1-34 「古典的だな、二十一世紀みてぇ」
「ノアさん! あたしも一緒についてって良い? あたしも手伝いたい!」
突然のイヴェットの発言に目を見張る。まさかイヴェットの口からこのような言葉が出るとは思わなかった。それはクルトも同じだったらしく息を飲むのが伝わってきた。
「あたしもあの刑事さん助けたいよ」
確かにその気持ちは分かる。自分だって、リチェを助けたいと思ったのはそうしたいからだ。イヴェットもそうしたいのだ。目力の強さがそれを語っている。
しかしイヴェットは昨日被害にも遭っている。なのに快諾なんて出来るわけがない。
「いやいやいや。イヴェットは一度狙われてるだろ! 助かったからってお前がターゲットから外れたわけじゃないと思う。少なくとも今日は家から出ちゃだろ。気持ちは……凄い有り難いけどさ」
「……う、うん……そうだよ。危険だよ」
先程よりも人間らしくなったクルトも言う。前に出ようとはしないものの、その瞳は真っ直ぐイヴェットを見ていた。二人に咎められ言葉に詰まりかけていたイヴェットだったが、瞳に宿る光が消えることは無かった。
「分かってる、分かってる上で協力したいの。あの刑事さん、昨日あたしが帰る時気を遣ってくれたし、あの人もあたしを助けるのを手伝ってくれたんでしょ? そんな人を危険だって理由で助けられない人になりたくないの! ……ノアさんならこの気持ち、分かってくれるでしょ?」
自分の名前を出され一瞬戸惑ったが、すぐにハンカチを届けに行った時の事を言われてるのだと気付いた。気付いたら、イヴェットの気持ちが痛い程分かってしまった。唇を結び、口を動かせずに見返す。
「あたし自分を好きな自分になりたいから……お願い、お願いします!」
目の前の少女の瞳の光は変わらない。危険だと撥ね退けられないくらいイヴェットの決意は固いようだ。
自分はあの時ハンカチを返しに行って良かったと思っている。だからこそ、イヴェットの気持ちを無碍にしたくなかった。
「でも……君が来ても、役には……」
クルトが申し訳なさそうに言う。それに首を横に振って否定し、考えを口にする。
「いや……十分立ってくれるだろ。今回もあいつらをアジトから追い出すのが一番手っ取り早いんだ。それには警察の存在を匂わすのが良い。お前の銃だけじゃあいつらも警察には結び付かないだろうけど、昨日の被害者であるイヴェットがその場に居たら流石に勘づいてすぐに逃げる筈だ。証拠を持って逃げる余裕なんてない。そこを探せば何かしら見つかって……僕らが最初考えていた以上に事が進むかもしんねぇ」
自分が突っぱねなくなったからか、天に祈りが届いたとイヴェットの表情がぱあっと明るくなる。言葉途中からは任せろとばかりにブンブンと首を何度も振っていた。
「ノアの言う通り、だけど……でもさ…………危ないよ」
メリットとデメリットの間で葛藤しているらしいクルトの視線が泳いでいる。自分達が良くても最終的にはクルトの同意が必要だ。横でイヴェットが唾を飲む音が聞こえてくる。
少しして、俯きがちだったクルトの顔が上がった。その表情はイヴェットに負けず劣らず決意を秘めていた。
「……分かった、俺達がイヴェットを守るから……リチェを助けるの、手伝ってくれる?」
「もちろん! 有り難う二人共っ! じゃああたしちょっと叔父さんの目を盗むためのアリバイ工作してくる、すぐに戻るから!」
嬉しそうに口端を上げ、イヴェットは慌ただしく牧師館へと戻っていった。確かにあの牧師に見つかったら、リチェ以前の問題になりかねない。
「上手くいかせような」
すぐに力強く頷かれる。その頼もしさに笑みを浮かべると、バタバタと音がして玄関の扉が開き中からイヴェットが出てきた。
「ごめん、お待たせ!」
「おかえり、待ってねーし大丈夫だ。にしても早かったな、アリバイ工作って何したんだ?」
「ルームプレートを就寝中に変えて、ベッドの中にぬいぐるみを仕込んだの。叔父さんも部屋には入って来ないだろうし、これで十分。後あたしの部屋一階だし戻る時は窓から戻るから、鍵も開けてきたー」
胸を張って話すイヴェットの手口のベタっぷりに笑う。
「古典的だな、二十一世紀みてぇ」
「この前博物館で見たアニメの真似だからねー。さ、いこ!」
頷き、先陣を切って工業区へ向かうイヴェットの後ろを歩き出す。イヴェットが戻って来たらまた動きが悪くなったクルトを見て肩を竦めた。
頼もしいとは決して言えないメンバー。どうも人一倍周りを見ておく必要がありそうだった。
「発信器はスクールバッグの内側のポケットに入れておいた。んじゃこれ、お前の分のラジオな」
「うん、有り難う……無理しないで、居場所だけね」
ラジオを受け取ったクルトの言葉に頷く。この時間、川沿いの通りには警官が立っていることが多い。それは今日もだった。
必要以上に俯いて歩くクルトの隣を歩き、ノアは工業区に向かった。
***
「有り難う御座いました」
ヴァージニア・エバンスは、店を出た親子連れグループに向かって礼を言う。
人の居なくなった店内を見回し肩の力を抜く。夜の帳も降り始めた今、もう忙しい時間は過ぎただろう。前は会社帰りの女性が立ち寄ってくれる事も多かったが、事件が起きてからはそれも無くなってしまった。
時間が出来たので、外のハンギングバスケットの位置を直しに行こうと思った。外に出ている物はしょっちゅう位置がずれるので、頻繁に直さずには居られない。
ポピーの外に出て、紺色が強くなった何とも言えない色味の空の下に出る。
そう言えばノアはもう帰って来たのだろうか。警察にちゃんと寄ったのか心配だ。
「あの、すみません」
ノアのことを考えながら、やっぱり位置がズレているハンギングバスケットを整えていると、ふと後ろから声をかけられた。誰かと思って階段の上から男性を見下ろし、見覚えのある顔に目を見張った。




