( ´ ▽ ` )ノ( ´ ▽ ` )ノ( ´ ▽ ` )ノのお話
男爵令嬢が婚約者へ突進して来ます。わたくしは、大きな愛に守られて今、幸せです。
「バルト皇太子殿下は、私の事が好きだって言ったんですう。私達は愛し合っているんですう。どうか、皇太子殿下を自由にしてあげてくれませんかっ。」
帝国学園の門の傍で、馬車から降りたシュリーヌ・キリギス公爵令嬢に向かって、ピンクのふわふわな髪の令嬢が叫んできたのである。
その令嬢は更に言葉を叫んだ。
「昨日だって、皇太子殿下と愛しあったんですう。図書室で皇太子殿下はそれはもう熱く熱く私の腰を抱き寄せて、耳元で愛を囁かれて、その後、熱い愛のまぐあいをしたんですっ。きゃっ。恥ずかしいーーー。」
シュリーヌは令嬢を無視して、学園の門へ向かった。
何やら令嬢はわめいているようだが、気にすることはない。
毎日、同じことを叫んで来るので、慣れてしまった。
一々相手をしていたら、それこそ疲れるだけである。
バルト皇太子が近づいてきて、
「おはよう。シュリーヌ。迷惑をかけて申し訳ない。」
「解っておりますわ。貴方様がモテすぎるのがいけないのです。」
「私は令嬢達とは何も関係を持ってはいない。せいぜいおはようの挨拶をするくらいなんだが。」
バルト皇太子は黒髪碧眼の凄い美男だった。だからシュリーヌという婚約者がいても、追い落とそうと、ある事無い事、言ってくる。特にあのアリア・カッシーナと言う男爵令嬢はしつこかった。
毎朝毎朝同じ事を言ってくる。非常にイラついた。
だが、やられたままで終わりたくはなかった。
だから、取り巻き達を使って、シュリーヌは仕返しをすることにした。
取り巻き達の令嬢は信頼おける派閥の貴族令嬢達である。
一人目は背の高いやせぎすで噂好きの、二人目はお洒落で流行大好き、三人目は背の低いちょっと太目の食べる事が大好きな令嬢だ。
そして、彼女達は揃って、口が達者だった。
「シュリーヌ様、ここはわたくし達にお任せ下さいませ。」
「色々な令嬢達が言ってきますけれども、特にあの男爵令嬢はしつこいですわね。」
「わたくし達でなんとかしなければなりませんわ。」
まだ、バルト皇太子殿下に熱いまなざしで見られたと報告する令嬢は可愛いものである。
バルト皇太子と関係を持ったと言ってくるアリア・カッシーナ男爵令嬢は身分もわきまえずしつこかった。
取り巻き令嬢達は学園で、そしてドレスアップして夜会でアリアの悪い噂を流した。
「誰とでも寝るらしいですわ。カッシーナ男爵令嬢は。」
「わたくしも聞きましたわ。本当に下賤な事。」
「信じられませんわね。そんな令嬢が貴族の学園にいるだなんて。」
それはもう、取り巻き令嬢達は、見事に噂を流し続けたのである。
それによって、噂を流されたアリアには、下賤な男性達から夜のお誘いが絶えなくなり、それと同時に彼女と婚約を望む家が皆無となったのであった。
とある日、学園でアリア・カッシーナ男爵令嬢は涙を浮かべて、シュリーヌに食ってかかった。
「シュリーヌ様の差し金でしょうっ。私と皇太子殿下の真の愛を邪魔するなんてっ。
酷いですう。」
そこへ、バルト皇太子殿下がやってきて、シュリーヌに向かって、手を差し伸べる。
「シュリーヌ。迎えに来た。共に帰ろう。」
「きゃーーーー。バルト様っーーー。」
アリアはシュリーヌを押しのけて、バルト皇太子にしがみつく。
「私私私っーーー。わたしを連れていって。」
バルト皇太子はアリアを振り払う。べしょっと床に転がるアリア。
「ひどーい。皇太子殿下ぁ。」
バルト皇太子はシュリーヌを気遣って、近寄り、
