表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界最強猫と私 リ・スタート  作者: ひなたひより
9/57

第9話 中途半端なやつ

 小さくなった穴からにゅっと伸びてきた黒い物体は、一メートルほどの長さになってから、しなやかにこちらを向いた。

 いや、その何かが体を向けたというよりかは、恭子たちに反応してグニャリとしなった。そういった感じだった。


「ミ、ミースケ、なんか出て来た」

「ああ、しかしまあこんな小さな穴から無理して……」


 呆れたようにミースケは言ってから、穴から身を乗り出した黒い棒状のものに猫パンチを喰らわせた。

 ミースケの一発で、黒いやつはそのまま動かなくなった。

 穴からだらりと垂れ下がったまま、ピクリとも動かない異形のものに、ミースケは苦々し気に顔を歪めた。


「おいおい、そこで伸びられたら穴を塞げないだろ。全く中途半端で迷惑な奴だ」

「ねえ、ミースケ、こいつは何なの?」

「ああ、絶対者だよ。穴が小さいのに無理やり出てこようとしてスケールが小さくなった感じだよ」


 ミースケは器用に腕を組んで、だらしなく伸びている絶対者を前に思い悩んでいる。


「波動でやっつけてしまう?」


 恭子が提案すると、ミースケはブンブン首を横に振った。


「いや、それはマズい。こいつを波動で消したら、今こいつが挟まっている穴がダメージを受けてしまうだろう。修復不能なダメージを与えてしまうと、またあの狭間の怪物が簡単にこっちにやって来れるようになる」

「そっかー、じゃあどうするの? このまま放っては帰れないよね」


 余計なもののお陰で、作業が中断してしまった。

 美しく茜色に染まった空は、もうあまり暗くなるまで時間がないことを知らせていた。


「ふぁああーーー。よく寝た。おや? なんだ、変なのがぶら下がっているじゃないか」


 トラオは大欠伸をしたあと、穴からだらりと伸びているスケールの小さい絶対者を興味深げに覗き込んだ。


「馬鹿だねー。無理して出てくるからあっさり返り討ちに合うんだ」

「ねえトラオ、何とかならないかな。もうすぐ日が沈みそうだし」

「そうだな……」


 そしてトラオは、ある提案をしてきた。


「こいつは俺と同類だけど、知能は猿以下だ。特異点を排除することしか頭にない馬鹿な奴なんだ。そこでこいつをちょっとグレードアップしてみたらどうかなって思ったんだけど」

「んー、どゆこと?」


 ちょっと言っていることが良く分からなくて恭子は聞き返した。


「俺は同類であるこいつとは、情報のやり取りができる。つまり短絡的に特異点を排除することに執着しないよう、こいつの頭の中を弄ることが可能ってことさ」

「んー、なんだか悔しいけど、もうちょっと分かり易く噛み砕いて説明してよ」

「簡単に言えば、仲間に引き込める可能性があるってことさ」

「ホントに!?」


 これには流石に恭子も驚いた。

 ヤバイ敵だと思っていた怪物が仲間に寝返るのだというのは、にわかには信じ難かった。

 ミースケはやや渋い表情でトラオの話を聞いている。


「うーん。こいつに知識を与えるってことか。あまり気が進まないけど、引っ込むか出てくるかしてもらわないと、どうしようもないしな……」

「そうゆうことだ。ミースケと恭子が賛成なら、すぐにかかるけど、どうする?」


 恭子は薄暗くなってきた空に不安そうな顔を向けてから、ミースケに目を戻した。


「私にはちょっと判断できない問題だわ。ここはミースケに任せるよ」

「そうか。じゃあミースケ次第だな」


 恭子とトラオが見守る中、ミースケは閉じていた蒼い目を開いて一つ頷いた。


「トラオ、やってくれ。失敗したら俺がこいつを消し飛ばす」

「よし、分かった」


 そしてトラオは恭子の前に出ると、だらりと垂れ下がったままの黒いやつに手を伸ばした。

 トラオの手がにゅーと伸びて、黒いやつと重なった。

 そしてトラオは沈黙した。

 見た目では何にもしていないように見えるが、恐らく今、絶対者同士で何らかのやり取りをしているのだろう。

 しばらく経ってからトラオは黄緑色の目を開いた。


「終わったの?」

「ああ。キョウコ。上手くいったよ」


 トラオはそのまま両腕を伸ばして、中途半端に穴から出ている黒いものを引きずり出した。

 そして一メートルほどの黒い棒状の物体を、鉄骨の上に無造作に置いた。

 ミースケは警戒を解かず、波動を撃ち出す構えを作ったまま、事の成り行きを見守っている。

 もぞもぞと動き始めた黒い塊は、ゆっくりと形を変えて、やがて見慣れた姿へと変貌を遂げた。


「まあ、こんな感じだ。キョウコ、これでどうだい?」

「うーん、そうね」


 恐らくトラオが情報を与えてこの姿に擬態させたのだろう。

 狭い鉄骨の上にちょこんと座り込んで黄色い目を向けていたのは、どこにでもいそうな黒猫だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