表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姫百合荘マジやばい  作者: 嬉椎名わーい
5/6

5、耳と舌と愛の重さ

港区立狸吉(たぬきち)小学校1年3組では席替えが行われた。

アンは自分から進んで最前列・ど真ん中を希望。

「アンはいっぱい勉強しないとならないの! アリスンのヒショになるから!」

秘書というものが何をする仕事かよくわからないアンであったが、とにかく眼鏡をクイッとやればいいのだろうと思う。

アンのすぐ後ろになったクラスで一番うるさい樹摩(じゅま)は、(おやぶん背が高いから、ちょうどいい壁になって先生の目から隠れられるわ・・・ 授業中に落書きしたり居眠りしたりできそう、ウシシシ)

担任のセクシーな唇とバストの若葉緑(わかば みどり)先生が、

「アンちゃんが一番前だと先生も嬉しいけど、ちょっと後ろの人が黒板見えなくなっちゃうかな・・・ 2列目の樹摩ちゃんとチェンジしてみようか」

樹摩「ぎえええっ」


休み時間、アンの机に腰かけて「えらいわね、アン。自分から一番前になろうとするなんて」

優しくアンの髪を撫でるのは、クラスで一番というより学年一番の美少女、読者モデルの仕事もしている多田ダダダ、通称ダーちゃん。

とても小学1年生には見えない大人びた雰囲気。

母親がベトナム人だが、とんでもないキラキラ・ネームはそのせいではなく、前衛芸術家の父がつけたもの。

「ダーちゃん、今日はお仕事ないの? うち来る?」

「あら、いいの? おじゃましようかしら」

クラスで一番大人しい美幸(みゆき)は相方の樹摩同様、今日は習い事があって遊べない。

「いいなー 私も行きたかったなー姫百合荘(ひめゆりそう)

ウットリした顔で、前回の訪問を思い出す。

「住人用のドアから入ると、なんかフワッといい匂いがするんだよねー」

樹摩「あの匂いは芳香剤なの?」

アン「いや? トイレ以外はそういうのは使ってないけど?」

美幸「あれはきっと、お姉さんたちの匂いなんだろうね」

樹摩「きれいな人ばっかでまじビビったわー」

ダー「うわあ、それは楽しみ・・・」

アン(ダーちゃんはきれいなモデルさんたちとお仕事してるから、どうだろう・・・)