「シュリーヌ。大丈夫か?」
そこへ、取り巻き令嬢達三人がドドドドドっと押しかけて来て、アリアをとっ捕まえて動けないようにする。
アリアが悲鳴をあげる。
「離してよぉーーー。」
「さぁ、ここはわたくし達に任せて。」
「急ぎ馬車へ。」
「さぁ早くっ。」
シュリーヌはバルト皇太子にお姫様抱っこされ、馬車に乗り込むことが出来た。
シュリーヌはほっと胸を撫で降ろす。
バルト皇太子が優しくシュリーヌの手を握り締めて、
「大丈夫か?本当にあの令嬢には困ったものだな。」
「取り巻き令嬢達がわたくしを守ってくれておりますわ。本当に助かります。」
「ああ、あの令嬢達が役に立ってくれてよかった。」
ふと、バルト皇太子の言葉に違和感を覚える。
「役に立ってくれてよかったって…お知り合いなのですか?」
「いや…何でもない。」
何だか嫌な胸騒ぎがした。
シュリーヌは自分が感じた違和感が…何だか解らず、頭を悩ますのであった。
アリアは、バルト皇太子に突進してくる。
学園でめげずにいつもいつも。
そのたびに、取り巻き令嬢達が、引き剝がし、シュリーヌに危害を加えようものなら。
身をもって庇ってくれた。
アリアに噴水へ突き落されそうになった。
シュリーヌを庇って、噴水に落ちたのは背の高いやせぎすの取り巻き令嬢だった。
噴水に落ちてから、その背の高い令嬢はびしょ濡れになりながらアリアに向かってわめきたてる。
「シュリーヌ様になんて事を。この事はわたくしが証人になって、先生に報告します。」
アリアは目に涙を浮かべながら、
「ちょっと手が滑っただけなのにひどーーーい。」
大事な取り巻き令嬢が、自分を庇って噴水に落ちたのだ。
シュリーヌは許せなかった。
バシっとアリアの頬をひっぱだいて、
「わたくしからも、先生の報告致しますわ。わたくしに危害を加えようとしたこと。
庇ったわたくしの取り巻き令嬢が噴水に落ちたと言う事を。覚悟なさい。」
睨みつければ、アリアは、涙を流しながら、
「シュリーヌ様がぁ。わたしを虐めたぁ…」
他の二人の取り巻き令嬢達が先生を連れて来て、口々に、
「アリアがシュリーヌ様を噴水へ突き落そうとして、代わりに彼女が落ちました。」
「アリアは危害をシュリーヌ様に加えました。」
教師はアリアを呆れたように睨みつけて、
「皇族からも苦情が来ている。アリア・カッシーナ男爵令嬢。家での謹慎を命じる。」
「私は悪くないのぉーー。」
学園の警備員にアリアは連れていかれた。
シュリーヌは噴水に落ちた令嬢を心配する。
「大丈夫?」
令嬢はニコニコ笑って、
「大した事はありません。他の皇太子殿下を狙う令嬢達も、しっかりと見張っております。
シュリーヌ様は安心してバルト皇太子殿下と愛を育んで下さいませ。」
他の二人も、
「応援しております。」
「わたくしもです。」
嬉しかった。学園に入学した時から、取り巻きとしていてくれる3人。
大事な友達だ。
シュリーヌは3人を抱き寄せて、
「有難う。貴方達のお陰で、わたくしは安心して学園で過ごしていけるのよ。感謝するわ。」
だから…卒業式の時にあんな事が起きるなんてその時、思いもしなかったのだ。
卒業式の後の卒業パーティで、バルト皇太子はシュリーヌとの結婚を発表した。
「卒業を機に、シュリーヌ・キリギス公爵令嬢と結婚する事となった。皆、祝って欲しい。」
「嫌よぉーー。バルト様はあたしの物なのぉーー。」
ピンクの巨大な化け物が、扉をけやぶって現れた。
化け猫の姿をしている。5mはあるだろうか。あの男爵令嬢アリアだ。
アリアは化け猫だったのか?
