捨、再会
そりゃあね。
救いだされた茜は暁屋の社長室に布団を敷いて安静にして寝かされた。
見た所、外傷などもなく気を失っているようなので様子を見る事にした。
朝礼で一郎は、早々に皆に事の次第を告げ仕事を休業とした。
休みだと嬉々として引き上げる船頭達の中、クレイブだけが残念そうな顔を見せる。
「明日から頼むぞ」
彼はその姿をみて慮って言った。
「はい」
クレイブは一礼をして、家族のいる離れへと戻った。
「フィーネ」
一郎は踵を返す。
「あいよ」
フィーネは返事をする。
「すまんが、休業対応よろしく頼む」
「わかりました」
「すまんな」
「いいえ、これは貸しにしとくから」
「ああ」
彼女は片手を軽くあげ、その場を離れようとするが、一言、
「・・・お孫ちゃん、イチローに似てるね」
「そうか」
「うん、そっくり」
「だいぶ、大きくなって・・・な」
「そう」
「・・・なんで、こんなところに来ちまったんだ・・・」
「・・・ごゆっくり」
フィーネは目を伏せ受付へ向かう。
「ああ」
一郎は社長室に戻ると、椅子に背にもたれかかり孫娘を見つめる。
「すーすー」
微かに寝息が聞こえる。
「茜」
思わず孫娘の名前を呼ぶ。
その声に反応するように、
「ん、んんんん~」
彼女は上半身を起こすと大きく伸びをした。
一郎は思わずびっくりしてのけ反る。
「ん、ここは?」
見知らぬ風景に茜はきょろきょろと辺りを見渡す。
正面に若い男性がいた。
「きゃっ、誰!・・・あ、あれ私?助かった・・・の・・・あ・・・助けてくれてありがとうございます」
「どういたしまして・・・誰って・・・ワシだよ。ワシ?」
自分の顔を指さす。
「アンタなんか知らないわよ。新手のオレオレ詐欺?」
「あ」
彼は自分の容姿が変っているのを思いだした。
「ここ、どこなの?」
「ここは異世界、そしてワシはお前のおじぃじゃ」
「は?」
茜は顔を突き出して呆れ顔をし続けて、
「アンタいい年して中二病?」
「ん~困ったのう」
「困ったのはこちらの方だわ」
埒のあかない会話が続く。
「んじゃ、ワシの知っているお前のことを話すことにするぞい」
「急に何それ?」
「いいから聞け。お前の名前は川田茜じゃな」
「・・・何で知っているの」
茜は訝し気な目を一郎にむかって見せる。
一郎は意にかえさない。
「そして、親父の名が治郎、おふくろの名が美代じゃったの。弟が佐武郎で、ばあさんが桜、そしてワシがじぃじの一郎だ」
「・・・当たり」
ぼそり呟く。
「じゃろうな」
一郎は当然とばかりに頷く。
「そんなんじゃ!」
「まだあるぞい。茜はおねしょは小1まで治らんかった」
「な」
「右の尻にはハート形の蒙古斑」
「ひっ!」
「ワシにいつも甘えて・・・それから川下りが好きだったの」
「じぃじ・・・」
茜はじっくりと一郎の姿を見た。
確かに祖父の面影がある、それに左手の薬指には祖母とお揃いの結婚指輪がはめてあった。
茜の両目からは涙が滂沱とこぼれた。
「じぃじ~っ!」
一郎に抱きつく孫娘。
彼は孫娘の頭を優しく撫でた。
そうなるわけで。




