伍、一郎、職を斡旋する
社長一郎。
暁屋の舟屋は木造の二階建てで、船着場のある桟橋隣にある。
一郎はエルフ家族を二階の応接室に招いた。
「おいっ!ばあさん」
彼は階下の受付をしているフィーネを呼んだ。
「誰がばあさんだいっ!失礼な」
ダンダンと床板を叩きつけ、感情露わにやって来るフィーネの剣幕に、家族は思わずたじろいだ。
「300も生きてりゃ・・・」
「その件は、もうたんさんだよ・・・で」
「ああ、すまんが、この夫婦に茶を淹れてやってくれんか・・・それと」
「子どもたちだね」
フィーネは彼の意を察して、子どもたちを手招きした。
「ちょっと、お父さんとお母さんは、うちの社長と話があるみたい。お姉ちゃんと遊ぼう」
彼女はにこりと笑った。
「ばあ・・・」
フィーネはキッと一郎を睨み、みなまで言わせない。
彼女は子どもたちディドとデイジーと手を繋ぎ、階段を降りていった。
ソファに腰かけ、対峙する一郎とルーン夫妻。
テーブルに置かれた紅茶の白い湯気がたちのぼる。
・・・・・・。
・・・・・・。
室内には沈黙が訪れていた。
ぽりぽり音をたてて、一郎は頭を掻いた。
「さてと・・・なんであんなことをしたのか話してもらおうかといいたいところだが・・・話したくはないかい」
夫妻は顔を見合わせ俯く。
「ふん。ま、別に聞かなくてもいいけどな」
「・・・あの」
クレイブは口を開いた。
「紅茶冷めるぜ。飲みなよ」
「・・・はい」
2人は紅茶を啜った。
「生活に困ってんだろ」
「はい」
「そこで一つ相談だが、俺んとこで働いてみないかい」
「えっ」
フレアは目を丸くして驚きの表情を見せる。
「ま、ここ人手不足なんだよ」
「・・・・・・」
「家が無いんなら、住み込みでもいいからさ」
「・・・そんな」
「おっと」
一郎は手で制し続けて、
「申し訳ないとか、後ろめたいなんてのは、どうでもいいことだ。あんたたちには、子どもがいる。人生、真っ当に生きたいだろ・・・それともあんなこと続けるのかい」
「それは・・・」
「嫌だろ。失礼だが、あんた達には無理だ。優しすぎる」
一郎は笑った。
「で、やるかい」
「はい!」
夫妻は返事をして頷いた。
「大したお給金はやれないかもしれないが、人並みの生活ぐらいは出来るようにするよ」
「ありがとうございます」
「親父さんは船頭をやってもらう。それから奥さんは、あのばあ・・・フィーネの手伝いをしてやってくれ」
「ありがとうございます」
2人は何度も深々と頭を下げた。
「よしてくれい・・・それから船頭の仕事は、簡単そうに見えて意外と難しい・・・出来るかい」
「はい必ず」
クレイブは目を輝かせて頷いた。
「決まったな」
一郎は、両膝を叩いて、フィーネと子どもたちを呼んだ。
社員をげっとする。