卒業生達が逃げ出す。
バルト皇太子はシュリーヌを庇って前に出た。
「私の妻はシュリーヌしかいない。消えよ。化け猫っーーー。」
三人の取り巻き令嬢達がドレス姿であっても、それぞれ、剣を持って飛び上がり、化け猫に斬りかかっていく。
化け猫の爪は令嬢達を鋭く斬り付けるも、何度も何度も取り巻き令嬢達は化け猫を斬り付けて。
シュリーヌは何が起きているのか解らなかった。
何が起きているの?あんなに傷ついてっ??アリアは化け猫?取り巻き令嬢達が何故戦っているの?
バルト皇太子が、手に剣を持つと、飛び上がり、取り巻き令嬢達に傷つけられフラフラした化け猫の眉間に剣を突き刺した。
「消えるがいい。化け猫め。」
「いやぁーーーーーー。バルト様ぁーーーー。」
化け猫は悲鳴を上げて、砕け散った。
後は目を見開いて、眉間から血を流しているアリアの死体が会場に転がるのであった。
シュリーヌは、バルト皇太子と三人の取り巻き令嬢達を気遣う。
「大丈夫ですの?皆、怪我は?」
バルト皇太子は剣を鞘に収めると、死体のアリアを見やり、
「怪我はない。このアリアと言う女、禁止されている魔法に手を出したな。愚かな事だ。」
三人の令嬢達は着ていた卒業パーティ用のドレスがボロボロだった。
「大丈夫です。」
「大した事はありません。」
「私達は今日、お役目を終えるはずだったので…」
シュリーヌは驚く。
「どういう事?」
バルト皇太子はシュリーヌの肩を引き寄せて、
「この令嬢達は私が魔法で作った令嬢達だ。君を守るために。」
「え???わたくしを守るために?」
「そうだ。」
やせぎすの令嬢が、
「わたくし達には名もありませんでしょう?名は無くても不便ではありませんでしたから。周りからも不思議に思われない魔法で作られておりました。」
お洒落好きの令嬢も頷いて、
「無事に最後までお守り出来て、安堵しております。どうか、ご結婚された後、帝国の為に良い国を作っていって下さいませ。」
太めの令嬢も、
「シュリーヌ様と過ごした3年間、とても楽しゅうございました。有難うございました。
今日、お二人が御無事でこの日を迎えられた事。嬉しく存じます。」
シュリーヌが驚いていると、三人の令嬢はフっと言えて、三枚の人型の紙に変化した。
その紙はボロボロで…
シュリーヌはバルト皇太子を睨みつけて、
「なんて貴方様は酷い。わたくしの友は皆、魔法で作られた紙だったのですね。わたくしは、これから先、学園での昔話を共にするお友達もいない。何て何て…皇族は魔法を使えると言う事ですけれども、こんな酷い魔法、いらない。いらないわっ。」
バルト皇太子がぎゅっと抱き締めて来た。
「私は君を守りたかったんだ。でも、いつも共にはいられない。だから、皇族だけが使える魔法で三人の令嬢を作った。いつもいつも君を守ってあげられるように。君を愛しているから。だからっ。」
「いやっーー。離してっーー。」
バルト皇太子の事が許せない。
シュリーヌは彼を突き飛ばして、会場を飛び出し、公爵家の馬車に乗り込むとその場を後にした。
悲しかった…
何で今まで気が付かなかった?