金曜日だったので、休みシフトのローラとアリスンが学校に娘を迎えに来た。

実は幼稚園時代からローラさん一家とつき合いのあるダーちゃんだが、アンが姫百合荘に引っ越してからは、距離的に遠くなったせいもあって1度も訪問したことはない。

「わー! これがアンの新しいおうち・・・」

本日在宅シフトの紅鬼(くき)夜烏子(ようこ)真琴(まこと)が出迎える。

お茶とお菓子でもてなされ、ドギマギ。「おかまいなく・・・」

「うわー大人っぽい!」「背が高いのねー。あ、モデルさんなの?」「今の小学生ってスゴイ・・・」

アン「小学生みんながこんなじゃないよ! ダーちゃんは特別なんだよ」

「そりゃそうかー」「きれいな黒髪・・・」「ロイズの生チョコも食べる?」

みんなでダーちゃんをハグハグ、なでなで、ついにはキスキス。

美女たちに愛されすぎて目がクラクラ回ってきたダーちゃん、「ここは天国ですか・・・」

アンは多少やきもちの感情が湧いてきて、「ダーちゃんは見た目は大人っぽいけど、遊びは子供っぽいのが好きだよね。ゴム飛びとか」

「ちがうの! あれはゴム飛びダイエットなの!」

あははははは、「じゃあ後で、お姉さんとダイエットしようか! 甘い物も食べたことだし」

ここで夜烏子が火の玉ストレートに、「ダーちゃんは好きな人いるの?」

「わたしは・・・ アンが好き・・・」

ローラ「あら」アリスン「あら」

アンは真っ赤になって、「アンはアリスンのヒショになってアリスンと結婚するんだよ?」

ダーちゃんはアリスンを見る。

アリスン、にっこり。

「・・・・・・」目を伏せるダーちゃん。

「私は・・・ 愛人でもいいからアンのそばにいたいの・・・」

真琴「愛人・・・」紅鬼「ませとる・・・」

ここにいたって夜烏子は、「私とんでもないこと聞いちゃったな!」

ローラは気難しい顔で「子供に愛人なんて言葉、誰が教えたのか、イカンでしょ」

ダーちゃんの髪を優しく撫でて、「アニーを好きになってくれて、ありがとう! これからも仲良くしてね。まだ未来はどうなるかわからないから・・・ 愛人なんて言わないで、正式なパートナーの座をアリスンと争って!」

