第六章 解放のときと終焉 壱、暁屋にて
暁屋にて。
コーヒーカップがふたつ。
白い湯気がほのかに香りを運ぶ。
暁屋の社長室で、一郎は茜の話を聞いていた。
「ふん。フラれたか」
一郎の言葉に途端に彼女の顔は真っ赤になる。
「ちょっ!なに聞いてたの!じぃじ、そんな話じゃないでしょ」
「ふふ、その怒りよう、まんざらでもなさそうな・・・」
「やめてよ、幼馴染のことを心配してなにが悪いのよ!」
茜の鬼の形相に一郎は首をすくめた。
「すまん、すまん・・・しかし、どうしたものかの」
一郎はカップの取っ手を持ち、口へとコーヒーを運ぶ。
「辛そうにしていた、きっとアイツ・・・」
茜の顔は曇る。
「茜」
一郎は彼女の顔を見た。
「うん?」
「それはお前の主観じゃろ」
「だって」
「誰でも分かると言いたいんじゃろ。じゃが・・・ケンジじゃったかの・・・が、大柳にいることを望んでいる、やりがいと責任を感じておるとすれば」
「・・・・・・すれば」
「余計なお世話じゃの」
一郎はあっさり言った。
「だって、じぃじが大柳はよくないって」
茜は口を尖らせた。
「ああ言ったが、ケンジのやる気とは別問題じゃて」
「そんな」
「だが、社長のユングはちとな」
一郎は含みのある言い方をする。
「ほら、その言い方~」
彼女は人差し指で祖父を指す。
「指さすな。大柳社長は船頭本当のところを知らない」
「えっ」
「知らない者が、上に立つとどうなる?」
「・・・・・・・」
「軋轢と崩壊だよ」
「・・・そんな」
「しかし熱意と情熱そして仕事熱心・・・ヤツはそうだった」
「だったら・・・」
「だけどな、その思い仕事至上主義を皆が望んでいると思うか?それぞれ考え方も異なる家庭もある」
「最近」
「うん」
「大柳の仕事ぶりを見ていると、特にそう思うよ」
「・・・大柳の崩壊」
茜は呟く。
「ケンジか・・・なんとかしないとな」
「じぃじ・・・言っている事が矛盾してるよ」
「あ、そうじゃな」
一郎は思わず苦笑し、コーヒーを啜った。
茜のコーヒーはすでに冷めていた。
一郎と茜。




