参、船頭ケンジの一日
はーどわーく。
大柳舟屋は暁屋とは正反対の北東外堀の端に店を構えている。
コースは外堀を経由して、以前、茜が子どもたちと巡った内堀を抜け戻って来る所要時間およそ40分である。
チケット代は暁屋より安く薄利多売をモットーとする。
営業時間は早朝8時から夕方17時までとなっている。
それでは、ケンジの一日を追っていくことにしよう。
大柳の朝は早い、一時間前には暗黙の了解で自主出勤する。
つまり7時の作業開始となる。
営業開始の8時まで、舟のメンテ、開店準備とケンジは駆けずり回る。
8時30分に最初の舟が出発する。
勿論、一番手はケンジだ。
ケンジのどんこ舟には、20名ほどのお客を乗せ早朝の静かな掘割を目指す。
とはいえ、船頭ケンジは次の番手があるので、悠長な気持ちではない。
お客の前では、丁寧な言葉かけと、適切なガイドで要所をおさえ極力体力の消耗をおさえる。
およそ40分の運航が終わり、客がいなければ休憩に入るのだが、ここ最近の盛況により、桟橋にはお客が列をなして待っている。
メルダは、到着後のケンジに、ぐるぐると手を回し、早く行けと舟の操船を促す。
こくり。
彼は頷くと、2回目の出発となる。
冬の気配が近づき、紅葉鮮やかなお堀周りの情景を来客は楽しむ。
ケンジは時間を気にしながら舟を進める。
大柳の桟橋に到着すると、引き続きずらりとお客が並んでいる。
メルダが手招きをする。
「いけるね」
ケンジは軽く右手をあげた。
昼時となり、城入水門橋の水門が開かれると、彼は竿を持つ手に力を込める。
激流に押される舟を巧み竿さばきで動かし乗り切る。
時に水飛沫が舞い、舟が左右に揺らぐ。
お客は奮闘する声援や感嘆の声をあげ、大いに喜ぶ。
到着、お客の並びも落ち着き、ケンジは桟橋を歩き、何か言いたげなメルダの脇をすり抜け遅めの昼食をとる。
当然、時間がないものだから、5分でかっこんで食べ、小走りで桟橋に戻る。
4回目、20人弱のお客を乗せた舟は、情緒豊かなヤナガーの景色を見つつ、外堀それから中道を抜けて、内堀へ向かった。
そして、5回目、最終便、お客の数も10名前後で、ケンジは襲い来る疲れと、若干の眠気に耐えながら、今日一日の操船終えるのであった。
その後は大急ぎで舟じまい、仕事あがりは真っ暗
となる。
家への帰り道、ケンジは冬の星空を見上げ、
「はあ」
深いため息をついた。
ため息もでるよね~。




