダーエワ。」
説明を続けるアレンの後ろから両手に斧を持った一人の女がダーエワに斬り付けた。
「私の名はアファリ・・アシュラ族の者・・助太刀する。」
「武器は。」
アレンが怒鳴る。
「ルーンが刻まれた斧。」
女は二本の斧を振り回した。
強い・・あっと言う間にダーエワを一体葬り去った。
「アシュラ族の者がなぜ・・・」
ディアスが戦う女に疑問を投げかける。
「見ていた・・お前達のことを・・・敵ではない。」
「個人の判断か。」
「難しい言葉・・解らない。」
「ごちゃごちゃ言ってないでさっさと片付けるぞ。ダーエワが来たと言うことは、塔の上に行ったのはシャイターン。階位はカワンチャと同程度。手こずっているはずだ。」
アレンは怒鳴りながらデーバを目指した。
多数のダーエワはディアス、シーナ、それにアシュラ族の女アファリが相手をする。
「鵺は。」
「その程度の数なら必要ない。お前の剣で一気に倒せ。」
シーナの剣が雷光を放ち、それにうたれたたダーエワが数体黒焦げになり、そして塵へと返っていく。
一方、アレンが相手するデーバは石壁を足場に飛び回り、硬い拳を突き出してくる。その一撃がアレンの頬をかすめた。
「やるねぇ。」
アレンがニヤリと笑う。
もう一度、デーバの攻撃。その軌道にアレンが大振りのナイフを突き出した。だが・・
「止まれるのか。」
空中に停止したデーバの巨大な爪が伸びアレンの躰に傷を付ける。
「いろんな技を見せてくれる。」
飛び退きながらアレンはニヤニヤと笑っている。
その躰に向けまたデーバの爪が伸びる。
「攻めてるときが・・」
アレンは背中の鬼切り丸を抜き打ちにはなった。
「隙が出る。」
その後にぼとっとデーバの首が落ち、これも塵へと返っていった。
「階段の上。」
シーナの声。
「ネヴァンとカワンチャ、それにル・フェイに追われたシャイターンだ。」
その敵にはディアスが挑んだ。右手にオートクレール、左手にグングニールを持ち、ユニコーンの背から次々と魔物を倒していく。 減っていくシャイターンの後ろから淡い光が追ってくる。それに捕らわれたシャイターンが凍り付いたように動かなくなる。それどころかその躰がどんどん縮んで行く。
「封じました。」
若い女の声。
「もう魔力も妖力もありません。後は御勝手に。」
淡い光に包まれた美女・・・その声が終わらぬうちにアファリの斧が小さくなったシャイターンを土に返していく。
「そこまでしなくても・・・」
シーナがそれを止めようとした。が、
「村の者・・たくさん殺された。」
アファリは全てのシャイターンを潰した。
「さて約束通り俺はここまでだ。」
アレンは鬼切り丸を鞘に収め意味ありげな眼でディアスを見る。
はっとそれに気付きディアスがル・フェイを見つめていた眼をアレンに移す。
「白魔術師が解放された今、ベレトは早々に逃げるだろうよ。
ディアス、その魔術師をお前が造ろうって村に誘ったらどうだ。」
アレンはもう一度意味ありげな目配せをした。
「行くか。」
そのアレンの手を握りノルトンが念を込める。
「何のつもりだよ。」
アレンがその手をふりほどく。
「そうかい、そうかい。」
ノルトンは訳知りげに二度頷いた。
「アシュラ族の地・・無事に通れるだろうよ。ベレトはほっといてもな。」
アレンがニコと微笑む。
「最後に一つ・・名前を聞かせてくれないか。」
アレンはル・フェイの顔を見た。
「カトリン・・カトリン・ル・フェイ。」
既に身に纏った光を消した女が静かに言った。
「カトリンか・・ディアスを宜しくな。」
そう言ってアレンは一行から別れた。




