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蒸気の中のエルキルス  作者: 上津英
第2章 それはうそぶく蒸気のように

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2-13 「リチェ、クルト君。ちょっと良いか?」

「ね。じゃあ各々、今の報告を踏まえて改めて容疑者を洗い出そう。解散!!」


 課長は最後にそう締めると、刑事課に集まっていた男女が思い思いのところに散らばっていく。


「は~。怨恨は消えたかねえ」


 プラチナブロンドの先輩も同じように、部屋の隅に居た自分の元へやってきた。その表情は、新聞のクロスワードコーナーと向き合いすぎた人と良く似ている。


「うん……だとしたら不自然だしね。ご飯……お菓子だけど、あげてまで恨んでる人を生かさない……と思う」

「だよなあ。つーか殺すのに生かしておく理由ってなんだよ? 高校生とは言え男を狙うのは、無差別ってより何かあると思っていいかも。選んで殺して、でも恨んでなくてレイプもしてないってのも凄いな。19世紀の切り裂きジャックも、娼婦なら誰でも良かったっぽいんだっけ?」


 頷いた。一般的にはそう言われている。


「やっぱ、24世紀の切り裂きジャックも……外科知識あるっぽいね。喉を切って臓器を出されて、持ち帰って……ってのも19世紀と共通してる」

「随分遅れた模倣犯かねえ。まっ、エルキルスは確かに現実になったスチームパンクの中でも殊更スチームパンクだけど」


 スチームパンクは産業革命下にある19世紀のイギリスをベースにしたサブカルチャージャンル――世界観とも言える――だ。

 19世紀の犯罪を模すのに、この街は打って付けのエリアだろう。


「どんな人なんだろうな、今世紀の切り裂きジャックは。男相手じゃ女性には無理かねえ、残虐だし」

「…………決め付けないの」


 まだまだ今回の事件は分からない事が多い。先入観は敵になるだろう。

 ──その時。


「リチェ、クルト君。ちょっと良いか?」


 先程のベテラン刑事に呼ばれた。もう現場に行ってると思ったが、違かったらしい。


「はいはい、どうしました?」

「実はさっき、切り裂きジャックによると思われる第2の死体が見付かったんだ。報告が後数分早かったらみんな居たんだが」

「え!?」


 苦笑する先輩の言葉に、リチェと共に驚く。

 どうやら24世紀の切り裂きジャックも凶行を重ねるつもりのようだ。


「それで2人に、発見者2人の聴取を頼みたいんだ。やってくれるか。私は現場に行ってくる」


 リチェは自分の先輩ではあるけれど、この青年だってまだ若い。なので2人で聴取をやらせる方が責任上良いのも、ベテラン刑事に現場に行かせた方が良いのも分かる。

 が。


「全然良いですけど、なんでわざわざ俺等なんですか?」

「そのうちの1人が2人と知り合いらしいんだ。丁度2人が居るんだからだったら2人のが緊張しないで話せるかな、と。ほら、ヴァージニ──」

「ノア!?」


 自分に友達なんて1人しか居ない。思わず大きな声が出て、先輩達が驚いたように目を丸くしていた。


「あ……ごめんなさい……」

「君もそれくらい大きい声が出せるんだなぁ」


 はははっと先輩が笑うので、余計いたたまれなくなった。


「そう、そのノアが第一発見者の1人なんだ。ノアともう1人大学生の青年が第一聴取室に居る。身内だからって油断するなよ。じゃ、後は宜しく!」


 強面の先輩はそう言い颯爽と刑事課から去って行った。


「……ノア、また事件の目撃者になったんだ……」


 自分も聴取室に行こうと足の向きを変え、驚きの表情を浮かべたままのリチェに呟く。


「すげぇな」


 眼鏡の青年も苦笑い、同じく聴取室に向かって歩き始めた。

 午前の陽光が差し込む刑事課を、自分達も後にし急ぎ足で同階の聴取室に向かった。


***


 ノア・クリストフはヴェンツェルと一緒にエルキルス警察署の2階にいた。

 ゴードンと同じようにあちこち切り裂かれて殺されたフレッドの第一発見者として、これから聴取を受ける為だ。

 自分の顔に見覚えがあったらしい警察官が、だったらと気を利かせてリチェとクルトに聴取を交代してくれると言う。

 そんな夜の店みたいな事して良いのかと思ったが、警察側からしてみたら若い刑事に聴取を任せ、ベテランに動いて貰った方が良いのだろう。


 フレッドの死体を目撃しショックを受けている自分と違い、ヴェンツェルは警察署を見回す余裕があるくらい落ち着いていた。自分も高校を休んだように、ヴェンツェルも大学を休んだらしい。

 ずっと冷静なのは、フレッドを知らないからだろうか。この温度差が頼もしくもあり、憎らしくもあった。

 天然パーマの青年を理不尽に睨み付けそうになった時。

 ドアが開いて、白い壁紙の部屋に風船よりも軽い声が響いた。


「よっ! ご指名どーも。あ、ども、刑事課のリチェ・ヴィーティです。聴取の担当になりました」


 聞き覚えのある青年の声に顔を入口に向ける。部屋の入り口には思った通り眼鏡の青年がいて、知った顔に妙に安心した。

 反面、挨拶をされたヴェンツェルはリチェのようなタイプが嫌いなのだろう。嫌そうに眉を顰めた後視線を逸らしていた。


「クルト・ダンフィードです……。ノア、大丈夫?」


 続いて入室してきたファイルを抱えたクルトはおずおずと言い、心配そうにこちらを見つめてくる。大丈夫だ、と頷き返し正面の席に座った2人を見返す。


「えーとノア、ヴェンツェルさんと登校中に被害者を見付けた、って流れで合ってるか?」


 クルトが持っているファイルを覗き込みながら、確認するようにリチェが尋ねてくる。その通りなので頷いた。


「ヴェンツェルさんも、そうで? 発見場所、ルイリーフ医大と正反対ですけど」

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