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世界最強猫と私 リ・スタート  作者: ひなたひより
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第12話 起こるべきこと

 昨日の失敗を挽回しようと、気合いを入れて学校へ行った恭子に、意外なことが待っていた。

 靴箱で上靴に履き替えようとした時に、指先にまたあの感触を感じたのだった。


 まただわ!


 この数日で、これが三回目のラブレターだ。

 いくらなんでも、もう無いだろうと、全く頭に無かったのもあって、恭子はその場で跳び上がった。

 すぐ傍で靴を履き替えていた美樹に悟られぬよう、恭子は細心の注意を払った。


「あのさ、美樹、ちょっと先行っててくれない?」

「え? なんで?」

「トイレ行きたくなってさ」

「ああ、早く行ってきなよ」


 美樹は生理現象だと素直に捉えて、先に行ってしまった。

 そして上靴に履き替えて、すぐにトイレへと駆け込み、呼吸を整えて小さく折り畳まれた手紙を開いて見る。


 片瀬恭子様


 何度もこのような手紙を書いてしまい申し訳ありません。

 この数日間よくよく考えたのですが、お忙しい片瀬さんに時間を割いてもらうことはやはり失礼だったと思い、考え直しました。

 余計な気を遣わせてしまったことを反省しております。

 この間のお礼をと思っておりましたが、この手紙でその感謝をお伝えしておきます。

 片瀬さんの勇気と優しさに僕は本当に感謝しています。

 一年の時のお礼も言えていなかったことを、ここに謝罪し更なる感謝を申し上げます。

 本当にありがとうございました。


 野村忠雄


 手紙を読み終わって恭子は愕然としてしまっていた。

 分かっていたはずだった。

 自分が姿を見せなければ、彼は責任を感じてしまうのだと。

 嫉妬した感情を押さえられず、私は大切な人を傷つけた。


 ごめんなさい。


 後悔が恭子の胸を締め付け、手にしていた手紙を持つ手が細かく震えた。


「私、最低だ」


 恭子は少し皴になってしまった手紙を丁寧にたたんで鞄に入れると、トイレから飛び出した。

 そのまま恭子は廊下を駆け上がる。

 一刻も早く彼に謝りたかった。

 階段を駆け上がり、自分の教室を素通りし、真っ直ぐ少年の教室を目指す。

 そして開けっ放しの扉から教室の中を覗き込み、恭子は少年の姿を探した。

 しかし何度見まわしても少年の姿はなかった。

 恭子は廊下側の席にいた男子生徒に声を掛けた。


「あの、野村君知らない?」


 男子生徒は教室を見回して「さあ」とだけこたえた。

 すると話を聞いていたのか、隣の席に座っていた女子生徒が、すかさず教えてくれた。


「さっき、廊下で如月さんと話してたけど」

「如月さんと? あ、ありがとう」


 恭子は礼を言ってから、自分の教室に急いだ。

 カトリーヌとは同じクラスだ。もしかするとそこにいるのかも知れない。

 恭子が自分のクラスに入ると、すぐに美樹が手招きしてきた。


「恭子、ずいぶん遅かったじゃない」

「うん、ちょっと時間かかった」

「すっきりってわけね」


 当然そう捉えるのが普通なので、恭子は何も言わなかった。

 恭子は鞄を机に置いて、教室に見当たらないカトリーヌのことを尋ねた。


「如月さん見なかった?」

「え? 見てないけど、如月さんがどうかしたの?」

「いや、どうもしないけど……」


 教室に二人がいないということは、忠雄とカトリーヌはきっと一緒にいるのだろう。

 また昨日のような嫉妬が恭子の胸に湧き上がって来た。

 しばらくしてカトリーヌは教室に戻ってきた。

 続いて眠たげな顔で現れた担任教師が、おはようと生徒に声を掛ける。

 恭子は、落ち着いた雰囲気で席に着いたカトリーヌをじっと見る。

 しかし、その物腰からは特に何も変わった感じはなかった。



