玖、ディドとデイジーの川下り案内~前編~
早朝、川下り。
晩夏の早朝。
朝の冷気が少し感じる頃、心地よい風が吹いている。
営業前の暁屋の桟橋には、茜とディドとディジーが立っている。
ルーン夫妻双子の兄妹は、とても仲が良く、2人は手を繋いでいる。
兄のディドは栗毛の髪に母似の顔立ちをしている。
妹のディジーはブロンドの髪に父譲りの優しい笑みを浮かべている。
人間でいえば幼稚園保育園年長さんくらいの年頃である。
「アカねぇ」
と、ディド。
「アカおねえちゃん」
と、ディジー。
「ほい、きた」
茜は竿を持ち、桟橋から舟へと飛び乗ると、両手を広げた。
「えーい」
と、ディドが茜目掛けてジャンプする。
「ほい」
茜は抱きしめて受け止め、ディドはちゃっかりと彼女の胸を揉む。
「もう」
「へへ~」
ディドは、にこにこと笑っている。
「ほらディジー」
茜は手を伸ばす。
「うん」
恐る恐る女の子は桟橋から手を伸ばし、茜の手を握りしめた。
ぐっと引っ張り、彼女はしっかりとディジーを抱きしめる。
「さ」
と、茜は2人に声をかける。
「うん」
と、ディドとディジー。
「れっつごー」
と、舟は朝の掘割をすべり進む。
「さ、今日は外堀一周じゃなく、新コース(仮)を行ってみるよ」
茜は竿をゆっくりと川底に挿す。
「うん」
「わかってる」
と、2人。
「じゃ、よろしくね」
「うん!」
「まずは、あかつきやのさんばしをでたら、ヤナガーばしという大きなはしをくぐるんだ」
ディドは言った。
「そう、この橋は大きいけど、掘割の水位があがった時には、橋の下に頭をぶつける危険性があるから注意が必要ね・・・作者が今頃になってコースの整合性をもたせようとするから」
茜は渋い顔をして、後半の部分を呟いた。
「おさかなさんもいるね」
デイジーは水面を指さす。
「そう、ここは柳川とは違い、ほぼ毎日水は澄んでるからよく見えるの・・・って説明的っ」
舟はヤナガー橋をくぐる。
「ここはおうちが、いっぱいあるね」
デイジーはぐるり周りを見渡す。
「ここはいつも、おとうさんたちがいってるとこだよ」
ディドはお兄さん顔をして言う。
「そうだね。ここはまだ外堀なので、一般の方の家が多いよね。ここの川下りは、近くに普通の生活があって、川下りという非日常の舟の旅を楽しめるのが面白いよね・・・ま、柳川と似ているね」
変わらず、後半は呟く茜。
「さあ、堀の東端に来たわよ。ここが緑のトンネル。掘割の角は鉤型になっているわ。これは、敵襲があったとき動きを遅らせるためのもの・・・うーん似てるくりそつ」
茜は首を傾げる。
「ここぼくすきー」
「あたしもー」
2人は、青々と生い茂る木々を見つめる。
木々の隙間から木漏れ日がさしこむ。
「ほくそうばし(北槍橋)だよ」
ディドは前に見える指さす。
「やっぱりせまいね」
ディジーは目を大きくする。
「そうね。そして大人にとっては低い橋。いい2人とも舟べりに手を置いちゃだめだよ」
茜の声かけに、
「うん」
「わかった」
と、2人は元気に返す。
「よろしい」
橋を抜けると、茜は左を指さす。
「じゃ、こっからは新コース、左の中道へ入るわよ」
「うん!」
2人は頷いた。
ゆっくりと茜は竿をさし、左へと向きをかえ、狭い中道へと進んでいく。
幼い兄妹のガイド。




