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蒸気の中のエルキルス  作者: 上津英
第一部「蒸気の中のエルキルス」プロローグ
1/48

1-0 檻の中で犯人が綴った自供文より。

お手に取って頂き有り難う御座います。

第一部

プロローグ



 檻の中で犯人が綴った自供文より。



『私が彼女らを殺したのは、欲しい物があったからです。だから殺しました。

 ラジオではエルキルスの女性が無差別に連れ去られていると言っていましたが、そんな事はありません。ちゃんと狙っていました。警察がそれに気が付いたのが遅かったのははたして幸運だったのでしょうか。

 最初の女性を殺した時、私は欲望に負けて悪魔に身を売りました。

 この世界が私を悪魔にしたのだと。この世界が悪い、とあの時は本当に思っていました。


 皆さん歴史の授業で習ったとは思いますが、この世界の歴史を覚えていますか?

 この世界は約四百年前、とある国が地球を掘りましたね。西暦で言えば二十世紀のことです。

 人間は欲深い、……本当に欲深い生き物です。地球の中が知りたくて、それを実行してしまうのですから。

 諸説ありますが、この時地球は十二キロメートル掘られたと言われています。それ以上は資金切れで掘れなくなったとされていますが、本当は怖くて掘れなかった、と囁かれているのです。

 調査員が怖くなった理由は単純。比喩ではなく、地底には地獄が広がっていたからです。


 掘り進んだ地中の温度が摂氏二千度を示した時、ドリルが回転したのです。これは当時の技術では、そこに空洞があると示している動きだったそうです。

 そこでマイクが拾った音は、何百人もの人間の悲鳴でした。

 地下十二キロメートルで、です。直後ドリルが引っ張られて消えた、とも言われています。

 地獄の扉をノックしてしまった、と調査員は全員思いました。逃げ出すのも無理はありません。


 この騒動があったものですから、人類は暫く地球を掘りませんでした。ですが五十年後、愚かな人間が秘密裏に地球掘削を行ったのです。オカルトとして伝わりだした地獄の悲鳴の真相を確かめたかったから、とか。

 ……問題はここから。

 技術の進歩を見せ付けるように十二キロメートル以上ドリルを進めた時、地球を大地震が襲ったのです。それは目を覚ました獣の咆哮に似ていました。


 次の瞬間、地球がスポンジにでもなったかのように、世界中の石油が地底に吸い込まれていったのです。超常的な存在の怒りを買った、と誰もが思いました。

 オモチャを親に奪われたように忽然と石油が消えたのと、大震災が同時に来て、地球上は大騒ぎになりました。当時の人は、薬の中にすら石油を使っていたので当然ですね。人々は懸命に生きる道を模索しました。


 「文明をこの世から無くした方が神はもう怒らない」、という超常現象を神聖視する急浮上した派閥との内乱を避ける為、国力をなるべく落としたくなかった各国の要人は『文明レベルを十九世紀まで戻す』という結論を苦心の末打ち出しました。

 結果我が国は動力を蒸気に依存し直し、『現実になったスチームパンク』と呼ばれる国に変わったのです。地名もその際変更しました。

 電話やラジオは残りましたし、バイオプラスチックを使った前近代的な製品もありますが、劣化は早いですし製造コストもあります。石油がない世界では安価で買えるほどの普及には至らず、様々な物が家庭から消えました。


 …………これ、でした。

 私が人を殺した理由も、突き詰めれば石油という魔法の液体が消えたせい、でした。便利な時代の後に、便利ではない時代になってしまったから、でした。

 ……ですが、私の馬鹿な考えは間違っていたのですね。私はずっとそのことから目を逸らしていて……本当に、馬鹿でした。

 それを教えてくれたのは、一人の少年でした。

読んで下さり有り難う御座います!

面白かったら評価して頂けますとモチベになります。

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