 一時限目の授業のあとは体育だった。

 今はもう止んでしまったが、通学途中にポツポツ降り出した雨のせいでグラウンドが濡れてしまい、授業は体育館で行うこととなった。

 着替えに時間を取られてしまった恭子は、忠雄と話せないまま、二時間目を迎えた。

 ハードルの予定だった体育の授業は、バスケットボールに変更された。

 恭子の記憶には、前回のタイムリープで過ごした100日間の記憶が鮮明に残っている。ミースケの話では途方もない回数をタイムリープして繰り返してきたらしいが、恭子の記憶は前回のものにとどまり、それ以前の記憶は今のところ甦ってはいない。

 タイムリープ前の試合では圧勝していたのを知っていた恭子は、ボールを追いかけながら、結果を知っていることに対するつまらなさをどこかで感じてしまっていた。


 早く終わらないかな……。


 忠雄のことが頭の中にあり、どこかしら上の空でボールを追いかけていたせいなのだろう、このイベントに変化が起こっていることに恭子は気付いていなかった。

 そして突然気付かされた。


「恭子!」


 前は通っていたはずの美樹からのパスが止められた。

 動き出しの遅れた恭子に、出そうとしたボールの軌道が変わったせいだった。

 慌てて恭子はボールを奪いに行こうとする。

 しかし、すぐにパスを出されて、相手チームのエースにボールが渡った。

 あっという間にボールはゴールネットを揺らした。

 恭子は額の汗を拭いながら唖然と立ち尽くしていた。


 また私のせいでイベントが変化してしまった。


 恭子は自分が関わったイベントの未来が狂い始めたのに焦りを覚え、何とか挽回しようと、がむしゃらにボールを追いかけた。

 あの少年との未来に狂いが生じ始めていると感じていた恭子は、今起こっているイベントの変化に冷静さを失いつつあった。

 僅かに味方チームがリードしていた終盤、恭子に向かって出されたパスをブロックしようと、相手チームの一人が飛び込んできた。

 その瞬間に恭子も動き出していた。

 そしてボールに手を伸ばした二人が交錯した。


 ドン!


 もつれるように倒れ込んだ二人に、周囲にいたクラスメートたちが駆け寄って来る。そのあと教師が体育館にホイッスルを響かせた。



 保健室のベッドで横になり、窓の外の青い空を見ていた恭子に、様子を見に来た美樹が声を掛けた。


「大丈夫? 恭子」

「美樹」


 恭子はベッドから体を起こすと、心配そうな顔をする美樹に謝った。


「ごめん、なんか心配させちゃったね」

「いいのよ。それよりもう大丈夫なの?」

「うん。頭打ったからしばらく安静にしとけって言われただけ」

「そう、良かった。ホントあんた熱くなりすぎよ。ただの練習試合だっての」

「そうだよね……」


 苦笑するしかなかった。確かにどうかしていた。


「まあ、あれから結局、うちのチーム勝ったよ。一応伝えとくね」

「勝ったんだ……良かった……」


 チームの勝利を聞いたことで恭子は安堵していた。

 起こるべきイベントを良くない方に変化させてしまっている自分に、焦りを感じていたからだった。

 特異点と同じ力を持つ者はこの世界の理に抗える力を持っている。そうミースケは言っていた。

 最善の未来に舵を切る努力を怠れば、自分に宿っているこの力は望まない方向に働いてしまうのではないだろうか。

 恭子は自分の行動が重い責任を伴うものだということを、自覚し始めたのだった。


「じゃあ、恭子、私行くね。まあ、あんたはもうしばらくゆっくりしときなよ」

「うん、ありがと」


 美樹が出て行ったあと、恭子はまたベッドに横になった。


「ミースケ……」


 少し心細くなった恭子から、自然とその名が口をついて出て来た。

 そして、思い浮かべた面影に癒されて、恭子はいつの間にか目を閉じて眠りに落ちていた。


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