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陸、大雨の惨事

 ぱわー。


 冬に珍しい、大雨が降った。

 家にたたきつける雨粒の音がうるさく響き渡る。

 そんな中、ケンジは布団の中で心地よい眠りについていた、連日のハードな仕事の中で、身体は疲れ果て、つい寝過ごしてしまったのだった。

「はっ!」

 慌てて起き上がると、就業前の時間となっていた。

「やべえ!」

 思わず、叫ぶと取るものも取り敢えず、部屋を飛び出した。


 雨が降ると舟に水が溜まる。

 こうなると、川下りの営業どころではないので、始業前に舟の排水作業をしなくてはいけない。

 当然、普段より作業時間がかかる訳で、より早い出勤が求められるのだ。


 大柳に着くと、皆は白い息を吐きながら懸命に舟の中に溜まった雨水をかきだしていた。

「ケンっ!てめえ!何時だと思ってる!仕事できねぇじゃないかっ!」

 ユングは鬼の形相で罵倒してきた。

「すいません」

 来て早々怒鳴られ、慌てて雨具に着替え雨中へと飛び出す。

 他の船頭は黙々と作業をしている。

「ケンさん」

 ボブが手をあげる。

「遅くなりました」

 ケンジは頭をさげて舟に溜まった水をかきはじめる。


 水かきの作業がようやく終わり、遅い朝のミーティングの時間が来た。

 苛立つユングは、いきなり怒号を船頭達に放つ。

「お前等、今日の状態分かっているだろ!俺はお前達の1時間前から来て水かきだしてんだぞ!あ!」

「・・・・・・」

 船頭達は時間外労働作業であることに、ぼんやり憤りを覚えつつも黙ってうな垂れている。

「特にケン!お前だ!よりによって遅刻しやがって!自覚あんのかっ、お前のせいで営業開始が遅れちまったじゃないか」

 営業したところで、この寒風吹きすさぶ大雨である客足は見込めない。

「すいません」

 ケンジは頭を下げた。

 だが、ユングの怒りは収まらない。

「ちったあ、頭を使え、な。考えたら分かるだろ?大雨降りました翌日どうなる・・・ん」

 社長は顎をしゃくりボブを見る。

「・・・俺っすか」

 うんうんと頷くユング。

「・・・あの、労働時間外ですよね」

 船頭の誰しもが言いたかったことを彼は口にした。

「そうだよ。それは自由裁量だ。だけど、だけどだよボブ、誰のおかげで仕事しているんだ」

「・・・・・・」

「な」

「・・・社長です」

「チッチッチッ」

 ユングは人差し指を左右に振る。

 ケンジは苛立ち拳を固める。

「違うよ。お客様だよ。お客様がいてこそだ。だったら分かるだろ。これ、お客様に迷惑かけてるよな、勿論、会社にもだ!」

 論点がズレている、みんなはそう思ったが黙るしかなかった。

「なあ、ボブよ」

「・・・はい」

 ユングは完全にスイッチが入り、瞳孔が開いている。

「あああ、今日どうするんだよ!」

 地団駄のち仁王立ちして皆を睨みつける。

 流石にメルダが間に入る。

「アンタ言い過ぎよ」

「ああ!言い過ぎ、そんなことあるか、こいつら仕事舐めすぎなんだよ」

(ああ、帰りたい)

 ケンジは切にそう思った。


 メルダはユングの耳元で何事か囁くと、2人はその場を離れた。

 ・・・・・・。

 ・・・・・・。

 船頭達はそれから30分立たされ続け待った。

 憤りと虚しい時間だった。



 はらすめんとお。

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