参、交渉
まさかの・・・。
山水画のような、山々に囲まれた孤島。
強引に舟を接岸して上陸すると、サルタヒコはものも言わず、いの一番に駆けだした。
「おい」
「後で着いてまいれ」
呼び止める一郎を振り返りもせず、猿神の姿はあっという間に消えた。
「・・・おいおい」
一郎は舟を岩にロープで係留させると、どっかと舟板に腰をおろす。
「どっこいしょ」
彼は煙管を取り出し一服はじめる。
紫煙が空にあがる。
「どうなってんだ」
そう呟き、ポケットから、煙草の葉を取り出し、次の一服をしようとしたが、思い直し彼はポケットに戻すと、サルタヒコを追いかける。
居館の前に辿り着くと、サルタヒコは大声で叫んだ。
「祖神ナギ様、お目通り願いたい!」
「ならぬ」
地鳴りのような声が響く。
「そこをなんとか」
「ならぬ」
「高天原の危機でございます」
「知らぬ」
「祖神ナミ様が黄泉より大軍を連れて、高天原に大挙しております」
「存ぜぬ」
「あなた様も知っておろうがっ!誰と誰がこの元凶を招いたと」
「我と妻を元凶と申したかっ!童サル」
「この未曽有の危機を救うのは、あなた様しかおりませぬ。ワシはナミ様に言われました。この世界を救うには、ナギ様がナミ様の元へ出向かれよと」
「我が妻の元へ・・・ならぬ。行かぬぞ」
「ならば、この地は戦となりましょう」
「知ったこと・・・」
「でない事はありましょうか!あなた様が手塩にかけて作ったもの・・・もはや、刻限はありませぬ。ご決断をお願いしたい」
「・・・・・・嫌だ」
サルタヒコの懇願は届かず、居館の扉は固く閉ざされたまま。
「おいっ!」
サルタヒコの背後で一郎が叫ぶ。
「こらっ!一郎、無礼だぞ」
「奥さんに会いに行けよ!この世界云々より、アンタに会いたがっている大事な人がいるんだろ」
「人よ。我に物を申すか」
「ああ、会って話し合ってみれば、大概の事はなんとかなるもんだ」
「・・・それはお前のことか」
「も・・・ある。恥ずかしくったって、いいじゃないか、わざわざ地獄から会いに来てるんだ。こんな機会は二度ない」
「・・・・・・」
ナギは押し黙り考える。
「互いのわだかまり今こそ、解き放つ時ではないでしょうか」
サルタヒコは続けて言った。
長い沈黙の後、ナギは答えた。
「よかろう。サルタヒコ、人の子一郎よ。我は行かん」
居館の門が開き、祖神ナギがついに姿を現す。
「よし」
一郎は頷く。
しかし、サルタヒコは寂しそうな表情をみせ小さく呟いた。
「申し訳ありません。刻限が来ちゃいました」
「そんなバナナっ!アッチョンブリケっ!!」
一郎とナギは叫んだ。
時間切れオチっ。




