弐、桜と子ども探偵団
ほっこり。
桜は可愛らしい気配を、ここ最近ずっと感じていた。
(ふふ)
思わず、笑みがこぼれる。
くるりと反転。
すっ。
姿を隠すが、爪が甘く隠れた壁むこうに、エルフの耳がぴょこぴょこ揺れ動いているのが見えている。
「ふふふ、では」
桜は呟くと、不意に船頭部屋へと駆けこんだ。
「あっ!おにいちゃん」
「うん、ディジーおいかけるぞ」
ディドとディジーは後を追って走る。
船頭部屋はものけのからだった。
「あれ?」
ディジーはあたりをきょろきょろと見渡す。
「きえた」
ディドは目をぱちくりさせた。
2人は部屋を捜索しはじめる。
しかし、桜はどこにもいない。
「ちぇっ」
ディドは言った。
「たんていごっこどうする?」
ディジーは兄に尋ねる。
「また、こんど」
「うん」
2人は手を繋ぐと、外へ出ようとする。
テーブル下に隠れていた桜は、ここぞとばかりに兄妹の背後から姿を見せる。
「わっ!」
「わわわ、びっくした!」
2人は跳ねあがって驚く。
「ふふふ、小さな探偵さんたち、こんには」
桜は腰をさげ、ディドとディジーの目線の高さで話した。
「バレたか」
「バレてたの」
「バレないでか」
腰に両手をあて言う彼女。
「・・・・・・ふ」
「ぷっ」
「はははは」
3人は思わず笑ってしまった。
船頭部屋のテーブル椅子に腰かける3人。
桜のいれたあたたかいココアの香りが部屋に漂う。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
兄妹はぺこりとお礼を言うと、フーフーと息を吹きかけながら甘いココアを飲んだ。
「で、探偵さん達は、私を調査していたのよね」
「うん」
と、正直に答えるディジーに、
「こらっ、たんていは、ひみつにしなくちゃいけないんだぞ」
と、兄ディドは諫める。
「あっ」
と、慌てて口を塞ぐディジー。
「まあまあ、調査対象の私にバレちゃったんだから、探偵さんたちには秘密を教えてもらいたいな」
「・・・・・・どうする?」
と、ディジー。
「しかたないな、このココアおいしいし」
ディドは、ごくごくと喉を鳴らしココアを飲み干すと、
「おかわり」
「はいはい」
桜はくすくすと笑いつつ、ディドのカップを受け取った。
ことり。
テーブルに音が響く。
「さくらはイチロー・・・しゃちょうさんのおよめさんだよね」
ディドは、おかわりのココアは躊躇なく飲もうとする。
「あちち」
「ほら、ふーふーして」
「ふーふー」
「ディジーもおかわり」
妹が右手をあげる。
「はい」
桜は頷き、小さな手からカップを受け取る。
火傷した舌を出してフーフーしつつ、
「きゅうにおよめさんきたよね」
と、ディド。
「ね」
と、ディジー。
「そっか、不思議?」
「うん」
2人は素直に答える。
「じゃ、茜も急に来たんじゃない?」
「あ」
「そっか、でもおよめさんじゃない」
「ディド君、こだわるね」
「ぼく、めいたんていだから」
「ふむふむ。さすが」
桜はどう答えるべきかと思案し、正直に言ってみた。
「私はずっと彼に会いたいと思っていたの。そう願っていたら、ここに来ちゃった」
「・・・ふーん」
「そうなんだ」
2人は頷き合うと妙に納得した様子を見せる。
そして、同時に言った。
「よかったね」
「うん」
窓からあたたかい日差しが射しこみ、3人はほっこりと笑いあった。
まったり。




