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世界最強猫と私 リ・スタート  作者: ひなたひより
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第20話 先輩として

 恭子が気分良く通学路を下校していると、ばったりトラオと遭遇した。

 人とばったり出くわすことはたまにあるものの、猫とこんな感じで出会い頭に遭遇するとは、漫画みたいだと恭子は感心していた。


「キョウコじゃないか、調子はどうだ?」

「すこぶる好調。トラオの方は?」

「俺か? 俺はまあけっこう大変なんだなこれが」


 何だか愚痴でも聞いて欲しそうな雰囲気に、ミースケのおかげで只今ハッピーになっている恭子は、トラオの話をちょっとだけ聞いてやろうかという気になった。

 近くの空地の土管に一人と一匹が腰かけて足を伸ばすと、丁度暮れ行こうとする夕日を肩を並べて眺めるような感じになった。


「しかし、土管って、こんなもの今時置いてあるところがあったなんて……」


 あんまし座り心地の良くない冷たい土管に、恭子は感心してしまった。


「まあ、地べたに座るよりかはましだろ。座れるだけ良しとしようや」

「そうね。そんで何か話したいことがあるみたいだけど」

「そうなんだ。キョウコ、聞いてくれよ」


 射し込む夕日に目を細めながら、早速トラオの愚痴が始まった。


「例のあいつのことだよ。ほら、あの黒いやつ」

「ああ、トラオが指導している向こう側の絶対者ね」

「そう、イマイチ出来が悪くってさ、手を焼かされてるんだよ」


 あの電波塔に開いていた穴から出て来た中途半端な絶対者は、トラオと知識を共有することで、そのうちに使い物になる予定だった。

 なんだか自分の手で面倒を見るような感じで張り切っていたトラオが、早くも挫折しかけている様子なので、恭子は少し心配になった。


「トラオの手に余る暴れん坊だってこと?」

「いや、そうゆうわけじゃないんだけど……」

「なあに? 奥歯にものが挟まったような言い方ね」


 よくよく聞いてみると、単純なことだった。

 人間と同じく、絶対者にも個性というものがあるらしい。

 情報を共有できても、同じような考えを持って行動するわけでは無いらしい。

 トラオの言い分をまとめると、つまり単純に、あんまし性格が気に入らないといったところだ。


「キョウコも知ってのとおり、俺はおおらかで話しやすい感じの性格だろ。それに比べてあいつは何というか、融通が利かないって言うのか、ちょっと細かくって腹を割って話しにくいというか」

「つまりはトラオは適当な性格で、黒いのは几帳面ってこと?」

「いや、俺だって繊細な所ぐらいあるよ。キョウコは誤解しているみたいだけど」


 いいや、そんなことはないよ。あんたは繊細とは程遠い、相当適当な性格だよ。


「そんでソリが合わないって訳ね。でもそれって人間でもよくあることだよ。あんまし気にしない方がいいんじゃない?」

「そう言われたら身も蓋もないだろ。もうちょっと真面目に考えてくれよ」

「分かったわよ。じゃあ、具体的にあんたたちに何があったか、詳しいエピソードを話してみてよ」

「そうだな……」


 トラオは器用に顎に手を当てて、何かを思い出すようなしぐさを見せた。


「キョウコは俺が誰の家に世話になるわけでもなく、自由を謳歌している生活をしているのは知っているだろ」

「うん。その日暮らしで、あちこちで餌をもらって、たまに私んちに忍び込んでくる生活をしてるのは知ってるよ」

「そうかも知れないけど、ちょっと言葉を選んでくれよな。なんだかだらしない奴だって誤解されそうじゃないか」

「はいはい」


 妙な所にこだわりのあるトラオに苦笑するも、恭子は聞き役に回ってやることにした。


「そんであちこちで寝てたらさ、あいついつの間にかいなくなってたんだ」

「逃げ出したってこと?」

「うーん、じゃなくって、決まった寝場所を自分で見つけてきてさ、俺を置いて、夜はそこでぐっすり眠っているらしいんだ」

「いいじゃない。トラオもそうすれば?」

「いや、俺は縛られたくないんだよ。誰かにペットとして飼われるなんてプライドが許さない」


 その割にはしょっちゅうおやつをねだって来るよね。その辺りのプライドはどうなのよ。


「そこの家のやつに媚び売って、寝床だけでなく餌までもらってさ、あーやだやだ」

「いいじゃない。そこは自由にさせたげなよ」

「まあ、そこは譲ってやるとして、あいつ最近食いもんにやたらと好き嫌いをするようになったんだ」

「最近って、ついこの間、仲間になったばかりでしょ」

「まあ、そうなんだけど、神社でもらえる乾燥キャットフードは食べようとしないし、俺が適当にもらってる猫まんまにも手を付けようとしない。おまけに今朝は俺の好物のチクワを分けてやったのに、プイってどっか行きやがった」

「それでご立腹なわけだ」


 舌の肥えているやつみたいなので、何でも食べるトラオはやりにくいということなのだろう。


「なあキョウコ、聞き分けのない後輩を、先輩として引っ張っていくにはどうしたらいいと思う?」


 何だかまともなことを言っている。

 先輩という響きが気に入っているのだろうか、はてまた先輩風を吹かしたいだけなのか。


「そうねー、トラオは先輩らしく後輩を導きたいわけね」

「そうなんだ。なんかいいアドバイスくれよ」

「うーん」


 タイムリープしているとはいえ、中学二年の恭子はまだ今のところ、後輩と絡んだ経験はほぼない。従ってトラオの求める先輩目線の金言を言ってやれる自信はなかった。


「あのさ、トラオ、もう卒業しちゃったけど、昨年ちょっといい感じの人がいてさ、その先輩、みんなから慕われてたのよね」

「おお、どんな感じなんだ? 聞かせてくれ」


 トラオは黄緑色の目を輝かせて食いついてきた。

 人間の先輩の話が、こいつらに当てはまるかは分からないが、一応話しておくことにした。


「いや、まあ優しくってさ、後輩の話をよく聞いてくれる先輩だったんだよね」

「話を聞く? 聞くだけでいいのか?」


 トラオは真剣だ。真面目に自分を変えようとしているみたいだ。


「そうねー、親身になって話を聞いてくれて、いつも背中で引っ張ってくれてたみたいな」

「背中で引っ張るって? 手で引っ張らないでか?」

「そうゆうんじゃなくって、ニュアンスよ。色々口出しするんじゃなくって行動で示したって感じ。分かるでしょ」

「なるほどな……」


 トラオは恭子の隣で器用に腕を組んでうんうんと頷いた。


「俺に足りなかったのは背中だったってことだな」


 トラオは猫背の背中を少し伸ばして、やる気をみなぎらせた。


「よーし、先輩であるこの俺が、背中であいつを引っ張ってやることにするか」

「そうだよ。そうしなよ。トラオならきっと出来るよ」

「なんだか自信が湧いてきた。ありがとな、キョウコ」

「うん、どういたしまして……」


 本当にちゃんと分かっているのだろうか。

 急に勢いづいたトラオの猫背の背中に、ちょっとした不安を感じてしまう恭子だった。

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