九章 神の舟 壱、暁屋神世界に来る
神の世界へ。
暁屋は神世界へと転移した。
これより、暁屋のメンバーは神が行き来する舟の船頭となった。
風光明媚な景色が広がる。
山々は広がり、澄んだ水の川は流れ大海へと注がれる。
空気は霞がかっている。
時は俗世を隔て、ゆっくりと感じられる。
ゆるやかな流れの小さな川のほとりに暁屋はある。
いつものように一郎は桟橋の端に腰かけ、煙管をふかしていた。
ザッ。
神の足音がする。
一郎は振り返る。
「一郎」
「・・・サルタヒコ」
「まいるぞ」
「ああ」
一郎は竿を握りしめ、サルタヒコ神を舟に乗せると、神の川をくだっていく。
◇◇◇
「はい。そこまでじゃ」
虚無世界の天から声がした。
ゆっくりと降臨してきたのは、子ども姿をして、狩衣と羽衣、すげ笠を身に纏った神だった。
「サルタヒコ様」
フィーネは片膝をつき、恭しく膝をつく。
「久しいの。龍の神、フィーネ」
サルタヒコは言った。
「誰だ。お前は」
一郎は突然の来訪者に苛立つ。
「神じゃ」
「神だ」
サルタヒコとフィーネは同時に言った。
「まずは、ワシの話を聞いてくれんか」
サルタヒコは優しい口調で語りはじめた。
「一郎・・・そして皆が異世界に飛ばされたのは、そう我等神々の所業じゃ。神と神との戦いは、それは長き時を経ていろんな場所で行われておる。よき神わるき神それは人によって様々じゃ。しかし、ワシはワシを信じる神として、この世界を守らなければならぬ。それいは旅の神であるワシの遠き血を受け継ぐ。お前たちの力が必要なのじゃ」
「代理戦争?」
「お主がそう思えばそうじゃろ。そう思うてかまわん。じゃが、そうなければ世界の秩序は保たれぬ」
「言い草だな」
「いまや、神に近い力を有したお主じゃ、もっとも、だが、そのように仕向けたのもワシである」
「すべての神の御業か」
「棘があるの」
「身に覚えあるだろ」
「然り。分かった。事が成ればお主の願いすべて聞き入れよう・・・どうだ」
「・・・分かった」
「ふむ。お主が壊した世界の構築まで、今しばらく時間がかかる。暁屋の面々と神の住処でしばし逗留するがよい」
◇◇◇
霞がかる山水の神仙世界を舟はゆっくりゆっくりと進む。
暁屋来る。




