拾、ディドとデイジーの川下り案内~後編~
新コース。
昔々、戦いが行われていた時代、ヤナガーの掘割は、外堀と中堀は完全に分かれていた。
後世、平和が訪れ、掘割の生活利便性に重要度がおかれると中道と呼ばれる、外堀と中堀を繋ぐ水路がつくられ、舟を活用し物資の輸送や人の運搬などを行った。
今は、新たなる掘割の活用として、一郎が川下り暁屋という観光業をはじめている。
それは、さておき、茜たちは狭い中道を進んでいる。
「ディド、ディジー、かなり狭いから、舟の中に手は入れててね」
「うん」
茜の言葉に2人は頷いた。
「・・・ここ、一番狭いじゃん」
彼女の呟きに、
「ね」
「ね」
と、2人は互いに顔を見合わせ、ひょこひょことエルフの長耳を揺らす。
ようやく、中堀へと入ると、掘割の幅が急に広がった。
大きな水王橋をくぐり、真っすぐ一直線の水路を舟は進む。
「おおきいおうちがおおいね」
ディドがきょろきょろと周りを見渡す。
「だね、おやしきみたい」
と、ディジー。
「ここは、王様を守る騎士達の街だそうよ」
茜は、一郎のざっくりとした掘割の説明を思いだし言った。
「ないと!」
「すてき!」
と、ディドとデイジー。
高天橋をくぐると、急激に狭くなりクランクが現れる。
茜は舟のスピードを下げ、たくみな竿さばきでギリギリの幅を接触せずにすり抜けた。
「ここは・・・」
茜はあまりの狭さと操船の難しさに呟く。
「おとうさんも・・・」
デイジー、
「ぎるもあさんもぶつかりそう」
ディドは顔を曇らせる。
「大丈夫、慣れたらなんとかなる」
「うん!」
再び掘割の幅が広くなり、舟は北上する。
左右には、薔薇の庭園がある。
「とげとげいたそう」
「きれい」
「ふーん、ここはすごく綺麗。お客さんも喜ぶね」
途中では、王の像が鎮座していた。
その先には、そびえ立つ王城がある。
再び狭いクランクが現れ、そこを抜けると北東側の中堀を進む。
徐々に水の流れが強くなり、舟が押される。
「アカねぇ」
「アカおねえちゃん」
2人は心配そうに茜を見あげる。
「大丈夫よ・・・でも、なんで水流が・・・そうか水門橋か」
舟の左側先には水門橋が見えてくる。
茜の言葉通り橋下には、激しい水流が波打っている。
「いくよ」
茜は竿を突き刺すと、ドリフト気味に水門橋を抜けていく。
激しい水の流れは直線に外堀から別の中道を通り海へと流れている。
「よいしょ!」
茜は水門際の石垣に竿をあてると、しならせ西の外堀へと舟をすべり込ませる。
ほどなくして、水の流れは打って変わって穏やかになる。
「あーおもしろかった!」
ディドは手を叩いて喜ぶが、
「アカおねぇちゃん、こわかった~」
と、デイジーは顔をくしゃくしゃにしている。
「ごめん、ごめん。もう大丈夫よ。さあ戻ろうか」
茜はデッキから降り、2人をぎゅっと抱きしめる。
「ここからは、いつものかわくだりだね」
「ね」
と、2人。
「そうね」
舟はヤナガーの伝説怪物キャッパ石像の横を通り、クランクを抜け、狭い石橋をくぐり、ゆっくりと暁屋桟橋へ着いた。
桟橋に戻った3人。
「ありがとう、おねえちゃん」
「私こそ、ディド、ディジー付き合ってくれてありがとう」
茜は笑顔で言った。
「また、さそってね」
ディジーはニコニコと笑う。
「ぼくもー」
と、ディド。
「もちろん」
朝焼けの中、茜は兄妹とハイタッチをした。
難易度高。
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