第二章 新天地(9) 塔の美女(3)
馬を牽くディアスを中央にその前をアレンとノルトンが固め、身重のシーナはディアスの愛馬ユニコーンに跨がっている。
「嫌な臭いだ・・・」
ノルトンがぽつんと洩らす。
「ここも昔は何の変哲も無い森だったはず。それが邪神ルグゼブの影響で魔物が蔓延った。」
「出るぞ、その魔物が。」
アレンが注意を喚起し、出現する魔物を倒す。
端まで行ったが良さそうだ。と言うディアスの言に従い一行は森の北端に道筋を変えた。
森の端、アシュラ族との堺に向かう間に数々の低級な魔物を倒し、そこから東を目指す。
「誰かに見られている。」
シーナがディアスに耳打ちする。
「アシュラ族かな・・監視の為に・・・」
ディアスも辺りを見回す。
木々の間に微かな影・・・。
「弓を持っているぞ。」
アレンも近くに寄ってくる。
「シーナ、馬を下りてくれ。標的になる。」
ディアスが促す。
シーナが馬を下りたその空間に矢が一本・・・
「警告だ・・敵と思われているようだな・・少し南に下がろうか。」
ディアスの言に従い一行の道筋が南に下がった。それでもその影は付いてくる。が、先ほどのように矢は射てこない。
「追い込もうってことかな。魔物の森に。」
アレンが笑う。
「随分弱気だな。」
「無益な殺生はしないとも考えられます。」
その横からシーナ。
「とにかく先を急ごう。」
そしてディアス。
「邪悪な気がある。」
暫く進むとノルトンがボソッと言った。
「いよいよ出るかな・・強いのが。」
アレンはその声にも平然と構えている。
「その後ろに聖なるものの光。」
ノルトンが続ける。
「聖なるもの・・・」
アレンが首を傾げる。
「土に・・いや土中の岩に突き刺さっている。」
「聖なる武器ですか。」
「剣・・・一本の剣が見える。」
ノルトンが何かを見透かすように眼を細める。
「聖剣オートクレール。
ベレトは自身を滅するものを封印し、そこに自分の配下を置いた。
それがこの邪気と光の源・・・
邪気・・大勢いる・・
主たるものは魔王ウィンペ・・その配下に低位の悪魔アエーシュマが数体、それに・・これは・・スケルトンなのかカワンチャなのか・・・」
「カワンチャだと助かるな。俺の召喚魔にする。」
それでもアレンは笑っている。
「別々に動いている。」
「だとするとカワンチャ・・・俺がそいつをやる。
今後の助けになる。」
「なぜカワンチャと解る。それに助けとは・・・」
ディアスがアレンに質する。
「スケルトンとカワンチャ、どちらも同じ骸骨戦士の姿をしている。だがカワンチャとはここで死んだ戦士に、魔物からこの地を守る為に地の霊が取り憑いたもの。それに対しスケルトンとは恨みを残して死んだ戦士がそのまま邪悪な鬼になったもの。だから他の魔物と別行動をとっているのであればその骸骨戦士はカワンチャ。
そいつは俺の中で増殖する・・一体だけで構わん。残せよ。」
ノルトンがアレンの言を肯定するように頷いた。
「たまにはまともなことを言うんだな。」
ディアスがアレンの顔を見て笑った。
「では先にカワンチャですね。」
ふてくされた顔をするアレンを取りなすようにその横でシーナも笑った。
ディアスとアレンが共同でカワンチャを斃し、その間にシーナがアエーシュマの相手をする。
「よし穫った。」
のアレンの声にディアスはシーナの助太刀に入った。
「俺も行くよ。」
軽く言いながらアレンもその中に入る。だが、アエーシュマは斃しても斃しても湧き出るように現れる。
「きりが無い・・ノルトン親玉はどこだ。」
地面にぺたんと座り込んだノルトンがアレンの問いに答え、指さす先にクナイが飛んだ。
銀色の躰に内側が真っ赤な黒いマントを纏った男が現れる。
「お前がウィンペか・・こそこそ隠れやがって。」
アレンの声の先から魔王はまたも土に同化しだし、姿を消そうとする。
「面倒。」
吠えるようにアレンは言い、土から飛び出した猛牛の角が生えた赤い頭に飛びついた。
「無茶をするな。」
ディアスがその姿に声を掛ける。
ウィンペの角が伸びアレンの肩を刺し貫く。それに構わずアレンはウィンペの額に伸びた二本の角の間に指先を宛がう。
「人のことよりそっちをやっつけてしまえ。」
その声の横から頭をアレンの鋭い爪に貫かれたウィンペの断末魔の叫びが響く。
「チッ・・少々効いたな・・・・」
アレンが左の肩口を押さえる。
その傷から流れ出す血が僅かに赤みが濃くなったように見えた。
「傷はどうする気・・私達の仲間には白魔道師はいないわよ。」
シーナが駆け寄り声を掛ける。
「布でも撒いておく。」
アレンが片肌を脱ぎ雑嚢の中から長い布を取り出し、自分の肩に巻き付けようとするのをシーナが手伝った。
「さて・・剣を取りに行くか。」
包帯代わりの布を巻き付けアレンは立ち上がってディアスを見た。
「折れた剣の代わりに丁度いいだろう。」
「まだ俺に戦えというのか。」
「ああ、但し魔物とな。」
「命は・・・」
「奪わなくてもよかろぅ。
魔物だけを倒し、人を助ける。
サムソンのようにな。」
フッと苦い笑いを見せながらディアスは岩に刺さった剣を抜き取った。
その剣を空にかざす。
刀身は金色に輝き、刻み込まれた文様がキラキラと輝いていた。




