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捌、走り梅雨会議

 雨の日。


 不思議なことに、ここ異世界ヤナガー町は気候が西日本と酷似している。

 生態系や植物もそっくりであった。

 尤も一郎が、この町を気に入っている理由がそこなのである。

 5月のはじめ、長雨があり客はほとんど来ない日が続いた。

 雨の日は雨合羽を用意して雨中もむ運航は出来るのだが、そんなもの好きはこの異世界には少ないようで、雨の日は日中10人もくれば御の字であった。

 この日も朝からしとしとと雨が降り続き、暁屋の連中は、ぼーっと雨空を眺めていた。

 

 一郎は、そんな様子を見て、パンパンと柏手を打った。

「集合~」

 受付兼事務のフィーネとフレア、船頭のギルモア、アルバート(異世界人)、船頭見習いのクレイブ、船頭兼及び送迎、仙人の(リー)、配船のゴースト(幽霊)自称錬金術師のバリーの面々が渋々、ぞろぞろと待合室に集まった。

「せっかく暇なんだ。ミーテイングでもしよう」

 一郎は皆にそう告げ、フィーネに目配せを送る。

 彼女は頷く。

「じゃ、会社の現状だが、ば・・・フィーネ頼む」

「あんた、またババアと言おうとしたね」

 フィーネは一郎を睨みつけるが、ぽんとフレアの肩を叩く。

「はい」

 フレアは緊張気味に喋りはじめる。

「弊社暁屋ですが、観光川下り事業は、はっきり言って赤字です。来客数に対して、人件費が大きく上回っています」

 一郎は、うんうんと頷き、従業員たちからは溜息が洩れる。

「ま、趣味ではじめた会社だ。それなりに魔王討伐で得た金もあるしポケットマネーでなんとかなる。だけど・・・だ」

「それでいいのか・・・ですね」

 バリーは身体をゆらゆらと揺らめかせながら、配船帖を眺める。

「月平均500名様ほど、一人当たり1500ジュドル(この世界の通貨単位)として、75万ジュドル、我々の賃金平均が20万ジュドルなので140万・・・マイナス65万ですか・・・」

「そんなに」

 アルバートは絶句した。

「言うつもりはなかったが・・・うちの会社は大赤字だ・・・会社として成り立っていない現状で、これをワシの趣味として良しとするか・・・まあ、それもいいが」

 一郎は渋い顔をした。

「この仕事を誇りたいアルよ・・・誇るには、ちゃんとした仕事にしたいアル」

 李はそう呟いた。

「曲がりなりにも会社なんでな。ワシもみんなが気兼ねするような仕事場にしたくはない。ここで軌道に乗せようと思う」

「フンなんでぇ。忙しくなるのかい」

 ギルモアはぶっきら棒に言った。

「ああ、来月から、一時間一便を改め二便とする。これで単純計算で2倍となる」

「ダメだ忙しすぎる!」

 ギルモアは怒鳴りつけた。

「そうかい、ワシが別世界にいた頃は休みなく1日4回は川下りをしていたもんだが、ワシを含め5人の船頭がいるんだ。一時間のインターバルはあるし決して難しいとは思わないが・・・」

「そんなの知るかい」

 ギル爺は憮然としている。

「だけど、このままじゃ、イチローに食べさせて貰っていることになるのよ」

 フィーネは老人を諭す。

「じじいとばばあばっかりで年がいって体力的にキツいのはよく分かる。だけど、やってみないかい」

 一郎は皆に問いかけた。

 ギルモア以外はみんな賛同した。

「・・・・・・」

 キョロキョロと辺を見渡し、

「けっ、仕方ねぇな」

 ギル爺は観念した。

「決まったな」

 一郎は満足気に微笑んだ。


「でも、社長」

 おずおずとクレイブが手をあげる。

「ん?」

「船頭が5人って」

 一郎は彼を指さす。

「私?」

「来月から船頭だ。みっちり鍛えるから、覚悟しとけ」

「はいっ!」

 クレイブは満面の笑みを見せて、妻フレアの手をとって喜んだ。



 暁屋会議は踊る。

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