弐、幼馴染
学校の帰り道。
学校帰り茜は家へと歩いていた。
「よう」
彼女は声のする方を振り返ると、不意にほっぺに冷たいものを当てられた。
「ケンジ」
「ほれ」
矢留健司は、茜と同級生の幼馴染である、身長171㎝の細長で髪は短髪、童顔で大きな瞳が特徴的な男子である。
彼は左手に持ったご当地アイスのカバヤアイスキャンディー(苺味)を、彼女の頬にあてて、右手で抹茶味のアイスを頬張って笑う。
「・・・冷たいよ」
「おう」
健司は手を引っ込め、アイスを手渡す。
「ありがと」
「おう」
茜はアイスを受け取ると、彼は首をすくませた。
2人は食べながら初夏の帰り道を歩く。
「なあ」
「ん?」
「なんで、今日、遅刻したん?」
「ちょっと、眠れなくて・・・寝坊」
「悪い夢でも見たか」
「ん~そんなとこかな」
「どんな」
「なんでアンタに教えなきゃいけないのよ」
「・・・別に無理にとは言わんけど」
「別にいいけど、じぃじの夢を見たんよ」
「お前の・・・船頭の一郎じいちゃんか」
「そう・・・私、じいちゃんっ子だから」
「ふーん」
健司は興味なさそうに、きょろきょろと辺りを見渡した。
「アンタ、自分から聞いたくせに」
茜は平手をあげると、彼は両手を広げ、
「ああ、ごめん。俺、お前んとこのじいちゃん、よう知らんし」
と、弁明する。
「・・・まあ、そうよね、こちらこそ」
「おう」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
2人は無言となる。
幼稚園、小学校と、数人の友人と仲よく遊び、中学まで同じ塾に通っていた2人だが、高校に入ると疎遠となり、今日、久しぶりに健司の方から声をかけたのだった。
しかし、いざ声をかけてみると、昔のように気楽に喋る会話がでて来ない。
なにを話そうかと思案する彼は、ふと思いだした。
「茜」
「ん」
「お前、まだ舟乗ってんの?」
「うん」
「へぇ~、小六ん時だっけ、俺や久や唯をのっけて、舟を操船したのは」
「そうね、じぃじが亡くなって、久しぶりに舟に乗った日だね」
「・・・なんか、ごめん」
「私こそ、ごめん・・・そうだ。ケンジ、よかったら舟乗ってみない」
「いつ?」
「ん、今日」
「・・・今日!」
健司の驚きぶりに、茜は思わず笑った。
茜のお誘い。