彼女達に名前が無い事を…
屋敷に帰るとベッドに潜り込んでシュリーヌは泣いた。
翌日、バルト皇太子が薔薇の花束を持って会いに来た。
会いたくない…しかし、両親が、
「皇太子殿下を待たせるなんて何事だ。」
「そうよ。早く会いなさい。」
仕方が無いので、ドレスに着替えてバルト皇太子に会いに客間へ行った。
「本当にすまなかった。」
謝りながら、薔薇の花束を差し出してくるバルト皇太子。
シュリーヌは薔薇の花束を受け取って、
「いえ、いいのです。貴方様はわたくしを愛しているからこそ、あの令嬢達を作ったのですから。それに、この結婚、取りやめる訳にはいかないでしょう?」
「そうだ。この結婚、今更取りやめる訳にはいかない。何より、私の伴侶は君しかいない。私はシュリーヌの事を愛しているのだから。」
バルト皇太子の気持ちが痛い程、解る…
悲しみやモヤモヤは残るけれども…
シュリーヌは彼を許す事にした。
彼の事を優しく抱きしめる。
「わたくしも貴方様の事を愛しておりますわ。帝国の為に貴方様を支えていきたいと思います。」
取り巻き令嬢達もそれを望んでいるだろう。
だから、シュリーヌは決意を新たに、バルト皇太子の為に生きる事にした。
それから一月後、帝都で、派手に二人の結婚式が行われた。
大勢の民衆たちが二人の結婚を祝ってくれる。
式を終えて神殿から、姿を現した二人を帝国民全員が祝福した。
「おめでとうっ。」
「お幸せに。」
「なんてお似合いな二人、美男美女ですわ。」
「めでたいめでたい。」
バルト皇太子は白の正装で、シュリーヌは白の華やかなドレスを着て、ブーケを持ち帝国民に手を振る。
神殿の花道で祝ってくれている貴族達の中に両親の姿が見える。嬉しそうだ。
学園のクラスメイト達の姿も見える。
あの中に、あの令嬢達の姿が無いのはなんて寂しい事か。
ふと、反対側を見れば、三人の取り巻き令嬢達がドレスを着て、にこにことシュリーヌの方を見ていた。
シュリーヌは思わず近寄って、
「貴方達…」
令嬢達はにこやかに、
「皇太子殿下が魔法をかけて復活して貰って、私達駆けつけました。」
「今日、祝えなくてどうするんです?おめでとうございます。」
「そうですよ。シュリーヌ様。おめでとうございますっ。」
三人の令嬢達に抱き着いて、
「有難う。貴方達に祝って貰って、わたくし、とても嬉しいわ。」
涙がこぼれる。
バルト皇太子は、シュリーヌの耳元で、
「少しは機嫌を直してくれたか?」
「ええ。とても嬉しいですわ。有難うございます。」
嬉しかった。友達達に祝って貰って、シュリーヌはとても嬉しかった。
更に嬉しかった事は…
新婚生活が皇宮で始まった時に、
「私達、シュリーヌ様付きのメイドになりました。」
「これからもよろしくお願い致します。」
「シュリーヌ様に危害を加える連中は排除致しますわ。」
三人の令嬢達をメイドに付けてくれた事だ。
シュリーヌは嬉しくて、バルト皇太子に抱き着けば、バルト皇太子は、
「令嬢達に名をつけてやらねばな。」
「そうですわね。貴方達、名前はわたくしが付けてよいのかしら。」
令嬢達はにこやかに、
「「「よろしくお願いします。」」」
バルト皇太子に愛されて、シュリーヌは3人の皇子を産んだ。
メイド達は皇子達をそれぞれ、守ってくれて、生涯シュリーヌに尽くしてくれた。
彼女達は人間ではない。それでも…大事な友達である事は変わりはないわ。
友を作ってくれたバルト皇太子、いえ、今は皇帝陛下ね。
側室を作らず、わたくしだけを愛してくれる…愛しいお方…
わたくしは今、とても幸せです。