海上鉱山編 第一話「世界の摂理」
<天翔三十二年 海上鉱山 旧テーマパーク跡地/第八通路>
コツン・コツン・コツン・コツン…
ピッケルを打ち付ける反響音が、洞窟内に木霊する「海上鉱山 旧テーマパーク跡地」にて
男や女、機械人から半機械人に至るまで全ての労働者たちは今日を生きるため、明日をただ生きるため意味のない毎日をやり過ごすのであった。
「ミラ。そいつだ。違う。それだ。とってくれ」
全身が浅黒く腰の曲がった炭鉱労働者は、私に要請をしてきた
私はその要請に対して二つ返事をし、錆びついたピッケルを渡す。
「もうすぐ見回り隊がくるから大丈夫だよね?」
この班で唯一の子どもである『美優』は大声を張り上げた
「るっせーな。一々喚くなよ。おめえの声は響くんだよ」
風貌は30〜40代前半。かつてどこかの地主である事を彷彿させる男、高田 健介は幼き少女に怒鳴り散らした。
「黙ってろ…ケーブルには異常はねえ。終わりだあいつらは俺らを見捨てる気だぜ。そうだよな。ここで切り捨てりゃいいもんな…ミラ。おい!ミラ」
「…なに?」
「おめえ後でうらこい」
「…うなずく」
「だめだよお姉ちゃん!女の子なのに」
「ねえ。その子黙らせてくれない?ただでさえ空気薄いんだから」
この言葉を発した瞬間、第八通路に一瞬の静けさが訪れた。
この色気のある声で場を凍らせた女「売春婦の機械人(通称:堕落者/もののけ)」は静かに曇った声で少女に言った
「あんたさ。小さいんだから、岩の隙間から出て助けを呼んだらどうなのよ」
「黙ってろ!」
浅黒い労働者の男は立ち上がり「堕落者」に対して殴りつける
「もののけが浅ましいんだよ。いいか?元はと言えばお前が俺たちをここに誘導したんじゃねえか」
「ついてくるのも自由意志?でしょ」
この浅黒い男はみんなから 「栗松」と呼ばれているが、誰も彼の名前を知らない。
「なあ。おっぱいの大きい姉ちゃん。御託はいいから1発やらせろよ」
薄気味笑いを浮かべた、タオルの鉢巻をした男は「堕落者」に肩を回して囁きかける。
この汚い言葉を話す男は労働者の中でも下の下。所謂「非民/権利を持たないもの」である。
名前はない。みんなからは、ヘナちんと呼ばれていた。
「あんたのへなチンでこの高尚な私を満足させられるわけ?」
「してやるよ。ほらだから出せよ。オメコ」
「…最低」
「諸君!」
洞窟内に響き渡る男の怒鳴る声。彼は皆の冷たい眼差しを無視して話を続ける。
「我々は今佳境に追い込まれた。だからこそ、我々は立ち上がらなくてはならない!希望を捨てるな」
山田 杭彦と呼ばれるこの男は、この海上鉱山十六班長である。
山田を含めこの第八通路には八人の労働者達が、ひしめき合いながら、未だ見えぬ光明を求めて労働に従事する。
「もののけのオメコは気持ちいいの。お前も知っているだろ?なあ。1発でいいからやらせてくれよ」
「最低。私だって右手がイカれてなければ。あんたの顎なんかぶっ壊してやったのに」
最低の空間、最低の空気。最低の人間ども。機械ども。
ここに寝ているもう一人の機械人もまた私たちを見下しているんだろう。
彼はこの現場に来て一度も声を上げたことのない「異端者」だ。
彼は作業中私たちをまるでいないものとして扱ってくる
時々、栗松に殴られているのを私は見るが、私は彼を助けることはできない
(だって機械人だもん)
隣にいた、美優が私の裾を引っ張った。
「お腹すいた」
「大丈夫だから。もうすぐ助けは来るよ。ね?」
「…うん」
私たちは崩落事故にあったのだ。
それも突然に、誰かの笑う声がして目を覚ましたら世界は暗雲に包まれていた。
私たち十六班は所謂。奴隷組と呼ばれこの鉱山での強制労働をやらされている。
この十班以降のグループは所謂社会的地位を剥奪された隷属民
娑婆での生活は許されない
「ミラ。すぐに終わるから」
さっきまで眠りについていた人間の男が私の耳元でささやいてきた。
私はあまりの恐怖に座り込み動くことができなかった。
「すぐ?みんなが見てるのに」
「だからすぐ終わらせるって」
「お姉ちゃん?」
「大丈夫。私なら」
私はこの無口の男「武田」と何度か寝た。
武田はみんなが言い争っている中で私に覆い被さり、匂いの放つ汚物を私に向ける。
美優はその光景を恥ずかしがるように目を逸らし小言で御呪いを唱えているのであった。
彼の汚物が私の聖域へと侵入してきた時、ふと思い起こされる母の声。
母と歩いたあの小さな川辺の景色。
私がまだ子どもだった頃、世界は平穏であり幸せが当たり前だったのだ…
(あの時、もう一人誰かいたような…でも思い出せない)
おぼろげに思い起こされる誰かの顔。すごく居心地が良く優しくしてくれたあの人の顔を思い起こそうと思ったが、もうそれは昔の話である。
「ミラ。ミラ。ミラ!!」
私はこの男に股を許し、世界の残酷な恐怖から一瞬の快楽を求めて私は黙って過ごすしかできなかった。
目を閉じながら口を押さえ、この人が満足するのを待つ…
ふと私の瞼からは、垂れ落ちる涙の雫
私達に希望なんてものはもうないのであった。