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世界最強猫と私 リ・スタート  作者: ひなたひより
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第40話 迫り来る危機

 渡り廊下にさしかかった通路で、二人の少女は目を見開いたまま向かい合っていた。

 お互いに何故ここにいるのか困惑し、恭子とカトリーヌは口を半開きにしたまま、言葉を失っていた。

 膠着状態を先に壊したのはカトリーヌだった。


「ちょっと来て」


 おもむろに恭子の腕を掴んだカトリーヌは、いま恭子が通って来た通路につま先を向けて、そのまま引っ張って行った。

 恭子は戸惑いながらも、カトリーヌのあとをついて行く。

 カトリーヌは恭子の手を引いたまま、女子トイレに入って行くと、掴んでいた手を放して向き直った。


「どうしてここに片瀬さんがいるのよ」


 ストレートな質問だったが、それを聞きたいのはこちらの方だった。


「如月さんこそ、どうしてこんな所にいるの?」


 カトリーヌは一瞬怯んだように見えたが、すぐに畳みかけてきた。


「質問に質問で返さないで。先に私が訊いたことに答えて」


 苛立ちを見せたカトリーヌは、強気な口調で恭子に詰め寄った。

 前回の事情聴取のあと、記憶を飛ばしたせいで、カトリーヌはクロが危険な存在であることを知らない状態に戻っている。

 カトリーヌがここにいるということは、クロと接触し、その口車に誘導されて現れたに違いない。

 ならば、今クロはどこかにいるはずだ。

 カトリーヌは小さめのリュックを背負っている。

 その中に潜んでいるのか、それともすでにそこから出て別行動をしているのか、見極めなければならない。

 今こちらのリュックにはミースケがいる。ここで対決したとしたら、確実にミースケが勝利を収めるだろう。しかし、そうなるとカトリーヌを巻き込んでしまうのは必至だった。

 忠雄のことを気にかけながらも、恭子は目の前に立ち塞がる障害を何とかすべく、適切な判断を迫られていた。


「黒猫にそそのかされてここへ来たんでしょ」


 恭子は相手が動揺させるべく、いきなり核心を突いた。

 先日と同じように、魔法少女になり切って説明するのは時間がかかり過ぎる。すぐに行動を起こさなければならない状況で、恭子はわざとカトリーヌを緊張させた。


「どうしてそのことを……」


 誰も知り得ないはずのおしゃべりな猫のことを、クラスメートが知っていたことにカトリーヌの顔色が変わった。

 恭子はさらに追い打ちをかけるべく、背負っていたリュックを肩から下ろし、ファスナーを開いて見せた。

 そしてミースケが顔を出す。


「如月さん、おしゃべりな猫は黒猫だけじゃないの。紹介するわ。ミースケよ」

「初めまして、というべきかな。如月カトリーヌ」


 リュックからピョンと跳び出して二本足で着地した猫に、カトリーヌは大口を開けたまま硬直している。


「私とミースケは如月さんの黒猫を追っているの。あいつは良からぬことを企んでいるわ。その計略に如月さんを誘導して加担させているの」

「良からぬことって……私はただ、野村君と親しくなれるチャンスだと言われて……」


 やはり接触して、誘導されていた。恭子はカトリーヌのリュックを指さした。


「今そこに入っているの?」

「いいえ、さっき出て行ったわ。そこで待っていたら野村君を連れてきてやるって……」


 それを聞いて、ミースケがすかさず動いた。


「キョウコ、先に行く!」

「お願い!」


 踵を返してミースケの後を追おうとしたとき、カトリーヌは恭子の腕を掴んで引き止めた。


「待って、片瀬さん」


 焦る恭子が振り返ると、カトリーヌは先程までとは打って変わって険しい顔をしていた。


「ごめん、如月さん。私、急いでるの」

「行かせないわ。また私の目の前で彼を横取りしていく気?」


 振り解こうとする手を掴んだまま、カトリーヌは腹立たし気に恭子を睨んだ。


「そんなこと言ってる場合じゃないの。手を放して!」

「放さないわ。あなたの魂胆は分かってるんだから」


 あの保健室でのことを相当根に持っているみたいだ。

 執念深い性格であることは知っていたが、今ここでカトリーヌに、無駄な時間を使っている暇など無かった。

 

「さっきの猫と共謀して、野村君を横取りする気ね」

「なに言ってるの? どうかしてるわ」


 さらにしつこく食い下がるカトリーヌに、恭子は普段は見せることの無い苛立ちを見せた。


「如月さんに構ってる暇なんてないの! いいから放して!」

「私なんて相手にならないって言いたいの? この泥棒猫!」

「泥棒猫はどっちよ! いい加減にして!」


 焦りと苛立ちから、恭子もカトリーヌと同じようにその腹立たしさを相手にぶちまけた。

 そしてカトリーヌは掴んでいた手を放して、そのまま振りかぶった。

 甲高い音がトイレの中に響いた。

 カトリーヌの平手打ちが恭子の頬を捉えたのだった。

 恭子は叩かれた頬を押さえながら、カトリーヌを睨みつけた。


「気が済んだ?」


 怒りをこらえきれずに手を出してしまったカトリーヌは、明らかに自分がしてしまったことに動揺していた。

 叩いた掌を見つめて言葉を失っているカトリーヌを置いて、恭子は踵を返した。

 しかし、駆け出そうとしたその先に、あいつがいた。


「クロ……」


 恭子は足を止めて、トイレの入り口に二本足で立っているクロと向かい合った。

 恭子に向ける双眼は、前に見た黄色い目ではなく、何故か血のように紅かった。

 そして、まるで人間がそうするであろう二本足で、クロはゆっくりとこちらに歩いてきた。


「ようやく邪魔者なしで君と会えた」


 その口ぶりで、この異形のものが自分を狙っていたことを恭子は知った。


「最初から私を狙っていたのね……」

「それを話す必要はないだろう。どうせ君はここで終わるんだから」


 恭子はカトリーヌを庇うようにして、じりじりと後退した。

 まだ状況を呑み込めていないカトリーヌは、豹変したクロに戸惑いつつ、疑問を口にした。


「クロード、これは一体どうゆうことなの?」


 クロは真紅の双眼を光らせて、少し首を傾げた。


「まだ気付かないのかい、カトリーヌ。君は僕の期待通りにお膳立てをしてくれたんだよ」

「お膳立てって、あんた……」

「欲張りなカトリーヌ。愚かで可愛らしい君にお礼を言わないとね。今まで本当にありがとう。とても楽しかったよ」


 異形のものは、その口元を器用に吊り上げて、悪魔的な笑みを作って見せた。


「お別れだね。カトリーヌ」


 そして怪物は、少女たちの前で本当の姿を現した。

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