第二章 新天地(8) 塔の美女(2)
森の中は木漏れ日に照らされ思ったより明るかった。
「これだけの木々が儂等を助けてくれる。」 「どう言うことです。」
ランシールが疑問を挟む。
「ル・フェイとやらと連絡が取れる。」
(木の根を介した地脈ですか。)
突然ドリストの頭の中に声が響いた。
「そうじゃ。」
その声に廻りの皆がきょとんとした。
「ル・フェイじゃ。話が聞ける。」
「なぜ幽閉されている。」
最初の質問はディアスの口から出た。
暫く時間を置き、
「低位程度の魔物であれば封印し捕らえられるそうだ。
それをベレトに悟られ森の外を歩いている所を捕らえられたらしい。」
「戦えば良かったろうに。」
今度はアレン。
「彼女を罠に陥れたのは人。
金目当ての人の罠に落ち、今は呪文の効かぬ結界の中に居るという。」
「また人との闘いか・・・」
ディアスが俯き加減に溜息を漏らす。
「いいや、その心配は無い。そいつ等はベレトに報酬を貰うと森の外に去ったそうじゃ。」
「魔物を捕まえられるのであればアシュラ族への手土産としてはこれ以上のものはないな。物証を示せる。」
アレンの声に、
「罠かも・・・」
シーナが疑問を挟む。
「必然性がありません。
奴らは私達の目的・・・」
「シッ。」
ランシールの言をディアスが止め、
「こっちの会話はル・フェイに聞こえているのか。」
と、ドリストにただす。
「聞こえぬ。地脈以外の全てをここの木々が遮断している。」
「なら良し。」
ディアスがランシールの眼を見ると、再びランシールが話し出す。
「私達の目的を彼女は知らないはずです。それは森の外にいた私達に向こうから話しかけてきたのがその証拠です。
それに私達を害するつもりであればこんな回りくどいことはしないでしょう。
それを確かめる為に二つの質問をしてください。
一つは彼女の素性。
もう一つはなぜ魔物はあなたを滅せようとしないのか。」
ドリストの口を経てル・フェイの答えが返ってくる。
「彼女は魔女・・とは言っても人を害する魔女では無いそうだ。言ってみれば“厄祓い屋”・・村々を廻りそこの厄を祓っていたそうじゃ。」
「俺の同類か。」
アレンがニヤリと笑う。
「使える魔術は白魔術と僅かの黒魔術。その拠り所は女神アールマーティ。戦闘力はそれ程高くないそうじゃ。
じゃが中位の魔物であれば封印することが出来る。
何でもかんでも斃してしまうアレンとは随分違うようじゃな。」
ドリストの言葉にアレンがふくれっ面を造りそっぽを向く。
「もう一つの質問には・・・」
シーナの声。
「ベレトとアールマーティ、同じ中位と上、その階位は遥かに違う。戦えば瞬時にベレトを封印できるそうじゃ。それを恐れてベレトは人を使い魔術の効かぬ場所に彼女を幽閉した。」
ランシールは暫く考え、
「解りました・・・罠とは考えにくいです。彼女の話はつじつまが合っており、ベレトの動きにも必然性があります。
なぜならば、彼女は魔物を封印することを生業とし、彼女の後ろ盾である女神はベレトの力を凌ぐ。そんな魔術師が自分が支配する森の近くに来た。封印されることを恐れたベレトは人を使い彼女を罠に陥れ幽閉した。
ドリスト様、結界の中にそれを張ったものが入るとどうなるのですか。」
「結界の中では外に張る結界には守られないものじゃ。」
「では、ベレトは彼女を幽閉する以外に手立ては無い。彼女を脅すことも出来ず、私達を罠に誘わせることも出来ません。」
「幽閉されている場所を聞いて行ってみればいいんじゃ無いか。
もしも罠ならば、二つとも斃す。」
「荒っぽいな。」
ディアスがアレンの顔を見る。
「アシュラ族に対する物証が無くなるぞ。」
「ル・フェイがいる。彼女なり、その屍体なりを持っていけば良い。
まあ、俺には捕まえることは出来ても殺せはしないがな。」
「地図を見せろと言っている。」
ディアスが詳細な地図を開く。
「儂の目を通して地図を見て居る・・・
ここだ。」
ドリストは森の奥、険しい岩山の一角を指し示した。
「ここの尖塔に幽閉されているらしい。
だが問題はすぐ近くにベレトの館があること・・ベレトに悟られずいかにこの塔に近づくか。」
そこでランシールが地図を指さす。
「アシュラ族とベレトの支配地域の境ぎりぎりを通り西から回りましょう。
少々魔物を倒してもそれはアシュラ族の仕業と思わせる。」
「それではアシュラ族に難が及ぶぞ。」
「その為にぎりぎりを通ります。
アシュラ族の地に踏み入ろうとする魔物は私達で倒します。
アレンさんとシーナさん、魔物退治には慣れていると聞きました。」
「俺を使おうってか。」
「ハイ・・主力はあなたです。あなたで無ければこの役は出来ません。」
「煽ててくれるねぇ・・・解ったよ、俺が先頭に立つ。だがシーナは大丈夫か・・腹の子は。」
「大丈夫です。ティアの光を受けて以来ずっと安定しています。」
「シーナは馬に乗せよう。」
アレンがディアスを見る横から、
「帰した方が・・・」
ランシールは自身の前言を翻し、心配そうな顔をする。
「本人が大丈夫って言っているんだ。貴重な戦力だよ
だが一つ提案だ。お前はここから帰れ。帰ってノルトンと交代しろ。」
なぜ・・と言う顔でランシールがアレンを見る。
「シーナの雷の剣、ディアスのグングニールは魔物に通じる。が、おまえはその武器を持たない。
それに今後、魔物が相手となれば魔術への対策が必要に成る。」
「では、ローコッド・・・」
言いかけるランシールをアレンが手で制する。
「ローコッドは攻撃の魔法、守備は土を扱えるノルトンに限る。」
「今後は儂も足手まといかな。」
そこへドリストの声。
「連絡役が要る。」
「その必要は無かろう。ル・フェイの念話で十分だ。」
「ですが、私達の話が筒抜けに・・・」
ランシールが困惑の表情を見せる。
「木々の話しではル・フェイの話しは真実のようだ。疑わずとも良いようじゃ。」
「ランシール、ローコッドに会ったら近くの集落に入るように伝えてくれ。自分達の身の安全もだが、集落が襲われる可能性も出てくる。」
ディアスはそう言ってランシールとドリストを送り出した。




