肆、大柳高みを目指す
大柳絶好調。
大柳舟屋の朝礼が行われた。
いつもの人を蔑むような表情とは違いユング夫妻が笑顔でいる。
ケンジは直感的に嫌な予感がした。
「皆喜べ」
開口一番、ユングは言い、皆を見渡す。
「なんと、王族御用達の舟屋に抜擢された。我々の日々の研鑽が身を結び、あっという間にあの暁屋を追い越したのだ」
メルダは大げさに拍手をし、
「皆、私たちの舟屋が王家に認められたのよ」
誇らしげに胸を張った。
船頭達は互いの顔を見合わせ、複雑な顔をしていた。
(確実に仕事量が増える・・・だが名誉なことだ)
と、船頭長のバンはそう思った。
そうして朝舟がはじまった。
ケンジは薄靄煙る早朝、城の門近くの桟橋に舟をとめる。
侍従たちと会釈をすると、コースの打ち合わせを行う。
次にメイドたちが朝食を舟の中へ運び、彼もそれを手伝う。
遅れて王族が到着し、およそ50分かけて、朝早い掘割を舟は進む。
朝一番の凛とした空間と、澄んだ空気を吸い込むとケンジは力が漲るような気がした。
しかし、ふたを開けて見ると激ハードな仕事の日々のはじまりだった。
王族は気まぐれである。
朝食舟に夜舟など、急な予約が入り、その度に舟の内装の仕様を変え、王族を手厚く迎える。
キャンセルもよくあり、その度に人員が割かれる。
通常の乗合舟も絶好調とくれば、船頭の休む暇などない。
ケンジはまるまる一か月間休んでいない。
一日の大半が休憩時間もないほど、めまぐるしく働いた。
朝食舟から日常業務そして夜舟とこなすと、時には午前様となることもあり、船頭達の顔はやつれ心身ともに限界を迎えようとしていた。
・・・が。




