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開巻劈頭

少子高齢化社会が当たり前になった現代。

高齢者が増え続ける一方で、団塊の世代もまた徐々に現れる。

それにより現在の若者達は、約2.06人で高齢者1人を支えている。

老人ホームは増えつつあるが全ての人が入れる訳ではなく、順番を待ち続けている家族もいる。


老人ホームは介護スタッフがいなければ成り立たない。

常に人手不足の介護現場、その現状にどうか目を向けてください。


※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

 「就職活動どうしようかな……」


 大学3回生の夏、冷房が効いた食堂で僕 椿 日置(つばきひき)はぽつりと呟いた。


 女友達「椿君、就職しないの?インターン行ったりSPIについて勉強していたから、就きたい企業があるのかと思ってた」

 男友達「それな。てか就職する気もねえのによく行ってたな」


 と、一緒に昼ご飯を食べていた友人2人が驚いた表情で僕を見た。2人の視線から逃れるようにコンビニで買ったサンドイッチをひと口食べて咀嚼する。安定の美味しさだが今はとても完食する気にはならなかった。そんな事を考えていたら味がしなくなったような……サンドイッチを無理やり飲み込んで口直しにコーヒーを飲む。顔を上げると2人がまだこっちを見ていたので、とりあえず思ったことを伝えよう。


 「いや、就職はするよ。ただこの仕事がしたい!っていうのがないんだよなぁ……」

 男友達「お前器用だしどんな会社に行ってもいけるんじゃねえか?なあ?」

 女友達「そうだね。椿君、成績も優ばかりだし引く手数多だと思うよ」

 「そうかな……。2人は希望する職種とかあるの?」

 男友達「オレは在学中に公認スポーツ指導者資格が取れるから、水泳のコーチになろうと思ってるぜ」

 女友達「わたしは司書資格を取る予定だから図書館司書になりたいな。狭き門だけどね」


 2人は笑顔でお互いの夢について話し続ける。それに比べて自分の虚しさ、空っぽさに対し嘲笑した。

 その瞬間、まるでこの世の全ての生き物が僕を嘲笑うかのように、遠くで蝉の鳴き声が聴こえた。

 子どもの頃は夢がいくつもあった、医者、ケーキ屋、宇宙飛行士、サッカー選手、写真家……。

 しかし成長するにつれてその夢を叶えたいと思わなくなった。その夢を叶えた時、僕が笑顔でいる姿が浮かばなかった。きっと、今みたいに嘲笑っているに違いない。僕が本当になりたかった大人は、どんなものだったんだろう……。

 窓の外を見ながらぼんやり考えるが、答えが返ってくる訳もなかった。

 夏の日差しが窓から差し込み、食べかけのサンドイッチに日光があたる。いっその事、このまま燃え尽きてしまえば……。


 女友達「そうだ椿君、介護士とかどうかな?」

 男友達「介護士?なんで?」

 女友達「ほら、今は少子高齢化社会でしょう?介護士って常に人手不足みたいで、しょっちゅう正社員やパートの募集してるんだって。これからの時代を考えると介護職は重宝されると思うし、介護関係の資格がなくても大丈夫みたいだから、どうかな?」


 女友達は両手を合わせ笑顔で提案してくれた。

 彼女が話してくれた内容は確かに一理ある。AI化が推奨されつつある近年だが、介護に関してはAIでするにも限度がある。事務作業ならともかく、介護は人と関わる仕事だ。そこにはAIでは出来ない、人だからこそ出来る仕事があるはずだ。

 人を支える仕事か……。僕にできるのだろうか。不安が顔に出ていたのか、男友達が頬杖をつきながら口を開く。


 男友達「まあ、やってみるのもありなんじゃね?何でもやってみねーと始まらねぇよ。合わないって思ったら辞めてまた興味がある事に挑戦すりゃいいし。何かあったら話ぐらいは聞いてやるよ」

 女友達「そうだね、あくまで私の提案であって、椿君がこの後やりたい事が見つかったらそっちを優先してね」


 僕の悩みに付き合ってくれて、だけど無理強いはせずに優しい言葉をくれる2人。良い友人を得られてよかった。素直にそう思った。


 「2人とも、ありがとな。まだ時間はあるし、夏期休暇中に介護職のインターンも行ってみるよ」

 男友達「お前、そういう所真面目だよな。まあいいんじゃね、お前の人生だし後悔しなきゃいいんだよ」

 女友達「私も彼も、椿君の事応援してるからね」

 「うん、ありがとう……っと、早く食べないと次の講義間に合わなくなるぞ」


 食堂の壁にかかっている時計を見て、急いで放置していたサンドイッチを頬張る。もやもやした気持ちがなくなったおかげで、美味しく食べられた。

 2人も僕につられてお弁当やお握りを急いで食べだす。その様子を横目で見ながら、窓の外にも目を向ける。もう蝉の声は聞こえなかった。






 それから月日が経ち、大学を卒業した僕は社会人になった。駐車場に車を停めて、カバンを持って職員用玄関へ向かう。

 就職先は-特別養護老人ホーム。



 桜舞う4月、僕は介護士になった。



【続く】

読んでいただきありがとうございます。

作者の犀川桂都(サイカワケイト)です。


この小説を書こうと思ったきっかけは、僕自身が現役介護士として感じた矛盾や悩み、出会いと別れ等を書いてみようかな、そんな気持ちでした。


もともと読む事も書く事も好きでしたが、仕事に追われここ数年間は書いていませんでした。

しかし仕事中に『今思っている事を小説にしてみたらどうなるのかな』という考えが頭に浮かびました。


拙い文書ですが、最後まで読んで頂ければ幸いです。

ちなみに作者≠主人公です。

紛らわしくてすみません。

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