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第一章 戦後譚(1)

 闇との戦いはカミュやディアス達の活躍で終わった。

 だが、ロニアスの村から旅立った三人の内カミュは邪神ルグゼブを倒す戦いに倒れ、サムソンはもう一人の光の子ティアを護る戦いに逝った。残ったのはディアス一人。彼は闇が去った喜びよりも、友をなくした喪失感を大きく持ってログヌスの城外に立った。

 その横を美麗な馬車が通り過ぎる。

 その窓を覆った(すだれ)が微かに開き、美しい女性がディアスを覗き見た。

 「アーサー王の王女、エラ様だよ。」

 そう言ってダルタンがディアスの肩を叩き、城内へと向かった。

 王宮へと(いざな)うハーディの声を断りディアス達はその場を去った。


 ハーディが広い玉座の間に入ると、そこにはカルドキアとの戦いを制したアーサーが玉座に座り、その両脇には王子ヘンリーと王女エラが座っていた。そして、右手にはダルタンを始めレジュアスの将が居並び、左手にはラルゴ達が座っている。

 ハーディは末席を占める各国からの使者を分けラルゴ達の席を目指した。

 「ハーディ殿。」

 その姿に黒い顎髭を蓄えたレジュアスの執政官ハンコックが声をかける。

「貴公はこちらへ。」

 その手は玉座の前の席を指し示した。

 「私はこちらで結構。」

 ハーディはその声に断りを入れ、ラルゴの横に席を占めた。

その態度にアーサーはちらっと苛立たしげな表情を見せた。が、それを悟られぬようすくっと立ち上がった。

 「皆の者、感謝する。

 皆の働きでカルドキア帝国の暴虐を制することが出来た。

 今日の宴はまずそれを祝い、皆の苦労に報いることとしよう。」

 アーサーは銀のカップを揚げ、そこに居る全員の起立を促した。

 「平和に・・・」

 あちこちで銀のカップをあわせる甲高い音が響き、それに続いてハンコックの声が響く。

 「ここで、アーサー王より論功勲章が授けられます。」

 場が静かになるのを待ってハンコックが続ける。

 「まず、ロゲニア。」

 ハンコックの声にロゲニアからの使者が誇らしげに立ち上がる。

 「チッ・・俺達はアーサーのために戦ったんじゃないぞ。」

 ラルゴが小声で愚痴(ぐち)を漏らし、ハーディがそれを笑顔で制する。

 「()の国は横合いからカルドキアを牽制し、この戦いを優位に進めた。よって現総督が王を名乗ることを許し、旧バルハドスを領域に加えることを許す。」

 それを手始めに次々と論功が言い渡される。そんな中ハーディはぼんやりと遠くに目をやり、この戦いの本当の勝者ロニアスの三人、それにイシュー達ルミアスの若者達のことを考えていた。

