プロローグ始~じじぃ異世界へ転生する~
じじい、激昂す。
真夏日、照りつける太陽が、川面に反射しギラギラと目を焼きつける。
熱をはらんだ風が、じんわりと体力を奪う。
全身の毛穴から汗が噴き出し、額から噴きだした汗が目の中へ次から次に入ってきて沁みる。
老人は竿持つ手に力を込める。
(クソったれが!)
竿を直上から水面へ落とし、底につけ、しならせると反動で舟を進める。
老人の職業は水郷柳川川下りの船頭である。
連日の猛暑日、齢77歳の老人は汗の入った目をしばたかせ、心の中で悪態をつく。
(この老人に、3回も川下りさせるなんて!)
舟には制限人数いっぱい23名のお客が乗っている。
前方の子ども連れの外国人家族は、やんちゃな子どもがやたらと舟の外へ顔をだして、水面をじっと眺め危険極まりない。
何度も注意をするが、老人の目の前にいる若い集団が酒盛りをはじめ、大騒ぎで、声がかき消され前に届かない。
「ちょっと、静かにしてくれませんか」
老人は集団に声をかける。
彼等は聞こえないフリをする。
中団のお客さんからは、「聞こえない」とキレる声。
ぎーぎーぎゃーぎゃーと騒がしく統制のとれない舟は、堀の中を進んでいく。
ぐらり。
老人は立ち眩みを覚えた。
(いかん)
気を確かに持ち、息を吸い懸命に呼吸を整える。
足がふるふると震える。
(馬鹿が、老人に無理をさせるから)
老人は上司の「行ってこい」と言った無慈悲な顔を思い浮かべると、かっと目を見開いた。
(最後まで安全に客を届ける)
竿が重い。
いつもの何倍何十倍にも重く感じる。
息があがる。
「はあはあはあ」
(深呼吸だ)
老人は深く息を吸い込む。
舟は狭い橋下にさしかかる。
一隻の舟がギリギリ通れるぐらいの狭さ、5m前まで来ていた。
子どもが無邪気に顔を乗り出す。
親は景色に見とれて気づかない。
老人は叫ぶ。
「危ないから頭をさげて!べりーでんじゃー!」
しかし、若者の大きな笑い声でかき消される。
「黙れっ!」
頭に血がのぼった老人が叫んだ瞬間、彼の視界は真っ暗になった。
異世界転生テンプレよろしく。