第五章 ケンジ苦境の時 壱、ライバル舟会社現る
暁屋に伝わる。
その日、船頭たちから次々と謎の舟に遭遇した話を一郎は聞かされた。
「あー、それはだな。まあ、そういうことだ。新しい舟会社が出来たってな」
と、彼は頭をかきながら歯切れが悪く答えた。
船頭達は寝耳に水な話に憤りを隠せない。
営業終了後、社長室で茜は、もの凄い剣幕で一郎を問い詰めた。
「あの舟は何?ケンジがいたんだけど」
「待て待て。ケンジって誰だよ」
「ケンジは同級生のケンジよ。私と一緒に波に巻き込まれた・・・」
茜は身振り大きく話す。
「・・・知らん。お前ともう一人巻き込まれたってことか」
一郎は率直に答えた。
「・・・そう。でもあの舟はどういうこと」
「だから、そういうことだよ。別の舟会社が営業をはじめたってことだよ」
「許可はいるでしょ」
「ああ、ベル・・・王から許可が下りている」
一郎は渋い顔をして、腕組みをした。
「知っていたの」
「ついこの前な・・・で、ケンジっていう同級生がいたのか客か?」
「いえ、船頭だった・・・でも、あいつ竿をさせなかったはず」
「ふむ」
一郎は思案し、
「・・・お前たち2人、こちらの世界に転生・・・転移したという訳だ。この世界にやってくると、得てして何かしら力が備わることが・・・」
「はあ、異世界転生って、なんでもアリだもんね」
茜は嘆息する。
「それ言っちゃあ、おしめえだ・・・で、どうする?」
一郎は苦笑した。
「どうするもなにも・・・むこうは私の事を無視したし・・・腹立つ」
「ふむ。様子を見るか」
「・・・うん、今度会ったら、また話しかけてみるわ」
「・・・・・」
一郎は椅子の背もたれに、体重をかけ両腕を頭の後ろに組んで天井を仰いだ。
「大柳の船頭か」
と、呟く。
「大柳?」
茜は訝しがる。
「あの舟会社の名前だよ。まさか、あいつが社長になるなんてな」
一郎は、苦い顔をして首を振った。
「どうしたの?そんな顔して」
「あいつは・・・駄目だ」
一郎はきっぱりと言った。
「新入り。舟の掃除、頼むわ」
同僚の船頭に言われたケンジは、一瞬、しかめ面になるが、気を取り直し、
「わかりました」
と、相手の顔を見ずに答えた。
(なにが新人だ。同じ日に仕事はじめただろうが)
心の中でそう悪態をつき、ぶつぶつと舟の側面を洗う。
ほどなくして、女性の呼ぶ声がした。
「ケン」
ケンジは振り返り言った。
「おかみさん」
「あの人・・・社長が呼んでいるよ」
顎でしゃくり促す。ちくりケンジは苛立つ。
「・・・分かりました」
彼は憮然とした表情で、作業を中断して社長の元へと向かった。
ケンジは大柳舟屋。