 その横でラルゴが呼ばれ立ち上がった。

 「元ロンダニアの将、ラルゴ殿。そなたはハーディ殿と力を合わせこの大戦を戦い抜いた。よって、そなたをロンダニアの・・」

 「断る。」

 ハンコックの言葉が続く中、ラルゴが大声を上げた。

 「あんたらは俺達の陰で邪神と戦っていた者達のことを知っているか。」

大広間の中がしんと静まる。

 「俺も聞きかじりだから多くは語れない・・・だがお前たちもあの凄まじい爆発は見ただろう・・・命を賭してこの世を守った者達がいたのだ。

 それを・・・」

 その先、ラルゴが言い出すことは解る。そこでハーディはそっとラルゴの袖を引いた。

 ラルゴはゴホンと一つ咳払いをし、

 「俺はロンダニアの主には成らん。その役はあの地を守り通したハルーンに任せる。」

 ハンコックは困ったような表情でアーサーを見た。

 「よろしい。貴公の望みに任す・・して貴公はこれから・・・」

 「まだ決めておらぬ。」

 「そうか・・・」

 アーサーは軽く、しかし苦々しげに笑った。

 ヴィンツはサルジニアを属下に置き、王子ヘンリーは旧モアドスを統治する。そしてフィルリア・・・

 「ハーディ殿の祖国ではあるが、フィルリアはこの戦いに手を貸していない。」

 その言葉にハーディが立ち上がる。

「我が祖国は当初の戦いの傷が癒えず。その上バルバロッサの脅威からあなた方の背後を守っていた。

 それに私・・フィルリアの将ハーディは貴方の尖兵として戦った。」

 「だが、この席に使者も来ておらぬ。」

 アーサーが言いかぶせる。

 「私がおろう。」

 それにハーディが異を唱える。

 「そう、貴公だけだ。フィルリアの意に反し貴公はここまで来た。」

 ハーディの顔が苦々しげに歪む。

 「そこでだ・・フィルリアにはドロミスから退いて貰い、本領は安堵とする。

 そのドロミスはザルタニアと共にネオロニアスのダルタンが治める。

 そしてハーディ、貴公は・・北を治めてくれ。」

 「何・・・」

 アーサーの言にハーディが言葉を詰まらせる。

 「この戦い、共に戦ったのはフィルリアではない貴公だ・・ハーディ。

 儂はレジュアスに帰る。その後のこの地は・・カルドキアの残党、戦いに疲れた民・・これを治めきれるのは貴公しかいない。

 どうだ・・儂の頼みを聞いてくれぬか・・フィルリアのことも考えて・・・・」

 ハーディの顔が歪み、

 「考えさせてくれ。」

 絞り出すようにそう答えた。


 その夜。

 「リュビー、ディアス達はどこにいるか解るか。」

 「ダミオス方面に向かい、今はその途中、名もない村にいます。」

 「明朝ディアス達を追う。」

 「その話、俺も混ぜて貰うぞ。」

 そう声をかけながら、突然ラルゴがハーディに充てがわれた部屋に入って来た。

 「ティアという(ひと)・・会ってみたい。」

 翌朝早くからハーディとラルゴは城を出て馬を飛ばし、昼過ぎにはディアス達の一行に追いついた。

 その一行はディアス、ティア、ローコッド、ドリスト、ボルス達レンジャーの生き残り五人の総勢九人。

 ハーディとラルゴはティアやレンジャー達とは初めて会った。

 お互い初対面の挨拶も済ませ、

 「イシュー達は。」

 ハーディが質問を発した。

 「イシュー達は先に行った。」

 それにディアスが答えた。

 「なぜ、急ぐ。」

 「月の谷にまだ仲間が立て籠もっていないか・・ティルトが兵を持って偵察をすると言っていた。それで俺の兵を全部渡し急がせた。

 それにイシューはルミアスの王子、新たなルミアスを建国するのに兵がいるとの王よりの連絡で急ぎ港町ルキアスに向かった。」

 「お前と共に闘ったのはこれだけか。」

 「いや、他にもいた・・・それに邪神ルグゼブと戦い、そしてそれを斃したのはカミュであって、俺ではない。」

 「お前達はこれからどうするつもりだ。」

 「いや、その前にここにいない者達のことを聞かせてもらえぬか。」

 ハーディの言葉を遮りラルゴが訊いた。

 「どっちを先にする。」

 と訊くディアスに、

 「ラルゴの質問を先にしてくれ。俺も邪神と闘った者達のことを聞きたい。」

 「そうか・・・

 まず、カミュ・・あいつは光の子だった。そしてもう一人がここにいるティア。二つの“光りの力”が合わさり邪神を討った。」

 「そのカミュは」

 「死んだ。邪神を斃すためにな。」

 皆に沈黙が流れる。その静寂を破って、

 「そして、サムソン・・

 あいつは最後までティアを守り続け、そして道半ばで倒れた。しかし、あいつがいなければこの闘いは成就しなかった。」

 「他には・・・」

 「ドワーフの男ドラゴはその妻エルフのルシールと、賢者ワーロックはその弟子カイと共に、そしてカルドキア皇帝ユングの姉シーナはダンピールのヴァン・アレンを伴ってすでに新天地を目指した。」

 「それで全部か。」

 「ああ。」

 「そしてお前達は。」

 「実は少し困っている。」

 「何が。」

 「ここにいるティアが光を守るためルミアスには帰らず新たな人生を目指すと言う。」

 「それがなぜ困る。」

 「俺はもう戦いには飽きた。故にどこかの山奥でカミュやサムソン等、死んでいった者達の霊を(とむら)おうと思っている。

 だがティアはカミュの霊を弔いながらも、またこのようなことが起きた時に備え二人の間の子を育てるため、ある程度の町に住みたいと言っている・・・それがカミュの意志だとも・・・

 だが町に住み子を育てれば、いずれは噂が立ち、もしもの時、彼女らに害を加えようとする者が現れないとも限らん。そんな時ティアを守る者が・・・」

 「お前が・・・」

 「俺は駄目だ。あの爆発に巻き込まれ折れた俺の剣と一緒に俺の心も折れた。もう血は見たくない。」

 「では、ティアとは誰が行くのだ。」

 「今のところ、レンジャーの五人。」

 「名案があるぞ。」

 ディアスとハーディの会話にラルゴが割って入り、二人がその顔を見た。

 「俺が行く・・俺がティアと一緒に行く。

俺には兵もあり部下もいる。

 それとも俺じゃあ不服か。」

 その言葉にティアの顔が喜色を表した。

 「よし決まりだ。

 後はハーディだな。」

 「ハーディ・・・」

 ディアスが不可解な表情を見せ、ハーディがことの顛末を話した。

 「フィルリアを人質に取られたか・・痛いな。

 やろうと思えば、レジュアスは今すぐにでもフィルリアに攻め込める。」

 「その話、受けてはどうじゃな。北はまだまだ治まらぬ。治めるには強力な指導者が必要だ。さもなければまた戦乱の世になる。

 それに不安ならこっちも人質を取ってな。」

 突然、ドリストが言葉を発し、皆がそちらに目をやる。

 「ヘンリーという王子はまだまだ未熟と聞く。その養育と王の威光を示すためと称して年に何ヶ月か北に預かる。そうすればアーサーはフィルリアに手を出せぬ。

 それに・・これは地脈からの聞きかじりじゃが・・アーサーはそなたの能力に惚れ込んでおるようじゃ。滅多なことはせんじゃろうて。」

 そう言ってドリストはフォッフォッと笑った。

「それと、旧カルドキアのロブロという者がおったのう。彼もお前さんの配下に引き入れる。そうすれば山脈の北は治めやすくなろうて。」

 その夜は別離の宴を開き、翌朝、ハーディは部下達を集めティアと共に行くというラルゴを村に残し、独りでログヌスの城内に入った。


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