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世界最強猫と私 リ・スタート  作者: ひなたひより
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第21話 意気投合

 部活紹介から一週間が経った。

 未来を知っている恭子は、予定通り仮入部してきた男子四人と女子二人の顔ぶれに少なからずほっとしていた。

 前回の部活紹介の騒動で、強い意志の力が発揮されると、本来確定しているはずの未来が変わり、新しいイベントが起こってしまうということを体感した。

 世界の理に抗える力。

 この力を甘く見ない方がいい。そう言っていたミースケの言葉の重さをあらためて感じさせられた出来事だった。

 イベントが起こり、変化した未来もあるが、こうして見知った部員が揃ってくれたことで、マイナスの作用は働いていないのだと恭子は安堵していた。

 将棋部にも新入生がそこそこ集まったらしく、しばらくは二年生の見学は断っているのだと耳にした。

 それに吹奏楽部にも大勢新入生が集まったらしく、生徒会の仕事もしているカトリーヌは忙しくてそれどころでは無さそうだった。


 このまま野村君への関心を失ってくれたらいいけれど……。


 恭子はそんなことを願いつつ、今日起こるであろうイベントに胸をときめかせていた。

 前回のループでは今日の部活後、初めて少年と一緒に帰った。

 未来を知るミースケが校庭に現れ、裏門から帰ろうとした恭子と忠雄が自転車置き場でばったり出会うのだ。

 まあ、ミースケが絡んで操作している訳だから偶然ではないのだが、必然であってもドラマティックな出会い方をして、ちょっといい感じで一緒に帰ることになる。

 少年と話をするのはこの間の遠足以来だ。

 心待ちにしていたこの機会に、恭子の胸は期待で膨らんでいた。



 そして部活が終り、制服に着替え終わった恭子と美樹は校舎を出た。


 にゃー。


 猫の声。


「なんか猫みたいだよね。学校に迷い込んだか?」


 猫好きの美樹が敏感に反応した。恭子はイベントが始まったことを知り、美樹と共に鳴き声がした校庭の茂みに向かった。


「あっ、いた」


 しかし美樹が指さした先にいたのは、恭子の予想していた猫ではなかった。


「にゃー」

「トラオ!」

「えっ? 何? 恭子んちの猫?」


 まさかの猫違いに、恭子は見間違いかと目をこすった。


「前に飼ってた三毛猫の後釜ってこと?」


 狼狽える恭子に、猫好きの美樹は興味津々で訊いてきた。

 恭子は首を横に振って否定した。


「いや、トラオは野良猫だよ。うちのミースケの友達なの」

「ミースケ? じゃあやっぱり新しい猫飼ったんだ」

「うん。言ってなかったけど、ついこの間。また今度紹介するね」


 美樹はトラオの前にかがんで、わしわしと撫で始めた。


「君、トラオっていうのか。いかにも、ザ・野良猫って感じだけど、人見知りしないいい子だねー」


 トラオはやや迷惑そうにされるがままになっている。

 ペット禁止のマンションに住んでいる美樹は、相当モフモフに飢えているみたいで、ここぞとばかりに触りがいのあるトラオの体を撫でまわす。


「いやー、君、最高だね。大人のオス猫の魅力に溢れてるわー」


 余程トラオを気に入ったのか、美樹はトラオを抱き上げると頬をスリスリと擦り付けた。

 気に入らないものをすぐに殴るトラオに、親友が張り倒されないか恐々としつつ、大人しく恭子は見守っていた。

 しかし可愛がられることに快感を覚えたのか、トラオはなんだか照れ臭そうにされるがままになっていた。

 もしかするとこの二人、いや、一人と一匹はなかなか相性がいいのではないのだろうか。

 少年との運命的なイベントの前に、親友の美樹とトラオが運命的な出会いをしてしまったようだ。

 しかしこの後どうなるのだろう。ミースケではなくトラオが現れたのには何か理由があるのだろうが、トラオにバトンタッチしても、あのイベントが起こるのだろうか。

 真面目に恭子が悩んでいると、美樹がトラオを抱いたまま上機嫌で尋ねてきた。


「ねえ恭子。この子ってさ、いつもどの辺りにいるの?」

「え? そうねー、確か神社を根城にしてるとか言ってたっけ」

「神社かー。恭子の家の近くのだよね」

「うん。それとしょっちゅう家に遊びに来てるよ」

「ホント? じゃあ今度恭子の家に行って、この子と遊んじゃおうかな」


 余程気に入ったらしい。トラオもなんだか満更でも無さそうだ。


「ちょっと重たいけど、途中まで抱いて帰ろうかな」

「え? 抱いて帰るの?」


 ホクホクな感じの美樹を前に恭子は思い悩む。

 恐らくこのあとの少年とのイベントのために、トラオがピンチヒッターで現れたわけだ。

 しかし美樹はホクホクでトラオも幸せそうだ。

 ここはいつもお世話になっている二人、いや、一人と一匹に譲るとするか……。


「美樹、じゃあトラオをお願いね。神社の近くで放してあげたら勝手に帰ると思うよ」

「あれ? 恭子はどうするの?」

「私はちょっと忘れ物。先に帰ってて」


 明るく手を振ってから、恭子は踵を返して駆けだした。

 トラオがいなくても、一応自転車置き場に行ってみよう。恭子はまだ少し期待しつつ、裏門へと続く道を急いだ。

 しかし、駆け込んだ自転車置き場にはもう人影はなかった。

 美樹がトラオを撫でまわしていた頃に、少年はここを去っていたのだろう。


「あーあ」


 恭子はそう呟いて茜色の空を仰ぎ見る。


 綺麗な雲。

 きっと明日もいい天気だ。


 鞄を胸の前に抱いて、しばらく空を眺めたあと、恭子はまた正門へと戻って行った。



 帰宅した恭子が部屋に戻ると、やはりミースケは外出中のようで、どこを探してもいなかった。

 制服を着替え終えてしばらくしてから、窓の外に姿を見せたミースケを入れてやり、今日のことを訊いてみた。


「ああ、すまなかったな。ちょっと気になることがあってそちらの用事で出かけていたんだ。トラオにそっちへ行くよう言っておいたけど首尾よく行ったか?」

「それがあんまし。でも美樹とトラオは仲良くなってた」

「じゃあ、キョウコは忠雄とは帰れなかったってことか?」

「まあそうなの。ちょっと残念」


 そして手短にこんな感じだったと伝えると、ミースケは腕を器用に組んでウーンと唸った。


「すまんキョウコ。人選を、いや猫選を誤った。しかしあいつ、ホント役に立たない奴だ」

「トラオのせいじゃないよ。猫好きの美樹がトラオに惚れこんじゃって間に合わなかっただけだよ」


 いつになく余裕のある恭子に、ミースケは少し首を傾げて不思議そうな感じだ。


「いつになくプラス思考だな。なんだか少し大人になったか?」

「そう? まあ、あの穴も塞いだことだし、野村君とは焦らずゆっくり仲良くなっていきたいんだ。それに私、ミースケがいてくれるから安心してるの」


 恭子の言葉に、ミースケは蒼い目をパチクリさせて、長い髭をビビビと震わせた。


「そうだな、キョウコ。俺に任せとけ」


 猫背の背中を少し伸ばして胸を張ったミースケは、表情には表れていなかったけれど、照れているように恭子には感じられた。

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