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世界最強猫と私 リ・スタート  作者: ひなたひより
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第43話 少女の決断

「僕と片瀬さんが、こ、恋人同士だった?」


 前回のループで二人がそんな関係に発展していたことを明かすと、少年は卒倒しそうな感じになってしまった。


「ほ、本当に? いや、片瀬さんが言うんだから間違いない。しかしそんなことになっていたなんて……いったい僕になにがあったんだ……」


 頭に血が上ってしまった様子の少年に、膝の上のミースケが追加の情報を付け足した。


「少年よ、前回のループだけではないぞ。繰り返すループの全てでお前は恭子とそういう関係になっているのだよ」

「ほ、本当に? いやしかし、僕のどこを気に入ってくれたのだろうか……ひょっとして夢を見ているのか?」


 おしゃべりする猫や、タイムリープの話を完全に跳び越えて、少年は少女との関係について耳を疑っていた。

 また、そうゆう所がこの少年らしさであり、恋に落ちてしまった理由の一つでもあった。


「片瀬さんは前回のタイムリープについての記憶があるわけだね」

「うん。それで最後の方に野村君とお付き合いし始めたんだ」

「お、お付き合い……凄い響きだ」


 恭子との関係性にばかりフォーカスがいっている少年に、今度はミースケが、トラオのことやあの怪物に関する詳細を伝えてくれた。


「へえ、じゃあ、あのフラリと現れた図々しいトラ猫は君が僕を心配して送り込んでくれたのか。つまりありがたい猫だったってわけだ」

「そうゆうこと。わかってくれたなら、少しご飯を豪華にしてやってくれ」

「そうだね。そうするよ。それと、君みたいにお喋りできるのなら、帰ってすぐお礼を言っとかないといけないね」

「ああ、そこは調子に乗りそうだし適当に」


 冗談交じりにそう言ったミースケを恭子は抱き上げた。そしてそのまま席を立った。


「野村君、少し待っていて。私、ミースケと少し話があるから」


 恭子はそのまま病室を出ると、ゆっくりと扉を閉めた。

 そしてミースケを抱いたまま、病院の廊下を少し歩いた。


「決心したみたいだな」

「うん。もう、無理なんだ。私には耐えられない」

「それでいいんだな」

「うん」


 恭子はそこでミースケを降ろした。

 ミースケは恭子を見上げて尻尾を揺らす。


「少しだけ最後に話させて」

「分かった。ここで待ってる」


 恭子はミースケを置いて病室に戻った。

 猫がいなくなったのに気付いた少年はそのことを聞いてきた。


「ああ、ミースケね、ちょっと外で待ってもらってる」


 恭子はまた忠雄の座るベッドのそばに来て、さっきまで座っていた椅子に腰を下ろした。

 そして一度、目を瞑って大きく息を吐いた。


「最後にお別れを言いに来たの」

「あ、ごめんね遅くまで。気を付けて帰ってね」


 恭子は首を横に振った。そしてもう一度、言葉を変えて真意を伝えた。


「ううん。そうじゃないの。私、もう野村君とは会わない」


 恭子の口から出た言葉の意味が理解できず、忠雄は困惑した表情で目を泳がせた。


「えっと、僕、何か嫌われることしちゃったかな。ごめんね」

「そうじゃないの」


 そして恭子は、ずっと隠し続けてきた悲惨な真実を話そうとした。


「あの怪物、あれは私を狙っていたの。あれは前回のループで野村君を……」


 その先を言おうとした恭子の声が震えた。


「あいつは、あいつは……」


 その光景を鮮明に思い出した恭子の目から、とめどない涙が溢れ出す。

 泣きじゃくる恭子の肩に、少年は手を伸ばした。


「泣かないで……」


 そして顔を上げた恭子に、少年は一つの質問をしてきた。


「前回のループで、僕は片瀬さんを守れたのかい?」


 恭子は答えられず、ただ一つ頷いた。

 肯定した恭子の姿を見て、少年はほっとしたような顔を見せた。


「そうか。片瀬さんが大丈夫だったのならそれでいい」


 悲惨な最期を迎えたことをきっと彼は気付いている。少年はそれを受け容れてなお、少女が無事であったことに安堵し、笑顔を見せた。


「それでいいんだ。本当に良かった」


 気が付けば恭子は少年の胸に飛び込んでいた。

 嗚咽する恭子を、少年はぎこちなく抱きしめる。

 少女の黒髪に頬をあて、少年は落ち着いた声で、かつて何度も繰り返されてきたであろうその言葉を口にした。


「片瀬さん、また僕に君を守らせてもらえないだろうか。僕は頼りない奴だけど傍にいて君の盾になりたいんだ」


 少年の腕の中で、恭子は再び誓いの言葉を聞いたのだった。

 繰り返されるループの中で、何度この少年はその言葉を少女に伝えてきたのだろう。

 その想いの重さを受け止めて、恭子は強く唇を噛み締めた。


「ありがとう……でも、そんなことさせられない」


 強く抱きしめていた手を解いて、恭子は涙を拭った。


「ありがとう。私、野村君が大好きだった」


 スッと恭子の顔が少年の顔に近づいて、その頬に唇が触れた。


「さようなら」


 立ち上がって背中を向けた恭子の背に、少年が手を伸ばそうとする。


「待って! 片瀬さん!」


 恭子は振り返らずに、扉を開けた。

 そこには二人が話し終えるのを待っていたミースケが立っていた。

 そして、ポロポロと、とめどない涙を流す恭子を見上げて、ミースケは最後に確認した。


「キョウコ、本当にいいんだな」

「うん……」


 短い返事を聞いてから、ミースケは蒼い目を少年に向けながら病室に入ってきた。

 少女に追い縋ろうとした少年の前に、ミースケは二本足で立ち塞がった。


「ありがとうな。忠雄」


 そしてミースケは少年の顔めがけて飛び掛かった。

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