肆、新人登用
ケンジに・・・。
暁屋と大柳、2店舗が競合するようになって一か月が過ぎた。
寒風吹きすさぶ中にあっても、川下りは絶好調で連日お客は長蛇の列をなし舟の旅を楽しんでいる。
一方、どの船頭達も疲れがピークに達しようとしていた。
ヤナガーの観光は、川下りによって隆盛となり、異世界中から日帰り観光のメッカとして注目されるまでとなった。
午前中に川下りを楽しんだ後、城下町をぶらりして、観光を楽しむプランが整いつつある。
これは大きな国も財源となると見込んだ、ヤナガー国ベルガモット王により、観光が推進され大柳舟屋が誕生した。
そんな、かき入れ時の昼間、ケンジは社長室に呼び出される。
絶対、ロクなことじゃないなと思いつつ、扉をノックする。
「ケンです」
扉の向こうから、ユングのご機嫌な声がする。
「おう、入れ」
ケンジが部屋へ入ると、気の弱そうな若い男性が立っていた。
「喜べ」
「はあ」
「新しい仲間だ」
「そうですか」
「で、頼む」
「は」
「こいつの育成な」
「俺、今から川下りっすよ」
「だから一緒に連れて行くんだよ。現場研修だよ」
「はあ」
寝耳に水とは、まさにこのこと、ケンジは呆れてしまう。
「いいよな」
相変わらず有無を言わさないユングの口調。
「心の準備が」
ケンジも抵抗を試みる。
「そんな悠長なこと言っとる状況か、あん」
ユングは顎をしゃくって言った。
(やっぱ何言ってもダメか)
「わかりました」
ケンジは一礼をし、新人を手招きし、ついて来るように促し振り返る。
「頼んだぞ」
背後から聞こえる社長の一言。
「・・・・・・」
憤りの思いと共に、ドアノブを回した。
ケンジは廊下を、肩をいからせてずんずん歩く、その後ろに新人は続いた。
「・・・あの」
新人はおそるおそる背中のケンジに声をかける。
「なにか?」
見た感じは、30代で彼よりも年上に感じる。
ケンジは察知し出来るだけ、憤りをおさえ丁寧に対応を心がける。
ここで辞めでもされたら、社長夫妻に何を言われるか分かったものではない。
だがしかしの部分もある。
彼は立ち止まり、振り返ると柔和な顔を見せる。
「私は何を・・・」
突然の疑問であろう。
「ああ、まず自己紹介をしてなかったですね。私はケンです。アイアムアケン・・・最初に貰った英語の教科書みたいでしょ」
「・・・・・・」
実に大スベリしたことに気づく。
「ケンさんですか、よろしくお願いします。私はボブです。32歳」
「おお・・・っぽい。私は・・・いくつだろう。多分ティーンエイジです」
「お若いですね」
「いやあ」
多少、打ち解けた2人は並んで歩きはじめる。
「この仕事どうですか?」
ボブは尋ねる。
「ボブさん」
ケンジは真顔になった。
「無理だけはせんどいてください。まずは自分が1番ですよ」
「・・・は、はい」
ボブはその迫力にただ頷いた。
後輩が・・・。




