入籍
朝目が覚めると、ピタ子の顔が見えた。ボヤけていた視界はクリアになった。彼女はすごい笑っていた。
「やっと目が覚めたね。」
「今、何時?」
「もう8時よ。」
「まだ8時か。もう少し寝るか。」
「ちょっともう起きてよ。」
彼女は俺の布団を引っ張っていたが、手がすべり床に尻もちをついた。
「ごめん。大丈夫か?」
「大丈夫よ。」
結局俺はピタ子に起こされて、一緒に朝ごはんを作った。ピタ子はどうやら結構朝方らしい。
「ねえ、昨日の本屋のおじさんは何で私の名前知ってるの?私、あの人のこと初めて知ったし、あの本屋も初めて行ったよ。もしかして不審者なの?」
彼女は昨日の本屋での出来事を切り出した。
「さあ分からない。だけどあそこには二度と寄るな。あのジジイには普通じゃないオーラを感じるんだ。」
「普通じゃないってどういうこと?」
「詳しくは分からないが、近づいたらとんでもない目に合うかもしれないんだ。俺は死神だからオーラで人のことを読み取れるんだ。流石にどこで暮らしてどんな生活してどんな人生を送ってきたかまでは分からないけどな。とにかくあの本屋には2度と寄るな。」
「そんなに言うならそうするよ。色々分かるんだね。」
俺はあの本屋のジジイのとてつもないオーラと彼女を失ってしまうんじゃないかと思う不安があった。
俺達は入籍するのに役所に行った。意外と役所の中にはそんなに人がいなくて手続きがスムーズにいきそうな感じだった。
死神と結婚する際、その旦那か妻はパートナーの死神の名前を決めないといけない。権限は人間側にある。
「ねえ、名前は亮太で良い?」
「何か違うな他にしっくりくる名前探して。」
「隼人はどう?」
「悪くは無いけど、それも違うな。」
「直樹は?」
「絶対やだ。」
そんな風に名前をあげてもらってはしっくりこないとたくさん言い続けた。
「今度こそ。健一はどう?」
「良いな。それで決まりだ!」
何でその名前が良いのか分からなかった。だけど何となくその響きが良かった。
手続きはあっさりと終わった。こんなに早く入籍が出来るなんて世の中変わってしまったものだ。
「おめでとうございます。ピタ様は日本で初の死神と人間の夫婦です。」
俺たちは思わずビックリしてしまった。まさか自分たちが初の死神と人間の夫婦になるとは思ってなかったからだ。
役所を出て一緒に公園に行った。
「まさか私達が初の死神と人間の夫婦になるなんてね。何か特別感があるわ。」
「そうだな。結婚式あげたいな。」
「昨日、お父さんとお母さんに報告したわ。」
「どうだった?」
「特に反対とかしなかった。普通にお祝いしてくれた。健一は両親に報告したの。」
「死神に親とかいないよ。一応妹はいるけどな。」
死神界では同じ型番のかまを持っている死神同士は兄弟になる。妹と俺のかまは同じだ。妹は人間に近い姿をしている。死神としての能力はかなりつたない。だがそこが少し可愛らしい。
「ねえ、妹さんの写真見せて。」
「良いよ。」
俺はピタ子に俺と妹が2人で写ってる写真を見せた。妹は結構美人でよく男にモテる。
「妹さん、キレイな人だね。2人とも凄い仲良さそうな感じで羨ましいな。」
「俺の妹に嫉妬してるの?」
「そんなわけないでしょ。」
ピタ子はどこか強がっていたが、俺からしたら凄い分かりやすい。本当は嫉妬してることくらい分かってる。そもそもそう反応すると思ってあんな写真を見せた。
「ちゃんと挨拶しないとだね。」
1週間後ピタ子の両親に挨拶しに行き、その次の日俺はピタ子と妹とカフェに行った。
「はじめまして、最近健一と入籍させて頂きましたピタピタ子です。」
「お兄ちゃん、健一って名付けて貰ったんだね。かっこいい。」
妹はピタ子の話すことを流した。
「ピタ子さんと結婚しても、私がお兄ちゃんの妹って言うのは変わらないでしょ。」
妹は相変わらずお兄ちゃん好きだ。これから妹が結婚出来るか心配になってくる。
「ピタ子さん、お兄ちゃんと結婚するなら、もっと美意識高く持ったら。今のあなたお兄ちゃんと全然釣り合ってないわ。」
「おい、みーちゃん。ピタ子にそんなこと言うなよ。」
「え?みーちゃんって呼んでるの?」
「いやこれは恥ずかしくて言ってなかったんだ。妹がそう呼べと言うから、2人で会うときだけはそう呼んでたんだ。」
「何か私場違いだったかもね。」
そう言ってピタ子は荷物を持ってそのままカフェを出て行った。
ピタ子は速歩きでどこかに行った。そうしていくピタ子を後ろから呼び止めた。
「ごめん。そんなつもりなかったんだ。」
「別にもういいの。」
「良くないだろ。」
「誤解しないで。健一が嫌いと言うわけじゃないの。今後妹さんと上手くやっていける自信がないの。あんなこと言われたら、気分良くないもん。」
「あいつの言うことは気にすんな。あいつはまだまだ子供なんだ。」
妹は相変わらず俺にくっつきまくってる。今までそれが原因で元カノと別れたことは何回かあった。
俺とピタ子は家に帰った。妹とのことは話さずいつも通り夕ご飯を作った。
「こうやって誰かと一緒に暮らすの初めて。」
彼女はどこか純粋な感じがした。あんなことがあったけど、浮かれている感じだった。
もちろんここには妹は呼ばないようにしようと思う。
「ピタ子は将来の夢とかあるの?」
「私は映画関係の仕事をしたい。自分の作り出す世界を映像にしたい。そう簡単に出来ないかもしれないけど、挑戦しない後悔が一番嫌だ。」
「俺は世界一周することだな。」
2人の夢がかなうのはいったいいつなのだろうか?




