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漆、ケンジ奪還

 ケンジの帰還。


 大柳舟屋が死に体となっている噂は、一郎にも当然知ることである。

「さて、どうしたのものかな」

 一郎は呟いた。

「ケンジ・・・」

 茜は心配そうに呟く。

 彼は、そんな孫の様子をちらりと見つめ、思案する。

「イチロー、彼を救いましょう」

 フィーネは言った。

「だけど、本人は大柳船頭を望んでいる」

 一郎は目を閉じた。

「それは、記憶がないから・・・戻ったらきっと」

 茜は呟いた。

「ふむ。そうは言ってられんか」

 彼は頷く。


 桜舞うヤナガーの掘割。

 今日もケンジは川下り、ここ最近、頭がぼんやり、身体がフラフラ、呂律もまわっていない。

「今から・・・め・・・めいぶつ・・・しろ・・・すいもん・・・」

「ちょっと、船頭さん大丈夫」

 お客の一人がケンジの顔を覗き込む。

「ああ、すいません。大丈夫ですよ。ホラ」

 彼はデッキの上ではねてみせた。

「あ」

 お客がそう言った瞬間、舟は城入り水門の激流に巻き込まれる。

 舟が水流で斜行し、ジャンプしてバランスを崩したケンジは落水する。

(しまった)

 激しい水に飲みこまれ、ケンジは水底へ沈んでいく。

・・・・・・。

・・・・・・。

 薄れかかる意識の中、

(前もこんなことがあったような)

・・・・・・。

・・・・・・。

(はっ!)

 蘇る記憶。

(嫌だ・・・こんなところで・・・)

 重い身体は動かない。

 ケンジは明るい水面へと両手を伸ばした。

(あ・か・ね)

 彼は幼馴染の名を呼ぶ。

 茜が手を差し伸べる。

 ケンジはその手を掴んだ。


「ぷはっ!」

 水面へとあがる2人。

「よし」

 一郎はサムアップした。

「茜、よくやった」

「うん」

「ケンジ」

「・・・・・・」

「ちょっと休め」

「はい」

 朦朧とする意識の中、ケンジは安堵ともに呟いた。

 一郎は2人を舟へと引きあげる。

「じゃ、あと頼むぞ」

 暁屋社長は、隣の大柳舟に飛び乗る。

 不安がるお客たちに笑顔を見せ、

「いや~ハプニングでしたね。大変、おまたせしました。お舟は出発いたします」

 彼はすれ違いざま2人へ手をあげると、踵を返し舟を進めた。


「・・・・・・」

 ケンジは舟の上で大の字で仰向けになる。

「もう、大丈夫だから」

 茜の言葉に、彼はゆっくりと頷いた。

 


 一郎、大柳へ。

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