玖、一郎と茜
運命の再会。
「あれっ!」
クレイブは空を指さす。
「ああ」
一郎は空より落ちる茜を見上げた。
(・・・しかし)
彼は思った。
(なんでうつ伏せ・・・相場、空から舞い降りるヒロインは仰向けでしょうが)
と一人、心の中でツッコむ。
空の茜は、ほどなく上空で重力の法則にしたがい、急降下で落ちてきた。
それは一郎が予想していたより着地点は離れており、堀の真上であった。
「くそっ!クレイブ代われっ!」
彼は再び舟に飛び乗りクレイブから竿を取ると、全力で舟を押し落下する茜の元へ進める。
「よし間に合った」
デッキから、舟板へ降り孫娘を抱きとめようと両手を広げ構える。
その時、突風が吹いた。
「な」
舟は横に流され、着地点からわずかにズレる。
「くそっ!」
一郎の右斜め直上に茜が落ちてゆく。
一刻の猶予もない、彼は咄嗟に反転しジャンプ、舟から飛びだし孫娘を抱きかかえ落水した。
激しい水飛沫があがる。
(重いっ!)
茜を抱きかかえたものの、重力が加算され一郎の両腕に瞬間激痛が走った。
しかしそんなことも忘れ、懸命に水面へと孫を抱えあがる。
「クレイブ!」
舟上の船頭に呼びかける。
彼は竿をつかってゆっくりと2人に近づく。
「はい」
「この娘をあげてくれ」
一郎は茜を背中から舟のへりに押し当てる。
「了解です」
クレイブは彼女の両脇を抱え、なんとか舟へと引きあげた。
「いててて」
全身ずぶ濡れの一郎は、重い身体を引きずりながら転がるように舟へと戻った。
「社長」
「ん?」
「この娘は一体・・・」
「うん」
一郎は気を失っている空から降りてきた孫娘をじっと見た。
彼が茜に最後にあった頃より大きく成長している。
だが、一目見た瞬間で孫娘ということが解った。
「茜だ」
「?アカネ」
「孫娘だ」
「はあ?」
クレイブは素っ頓狂な声をあげる。
それもそのはず、この世界では一郎は20代の若者へと転生しているのだから。
(大きくなったな)
感慨深げに目を細める一郎だったが、感傷をすぐにおさえると、
「クレイブ戻るぞ」
と、踵を返し伝える。
「はい。孫娘って・・・」
「だから、孫娘だよ」
「はあ」
舟は桟橋へ暁屋へと戻った。
天よりうつぶせに落ちる少女。




