第二章 孫娘茜異世界に登場 壱、じぃじが死んで3年
一郎の孫。
一郎は舟を漕いでいる。
雨上がりのからっと晴れた空の下、孫娘の茜を乗せて舟は進む。
「じいじ、わたしもやりたい」
幼い茜は、一郎に竿を渡せとせがむ。
「そうか」
彼はにっこり笑うと、デッキから降り、孫娘に竿を渡す。
「ん」
幼稚園児はよろめく。
「重いぞ」
一郎は、手を差し出し竿を渡すようにジェスチャアする。
「だいじょうぶだもん」
茜は大事そうに両手で竿を抱えると、ふらついた足取りでデッキの上に立った。
「ほう」
一郎は孫娘の根性に目を細める。
「ほらっ!じゃあ、じぃじ、いっくよ~」
茜は両手に全身の力を込め、竿を水面に刺しこむ。
その勢いで彼女は身体ごと堀に投げとばされそうになる。
「おっと」
一郎は茜を抱きかかえる。
「まだ早いかな」
「わたしできるもん!」
ふくれっ面の孫娘に、一郎は微笑んだ。
「そうだな。じぃじと一緒にやろう」
「うん!」
一郎は茜の小さな両手に手を重ね一緒に舟を漕いだ。
茜は目を覚ました。
時計を見ると夜中の2時だった。
「夢か・・・」
布団にくるまる。
・・・・・・。
・・・・・・。
茜が最後に一郎を見たのは、小学校6年の頃、それは突然だった。
彼女は、じいちゃんっ子で、いつも「じぃじ」と呼んで慕って、よく遊んでもらっていた。
その日は突然だった。
茜が学校から帰って来ると、顔に白い布をかぶせられ一郎は死んでいた。
信じられなかった。
嘘だと思った。
眠る祖父の身体を揺り動かし、起きさせようとする。
「じぃじ起きてよ!」
「やめなさい!茜!」
母から止められた。
祖母は正座したまま、視点が定まらないまま、一郎の亡骸を見つめている。
すすり泣く声と静寂しかない仏間。
茜は母に抱きつき泣き続けた。
はっ!
目覚めた。
朝だった。
川田茜は高校1年生である。
身長160㎝のすらりとした体格、褐色の肌に、快活そのものの笑顔、大きな瞳、長い髪をポニーテールで束ね、まだ初々しい黄土色のブレザーと赤い胸元のリボン、タータンチェックのスカートを履き、彼女は学校へと町を走っている。
現世では一郎が亡くなって3年となる。
「あ~思いだした」
昨夜みた夢をふるふると振り払い、茜は視線を腕時計へと移すと、すぐさま視線を前に向けスピードをあげる。
「遅刻しちゃう!」
夜中に降り溜まった雨だまりをかわしつつ、彼女は雨上がり晴天のもと駆ける駆ける。
茜。




