死神男
俺は死神だ。つい最近まで人間達に煙たがれていたが、今は時代が変わり人間達と上手く一緒に暮らしている。
死神と言ったら、骸骨で大きなかまを持っているイメージではないだろうか?大きなかまを持っているのは間違えではない。しかし今頃そんな姿の死神はどこにもいない。時代と共に人間だけじゃなく、動物も植物も魔女も変わっていく。俺達もだ。俺みたいにウサギのような容姿をしている奴もいれば、人間とさほど変わらない容姿のやつもいる。もちろん俺は簡単に人間に近い容姿になれる。死神も社会的に活躍したため、「人権」と言うものが認められた。
この世界では多くの国で死神との結婚が認められている。先月俺が今いる日本やお隣の韓国でも死神との結婚が認められた。ちなみに死神は性別を選べる。俺は男として生きたいから男として生きている。
「ピタ子、俺と結婚してくれ。これがもう最後だ。」
俺は今ピタ子と言う人間のトランスジェンダーの女性にとてつもなく恋をしてる。彼女は20歳の専門学生だ。まだ就職できずにいる。
何故そんなにも彼女のことが気になるのか俺には分からないが、きっと彼女は俺が出会うべき相手なんだと信じている。
俺は人間のことも乙女心もよく分かってないが、彼女に直接自分の思いをぶつけている。30回くらい思いをぶつけ、結婚しようと言ったのは今回が初めてだ。彼女に指輪の入った箱を渡す。
「明日の夜7時にこの橋に指輪の箱が消えていたら、OKの印よ。」
「それでは確実に君が受け取ったことにならないな。」
「だからその時は星広場に来てね。」
彼女は面倒くさくて、変な女だ。でも結婚したい。
次の日、仕事に行った。俺は証券会社で働いてる。営業のノルマが厳しい会社だが、俺はなんなく契約をたくさんとって良い実績を残している。もちろん会社に行くときはスーツだ。俺はこの会社の初の死神社員だ。しかし俺にはもう一つの顔がある。そう、昼間の会社には秘密で殺し屋の仕事をしている。本来、死神が得意とする仕事だ。俺には2つの仮面がある。死神としても人間の社会でも優秀でいたいチヤホヤされたい自分がいるに違いない。誰かは俺のことをナルシストだと言う。
「最近、お前調子良いな。彼女でも出来たのか?」
「そうだと言ったらどうします?」
上司に上機嫌モードがバレてしまった。バレた所で別に恥ずかしくもなんでもない。俺はここの世界をまっとうに楽しんでいるから。
「じゃあ俺あがりなので、お先失礼します。」
「お疲れ様。明日も宜しくな。」
仕事が終わってプロポーズした橋に行ったら指輪はなかった。俺は面倒ながら星広場に向かった。辺りを見回しても高校生が悪ふざけしてるだけだった。俺はその場を去ろうとした。
「ねえ。」
突然後ろから誰が肩を叩いて、呼んできた。
「おどかすなよ。」
振り向いたらピタ子が立っていた。
「ねえ見て。」
彼女は自分の手を見せた。いつもにない満面の笑みで。
「これが私の答えなの。」
指輪をしてる彼女の姿を見て、俺は彼女を抱きしめた。
「あなたが死神だろうと私、あなたについて行く。」
彼女はそっと俺にキスをした。
プロポーズを受諾してくれて、この上ない幸せを手に入れた。
帰りに本屋に寄った。俺もピタ子も行ったことない本屋だ。普通の本屋では中々見れない古い本屋、変な本がたくさん並んでいた。
「何この本!!面白そうだわ。タイトルは死神との結婚。私達、死神と人間の夫婦になるから見たら楽しいかもね。」
「どんな本なんだ?」
「世界で初めて結婚した死神と人間の夫婦の話。死神の男優さんと人間の女優さんが一緒に出版した本よ。」
俺はあまりためらわずその本をレジに持って行った。
「お姉さん、この人と付き合ってるの?」
「まだ入籍してませんが、今日から私達夫婦です。」
レジのじいさんはいきなり変なことを聞いてきた。
「どこかで会った覚えがある。」
「会った覚えないけどな。」
「君じゃなくて、隣のお姉さんだよ。」
何だか危なそうだったから、レジを済ましたら、すかさずピタ子の腕を引っ張って本屋を出た。
「どうしたの?」
「何でもない。それよりもう帰ろう。」
これから夢のような生活がはじまる。しかし困難がやってくる。




