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プログラミング・ザ・ワールド ~魔法の呪文詠唱なんて面倒だし恥ずいので関数化して運用します~  作者: みたよーき


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55.ホンダさん

「あの~、えっと、その子は?」

 ゴムボートに乗り換えて上陸し、恐る恐る近づいてきた女性の第一声はそれだった。

 その子、と言われて、明らかに日本人離れした容姿のミラと俺の関係を尋ねているのかと思ったが、彼女の目線を辿ると、カイに向かっている。

「ああ、縁あって俺が助けた狼で、カイといいます。聖獣なので怖がらなくて大丈夫ですよ」

「えっ、聖獣って……あの?」

「相田カイです。どうぞ宜しく!」

 カイが自己紹介するが、相田、の部分を少し強い意思で伝えている。どうやらカイにとって、苗字はとても大事なようだ。

「……ほんなこて聖獣なんや……」

「あっ。こういう喋る動物は、日本語で『聖獣』でいいんですね?」

「ん? そうだと思いますけど……?」

 そういえば『聖獣』という呼び方は、ルーメンで習った言葉を日本語に訳すならこうだろう、と俺が勝手に呼んでいただけだったと思い出したが、どうやらドンピシャだったようだ。

「ああ、ずっと大陸の方にいたんですよね、だから……。でも、その割に日本語、すごくお上手ですね」

「いえ、生まれも育ちも日本なんで。ところで、あなたは?」

「えっ? あっ、私はホンダミソラといいます。読む本に、田んぼ、美しい、天空の天、と書いて、本田美天です。えーっと、実はですね、私は日本でも少し特殊な立場なんですが、この前、そちらの仕事で使っている端末に衛星通信で、今日辺りここに人を迎えに来い、という指令? 命令? が来まして。正直、差出人も分からないし送信元も辿れないので怪しいと思っていたのですが、特殊な仕事用の端末に届いた以上、無視もできず、出向いてみれば本当に人がいてびっくりした次第です」

「それは……来ていただいてありがとうございます。すごく助かります」

「そんな。こちらこそ疑って申し訳ないです。それで……あのメッセージは、あなたが?」

「いえ、僕らも日本を目指してはいたんですが、この海をどう渡ろうか途方に暮れていたところ、トキヤ……って分かりますかね、トルコの辺りなんですが、そこで手に入れた端末に、先日この位置が突然表示されまして、来てみたらあなたに出会えた、というわけです」

「なるほど……。それでは、あなた達は……?」

「私は、相田修といいます。相談の相に田んぼで、アイダではなく、ソウダ。オサムは学問を修めるの修です。そしてこっちは……」

「ハイ! ソウダ・ミラ・コヴァリチュク……です!」

 俺の自己紹介に続いてミラに目を向けると、ミラは意気込んでそう自己紹介する。

 トキヤで生活していた頃、いつからだったか、ミラは、俺やカイと同じ『ソウダ』が良い、と、こう名乗るようになった。苗字なので後ろに付ける方が良いのでは、なんてことを言ってみたこともあるが、そこは俺やカイと同じく頭に付いていることにこだわりがあるようで、聞き入れてはもらえなかった。

 ……まあ、正直いえば、そう言ってくれる事を嬉しく思っている自覚もあるので、彼女の好きなようにさせている。

「えっと……」

 戸惑った表情で俺とミラを見比べる様子から、本田さんは複雑な家庭環境でも想像しているのかも知れない。

「ミラは、孤児でして。有り難いことに懐いてくれて、こうして一緒に」

「そうでしたか……」

 今度は申し訳なさそうにそう言う。

「気に病まないでいいですよ。ミラは、強くて、賢い子ですから。なっ?」

「……うん」

 急に褒められたせいか、ミラは照れて言葉に勢いを無くす。そんなミラの様子を見て、本田さんも安心してくれたようだった。

「なるほど、家族なんやね」

 その、本田さんの少しだけ訛りのある一言を、ミラは正しく理解したようで、「うん!」と頷く。そして、そのやりとりに、今度は俺が少し気恥ずかしいような思いを味わった。

「おっと、話を戻しまして。……相田さんは日本生まれで、日本を目指してる、って話ですけど、じゃあ一体どうして大陸の方に?」

 気を取り直した本田さんの、まあ、当然と言えば当然の疑問。

 ――良い機会だ、と思った。

「そうだな……。俺の身に起こったことは、ちょっと俄には信じられないとは思うんですが……。ちょうど、この子達にもちゃんと話す機会を窺ってたところなんで、良かったら一緒に聞いていただけますか?」

「あ、それなら、立ち話も何ですから、船の方へどうぞ」

 そうして、俺たちはボートでクルーザに乗り付けることになった。


 本田さんの乗ってきたクルーザは、間近で見ると思っていた以上に大きく、いざ乗り込んでみれば、よりリッチに感じられる。

 シートで覆われていたスターン(船の後方部)デッキは、そのシートをめくった下にはソファとテーブルの設置されたくつろぎ空間が隠れていたり、運転席下部から降りた船内には、さすがに中型程度のクルーザなので限度はあるが、それでも俺の想像よりも大きな住空間が存在し、なんともラグジュアリィな気分を味わった。


 いよいよ船が動き出すと、間もなく本田さんが運転席から下りてきた。なんでも、AIが波や風などの状況に適切に対応してくれるので自動運転のほうが安全、だそうだ。

 早速のみんなが揃う機会に、俺は、自分の身に起こったことをじっくり思い出しながら、簡潔に語っていった――。


「うーん……」

 俺の身に起こったことを大まかに話し終えると、本田さんはそう唸る。

 普通に考えれば信じる方が難しい話だ。だが、端から荒唐無稽だと決めつけないあたりは、彼女の人間性なのか、あるいは魔法のあるこの世界では全くのでたらめとも言えないからなのか。

 カイとミラは……俺を心配してくれているのか、それとも何か不安にさせてしまったのか、少なくとも楽しそうな表情ではない。

「なあ、ミラ、カイ。俺はどうしてあんな場所にいたのか、その原因が知りたかったし、もし帰れるならその方法が知りたくて、東にあるかも知れない日本を目指してきた」

 そう言うと、二人の不安そうな表情は深くなる。やはり、そういった心配をしていたのだろう。

「でもな、今は正直、帰れる可能性があったとしても、俺がどうしたいかは判らない。まだ決めかねているんだ」

「それは……私たちがいるからですか?」

「もちろん、それが一番大きな理由だ」

 カイの質問に、自然と即答した。そして俺自身、やはりそういうことなんだよな、という納得があって、明確に自覚した。

「それに、この世界は魔獣なんてものがいる恐い世界だけど、良いところもたくさんある。これまで出会ってきた人たちはみんな良い人ばかりだったし……食べ物も美味いしな」

 最後を冗談めかすと、ふたりの表情は少しだけ和らいでくれた。

「でも、実際に安全に帰れるとなったとき、俺は、やっぱり帰りたい、と思うかも知れない。だから、もしそうなった時、どうするのか、どうしたいのか、ミラにも、カイにも、よく考えておいて欲しいんだ」

 そう言って、順番にふたりの目を見据える。ふたりとも頷いてくれたが、そのどこか毅然とした表情に、何となく、もうふたりは答えを決めているような気がした。

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