陸、そんなに言うならやってみそ
健司やってみる。
舟は外堀を進む。
堀の幅も倍以上に広くなり、さきほどの閉所的圧迫感が感じられなくなる。
途中、健司の買ってきたお菓子を食べながら昔話に花を咲かせる。
右手に杉森高校、米多比の森を横目に見つつ、ゆっくりと20分かけて、亀の井ホテル側の足湯公園に着いた。
そこの公衆トイレで厠たいむを済ませ、軽く足湯に浸かる。
「♪ふんふふーん♪」
茜は鼻歌まじりに、湯の中に浸けた足をリズミカルに動かしている。
ちらり、彼女の白い生足を見た健司は思わず赤面してしまう。
「ん?」
異変に気づいた茜は彼を見る。
「なんでもないやい」
「そう」
彼はどぎまぎする気持ちを紛らわそうと、話題を変えた。
「あのさ」
「うん?」
「やっぱ川下り・・・船頭って楽しそうだよな」
「そうかな」
「そうだよ」
「・・・・・・」
茜はじっと視線を足元へやり思案し、
「じゃ、やってみる?」
「へ」
「操船」
「ん?」
「やってみそ」
「・・・うん」
足湯付近の掘割の幅は広く、よく茜もここで一郎におねだりをして、竿をさしていて練習するにはもってこいの場所だ。
実際、よく舟の操船の練習場所にもつかわれる。
2人は舟に戻ると、茜は竿を健司に手渡す。
「・・・・・・」
「やってみて」
「おう」
「まずは真っすぐ動かしてみて」
「ああ」
彼は竿を力強く握り、水底に力強く突き刺す。
ぐいんっと舟は急スピードで90度に右に折れ曲がる。
「もっと、優しく、力を抜いて」
「・・・・・・く」
今度は舟を戻そうと左へ刺すが、
「竿がねまった」
「強く刺し過ぎよ」
舟は惰性で進み、竿を握りしめたままの健司は舟から上半身が出でしまう。
「どうしたらいい!」
焦る彼、
「竿を放しなさい」
彼女の言葉に頷き、即座に手を離す彼は勢いで舟板に尻餅をついて転げる。
操舵の竿を失った舟は、ゆっくりと堀の真ん中へと流された。
操船は一日にしてならず。




