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世界最強猫と私 リ・スタート  作者: ひなたひより
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第47話 怪物は現れた

 河川敷にいた猫はミースケではなかった。

 落胆した恭子が踵を返した瞬間に、口を利くはずのない猫が恭子の背中にこう言ったのだった。


「行かせないよ」


 振り返った恭子の視界にはすでに、直線的に進んでくる触手があった。

 避けきれない。反射的に顔を庇った恭子の前に光の帯が走った。

 恭子に届きかけた触手は空中で蒸発していた。


「ミースケ!」


 波動を身にまとった状態で跳び込んできたミースケは、恭子を庇うように見知らぬ猫との間に立ち塞がった。


「キョウコ、下がっていろ。こいつとはここで決着をつける」

「ごめん。ミースケ、ごめんね」

「今はこいつを倒すことが先決だ」


 そしてミースケは一気に距離を詰めた。そして至近距離から波動が標的を捉えた。


 ドン!


 打ち出した波動が標的に命中した。シロクロだった猫は真っ黒に変わり、その腹には大きな穴が開いていた。


「やった!」


 穴が開いたことで恭子はミースケの勝利を確信した。しかし跳び下がったミースケは更なる波動を腕に集め始めた。


「どうしたの? ミースケ」


 一歩踏み出した恭子をミースケが制止した。


「来るなキョウコ! 何かがおかしい」


 腹に大穴を空けられた怪物は、その穴に吸い込まれて行かずに、同じ姿勢で突っ立たままだった。

 ミースケは波動を打ち出す態勢を作ったまま、その成り行きを見守っていた。


 ズルリ。


 真っ黒な体がゆっくりと前に出て来た。その腹には依然大穴が開いていて、怪物が前に出てくると、腹にあった真っ黒な穴だけが取り残されて、そこに浮かんでいる状態になった。


「あれは……」


 恭子はそれに見覚えがあった。


 そうだ、あの次元の穴だ。でもまさか怪物の体内からあんなものが現れるなんて。


「そうか、そうだったのか」


 その状況を理解して、ミースケは口惜し気に真っ黒な穴と向かい合った。


「絶対者の体内に次元の穴を構築し、俺の波動で狭かった穴にダメージを与えて侵入口を作った。そういうことだな」

「ご名答。しかし、気付くのが遅かったみたいだね」


 大穴の開いた怪物はよろよろとミースケの前に出て来て、そこで力尽きた。

 ミースケは倒れ込んだ怪物を一瞥し、波動の一撃を浴びせて消滅させた。


「出て来いよ。そこにいるんだろ」


 真っ黒に渦巻く穴に向かってミースケが言うと、穴の中からすごい勢いで何かが飛び出して来た。

 ミースケは波動を連続で打ち出し、黒い影を撃ち落とそうとする。


 ドン!


 黒い影が波動を打ち出した。ミースケはその攻撃を素早く移動して避ける。


「キョウコ、逃げるんだ。自転車に乗ってとにかくここから離れろ」

「ミースケ、私も加勢する。私だって前とは違うんだ」

「よせ! こいつの相手は俺がする。大丈夫だ。ここには地の利がある」


 ミースケが何を言いたいのか、恭子はすぐに察することができた。

 数えきれないほどの鍛錬を、ミースケはここで恭子と共にしてきた。

 この地形の全てがミースケに味方する。

 ここでなら前回の学校での時よりも、闘いが有利に運べるに違いなかった。

 着地した怪物は以前学校で見せたあの禍々しい姿に変わっていた。

 人間の体に触手の頭。前回ミースケを倒した姿で怪物はミースケと向かい合った。


「行くぜ」


 波動で加速したミースケは怪物との距離を一気に詰めた。

 怪物は直線的に動いたミースケに触手を走らせた。

 しかし触手は全て空を切った。

 ミースケは橋桁にあの波動のロープを巻き付けて真上に回避していたのだ。

 そしてミースケが放つ上空からの波動が、怪物に雨あられと降り注ぐ。

 逃げようとする怪物はもんどりうって倒れ込んだ。

 直線的な波動だけではなく、橋にぶつけた波動のボールを様々な角度から怪物に当てたのだ。

 破壊力の低い波動のボールは、怪物の足元を掬った。

 怪物はミースケの攻撃を防ぎきれずに、無数の穴を体に開けてのたうち回った。

 橋桁にぶら下がっていたミースケは、今度は真っすぐに怪物を目指して降下してきた。

 怪物は頭部から波動を放って、空中にいるミースケを吹き飛ばそうとした。

 しかし、その攻撃も空を切った。

 ミースケは別のロープを既に張っていた。そしてあっという間に対岸まで移動していたのだった。

 自らの波動で橋の裏側を破壊した怪物は、落下してくるコンクリートを避けようとその場から退避しようとした。

 目標を見失った怪物は、対岸に着地したミースケからは隙だらけであった。

 ミースケはロープを伸ばして怪物の脚を絡めとり、そのまま引き倒した。そして怪物の上にコンクリートの塊がいくつも落ちてくる。

 耳を塞ぎたくなるような轟音が、橋の下で反響した。

 落下してくるコンクリートの下敷きになった怪物に向かって、ミースケは必殺の一撃を打ち出すべく、波動を集め始めた。

 そしてミースケの右腕から巨大な波動が打ち出された。

 らせん状に真っすぐに飛んで行った波動の塊は、コンクリート片を弾き飛ばしてその周囲をえぐり取った。

 ミースケは波動を打ち出した反動のせいか、その場で膝をついた。

 いや、膝をついたというのは正確な描写ではない。そもそも人間とは脚の形状が違うので、そういう雰囲気でへたり込んだといったところだ。

 恭子は自転車の所まで逃げたものの、圧倒的なミースケの闘いに見入ってしまい、その一部始終を結果的には観戦してしまったのだった。

 怪物が消滅してしまったのを見届けて、恭子はミースケのもとへと駆け寄った。

 ミースケはキレイさっぱり雑草一本無くなってしまった場所に佇み、空中に浮いた黒い穴をじっと見つめていた。


「やったねミースケ」

「ああ、ここで俺に喧嘩を売ったのが奴の敗因になった」


 闘いを終えたミースケに、恭子は膝を折って視線の高さを出来るだけ合わせた。


「ごめんね、ミースケ、私、酷いこと言った」

「ああ、ちょっとヘコんだけど、気にするな。俺も悪かったんだ」

「帰って来てくれる?」


 ミースケはその蒼い瞳を一度閉じてから頷いた。


「ああ、腹も減ったしな」


 ようやく恭子に笑顔が戻って、ミースケを抱き上げようとした時だった。

 ミースケの背後にあった黒い穴がグニャリと動いた。


「なに!?」


 振り返ったミースケに、あっという間に無数の触手が巻きついていた。

 そしてミースケはなす術もなく穴の中に引き込まれていった。


「ミースケ!」


 穴の中に消えてしまったミースケに、恭子は叫び声を上げたのだった。

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