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世界最強猫と私 リ・スタート  作者: ひなたひより
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第50話 特別な才能

 取り敢えず、親には連絡を入れて、美樹の所に泊まってそのまま学校に行くと滅茶苦茶な言い訳をしておいた。

 帰ったらミースケに両親の記憶を飛ばしてもらおうと考えたが、そのミースケがいないのが問題だった。

 忠雄も悲惨な言い訳をして電話を切ったみたいだ。嘘をつかせて申し訳ないと思いつつ、少年がここにいることが心強かった。

 二人は飛び込みで入ったビジネスホテルで一泊した。

 同じ部屋に泊まることになって相当緊張したが、トラオがいたのでなにも間違いは起こらなかった。

 翌朝チェックアウトし、朝食を摂ったあと、場所を移して今後の作戦を練ることにした。

 波動の痕跡を辿ることの出来ない場所まで来たお陰で、襲撃を気にすることもない。

 この辺りは海の匂いのする港町だ。昨日のことが嘘のように、猫を抱いて歩く二人には、穏やかな時間が流れていた。

 普通なら学校に行っている平日に来た誰もいない砂浜。

 何だかいけないことをしている気がするけれど、隣に猫を抱いている少年がいるお陰で、落ち着いていられた。


「なんだかデートしているみたいだね」


 恭子が照れながらそう言うと、少年は頬を紅く染めながら「そうだね」と、目を泳がせた。


「あんなことがあったのに、今もこうして見知らぬ砂浜にいるのに、なんだか落ち着いていられる。きっと野村君がいてくれるからだね」

「僕も、何だか落ち着いていられるんだ。きっと片瀬さんがここにいるから……」


 潮風に髪を撫でられながら見つめ合った二人に、余計なものが割り込んだ。


「それは、俺様がいるからだと思うぞ。まあドーンと頼ってくれていいぞ」


 そうだ。トラオがいたんだった。

 見つめ合っていた二人は、空気を乱されて、大人しくなった。

 それから砂浜に腰を下ろして、本格的な作戦を立て始めた。


「トラオ、どう? 一晩寝て、何かいい案、浮かんだんじゃない?」

「何にも。全くなんも浮かんでこない」

「ですよね……」


 ちょっと期待していた恭子は、落胆してばかりではいられないと、いま思いつく限りの提案を出してみた。


「私の波動で、何とかならないかな。トラオと協力すればちょっとぐらいは次元の穴が開いたりなんかしない?」

「ムリムリ。そんな甘いもんじゃない。全くキョウコは世間知らずだな」

「なによその言いぐさは、あんたが匙を投げたから、私が代案をだしてるんじゃない」

「まあまあ、二人とも」


 険悪な感じになりかけた恭子とトラオの間に入り、少年は現状の問題を整理すべく、口元に手を当てて何かを模索し始めた。


「次元の穴は、世界が修復されつつあるこの状態では開けることは不可能に近い。トラオはそう言いたいんだね」

「そうだ。世界の理はそう簡単には壊せない」

「異界へ続く穴は作れない。では作ることを諦めよう」


 サラリとそう言ってのけた忠雄に、恭子は大きく首を横に振って訴えた。


「そんな、野村君も諦めるの? そんなのないよ」


 そう抗議したときには、少年は穏やかな海に顔を向けたまま、眼を閉じていた。

 深い思考に少年はすでに入っており、恭子の言葉は少年の耳に届いていないようだった。

 特別な集中力を発揮し、少年は最善の一手をこの窮地に見いだそうとしていた。


「うん」


 独り言のように一つ頷いて、少年は傍にあった細い流木を手に取った。

 そして白い砂の上に線を引き始めた。

 横に一本線を引き終えて、忠雄はまとめ終えた思考を言葉にし始めた。


「これは時間軸だ。ループの起こる百日間で、今はこの辺りに僕たちは差し掛かっている」


 忠雄は引いた線の一部分に丸い印を描いて、そしてバツを入れた。


「怪物が空けた穴は、ここで消えた。他には穴は無かった?」


 恭子は時間軸の線の一部分を指さして、丸を指で描いた。


「電波塔に開けた穴を私が塞いだの。あれはもう使えない」

「じゃあ、これも消しておくね」


 バツ印を描くと。忠雄は線の端まで枝を動かした。


「特異点が世界に現れた時、そこには穴が開いていたんだよね」


 忠雄がそこに丸を付けると、トラオの髭がビビビと振動した。


「忠雄の言うとおりだ。誰も空けていない空間のほころびがそこにあったから、特異点はこちらの世界に来ることができたんだ」

「そうだわ。どうして気が付かなかったんだろう……」


 忠雄の指摘に突破口を見いだすも、恭子は未だ残されている問題があることに気が付いた。


「でもミースケがこっちの世界に現れたのは四月だから、だいぶ時間が経ってるわ。世界によって既に修復されていないかしら」


 その疑問に関して、忠雄は既に解答を用意していた。


「特異点がいる間、あの一帯は脆弱で、空間の修復は行われていなかった。ということは修復は昨晩始まったばかりだよね」

「そうだわ。野村君の言うとおりだわ」

「意図的に開けられた穴は世界によって修復された。でもミースケがこっちへ来るきっかけとなったそのほころびが、この世界の致命的な瑕疵だとすれば、今もそこに存在している可能性がある。そう思わないかい?」


 頭の中に描いた戦略を話し終えて、忠雄は棒の先端をぐるぐると回し、穴を深くしていった。


「野村君すごい。ねえトラオ、どう? それでいけそう?」

「ああ、そこにまだほころびがあるのなら、そこから特異点を救い出せるかも知れない」


 そしてトラオは首を捻ってウーンと唸った。


「しかし、ほころびがあったとして、あいつをどう引っ張り出すか……狭間の世界にいるあいつは動きが取れない。いわば無重力の空間に漂っている状態なんだ。自力で出てこれないとすると……」


 悩んでいるトラオの横で、再び忠雄が思考を巡らせ始めた。


「あの怪物が最後に触手を伸ばそうとしたとき、僕には見えなかったけれど、波動のムチが怪物を捕らえたんだったね」

「うん。野村君の言うとおりだよ」

「波動のロープは異界の穴を通って来た。異界でも伸ばせられるロープが届けば、彼を救い出せるんじゃないだろうか」

「それだ!」


 トラオが大きな声を上げた。


「ミースケと恭子の波動は元々同一のものだ。キョウコのロープが異界に伸ばせれば、ミースケはその存在に必ず気付く。次元の狭間は距離も時間も超越した空間だ。波動が繋がる可能性は大いにある」

「じゃあ、ミースケを助け出せるってこと?」

「ああ。やってみる価値はある。というより、それが唯一の突破口だ」


 そして恭子は、隣に座る忠雄を抱きしめていた。

 衝動的なその行為に、忠雄の平常心が一気に限界を超えた。


「か、片瀬さん……」

「ありがとう。野村君。ありがとう」


 涙を流し続ける恭子に、ガチガチに固まった忠雄は何もできない。

 トラオはそんな二人に、いやらしい目を向けてニタニタ笑っていた。

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