アリスンは大人の余裕で、「負けないぞ~」

ダーちゃんは涙に濡れた目でアンを見つめて、「私はアンをあきらめない!」

アンはその熱い視線を避けて、「うう、ダーちゃんの愛が重い・・・」




「ただいまー」

まりあと燃子(もえこ)がデートから帰ってきた。

「おかえり・・・」

おずおずと湯香(ゆか)が出迎える。

まりあ「あ、今日はギリシャ料理だったから大丈夫よ」

燃子「オリーブオイルいっぱい摂取したー」

まりあ「ギリシャワイン飲みすぎたな・・・」

燃子「名画座で『耳切り魔ゴッホ』見てきたん! おもろかったな」

まりあ「湯香、今日はお土産あるよ! こないだは昏倒するほどニンニクの匂い浴びせて悪かった」

渡された箱には「ゴッホの耳バタークッキー ボクの耳を食べて!」と印刷されていて、笑ってしまう湯香。

「ありがとう! 今ごろ第1作見たの?」

燃子「ゴッホが危ない奴で怖かったわー」

まりあ「ゴーギャンが意外に強くてビックリしたわ。ラスト無事にタヒチに脱出できてよかったー」

湯香「第2作はタヒチの海底で、サメになったゴッホが襲ってくるんだよ」

燃子「ゴッホ生きてるんか!」

湯香「第3作ではゴッホ・ウイルスで全人類がゴッホになってしまう・・・」


怖い映画を見たせいか、その夜、燃子は悪夢にうなされた。

「ボクの耳を食べて・・・ そして許して、ゴーギャン・・・」

右手にナイフ、左手には切断された耳たぶをもって、ひげ面のゴッホが迫ってくる。

もちろん左耳があったはずの切断面からは血をダラダラと流している。

「やめて・・・ もえこちゃんが悪かった、許して・・・ もう印象派をディスったりしない・・・ ルネッサンス絵画に比べたらゴミ、なんて2度と言いません・・・」

ゴッホに追われ、広大な邸の中を逃げ回る燃子。

ある部屋に逃げこむと、そこには黒髪の美しい女が立っていた。

だが着ているのは戦闘服、手にしてるのはAK47自動小銃・・・

「モエコ・・・ 私のモエコ・・・」

「ベアトリス?」

ざわざわとイヤな予感がして、部屋を出てドアをバタン!と閉める。

ゴッホがすぐそこまで迫っていた。

悲鳴を上げ、別の部屋へ・・・ 浴室へ飛びこむ。

鏡に映った自分の顔を見て、驚愕する燃子。

「眉毛がない・・・ ツルツル・・・ 完全に消えてしまった!」

そこへゴッホが現れた。「ボクの耳を食べて~」

燃子はゴッホに向き合い、「ゴッホ、私の眉を描いてくれ!」

「ボクの耳を食べて~」

「私の眉を描いて~」

「ボクの耳を食べて~」

「耳食べるから眉描いてや!」

「仕方ないなあ」

根負けしたゴッホは、絵筆でぬりぬりと眉を描いてくれた・・・


翌朝、目覚めた燃子は手鏡で顔を確認。

「心なしか眉が濃くなってるような・・・」

まだ耳の味がクチャクチャと口の中に残ってる気がした。




昼休み、校舎の裏側でアンとダーちゃんは一見ディープキスのように見える、やばい遊びをしていた。

アンが口に含んだクロレッツ(ミント)のタブレットを、舌の力だけでダーちゃんの口の中に押しこむ。

「んんんん・・・」

ダーちゃんの舌も抵抗するが、結局押しこまれてしまった。

ギブアップしてクロレッツを舐めながら、「すごい舌の力・・・」

「この『舌相撲』を毎日やると、舌の筋肉が鍛えられるんだよ! アンは毎日ママかアリスンのどっちかとやってる」

「何のために?」

「うーん? 大人になると舌の筋肉が重要らしい?」

「私、ふつうの筋トレはやってるけど、舌はまったく鍛えてなかった・・・」

「これからはアンが相手になったげるよ!」

「ありがとう・・・」

すでに赤くなっていた顔を、さらにポーッと赤らめ、「私、アンとキスしちゃったのね」

(しまったー!)と今さらながら、ダーちゃんの愛にさらなる火をつけてしまった、と悟った小学1年生のアンであった。

そもそもの始まりは、おはじきをして遊んでるダーちゃんを「子供っぽい」とからかったこと。

「大人の遊びってなーに?」と聞かれ、ついつい調子に乗って、校舎裏に誘ってしまったのだ・・・

「アン・・・ 私の初めてのキスだったんだよ」

ダーちゃんがピッタリ体を寄せてきて、頭をアンの肩にもたせかける。

舌相撲はディープキスをしないとできない、そんな当たり前のことを忘れていたアンだったが・・・


目撃者がいたらしい。

2人は職員室に、若葉先生のもとに呼び出された。

先生は声を潜めて「2人とも! キスしてたって本当?」

アン「う・・・ イヤ、あれは・・・」

ダーちゃんは涙ながらに、「先生、ママには言わないで! 知られたら、もうアンとは遊べなくなる・・・」

「そう思って、アンちゃんのうちにだけ連絡しときました」

「なんでうちには平気で知らせるの!」

紅鬼が駆けつけ、「若葉先生! うちの子がどうもスミマセン・・・ アンのママが仕事中なので、とりあえず私が」

困ったちゃん笑顔を浮かべる先生、「紅鬼さん・・・ お宅の事情は存じてますが、まあ女の子同士だから『かわいい』で済ますこともできますが・・・ やはりまだ小学生ですからねー」

「いや、まったくです。預かってる私らの責任です」

ダーちゃん「先生! 小学生だって本気の恋をするんだよ!」

この少女の魂からの悲痛な叫びに、職員室はシーン・・・

アン「いや・・・ アレはそうゆうんじゃなくて・・・」ガクガク

紅鬼「ダーちゃん・・・ すごい・・・」

先生は感動に輝く瞳で、ダーちゃんの頬を優しくナデナデ

「わかった、ダーちゃん。先生も応援するから!」

「せんせ・・・」

「でも応援するからこそ、学校で人目を引くような、大人みたいなことはしないで。2人を引き裂く力の方が強くなってしまうから」

「ハイ、わかりました」

「この愛がずっと長く続くように、賢くね」

「プラトニックにアンを愛します」

アンは涙目でプルプル「ちょっと先生・・・ 何言ってんの・・・」

とっさにジーンズを履いた紅鬼の脚にしがみつき、「くき! 何か言って!」

しかし紅鬼は両手で頬を押さえて、「いやーんダーちゃん、かわいい! 先生もドラマに出てくるような素晴らしい教師!」

「おほほ、ありがとうございます」

アンは絶望のドン底に、(オホホじゃねー! ダーちゃんの愛がさらに重くなった!)注:自分のせい




姫百合荘の豆知識(23)


(前回からの続き)今回の爆弾テロで犠牲になったのは、元陸上自衛隊・第1水陸機動連隊所属のレンジャー隊員だった水高上(みずたか のぼる)さん(45歳)、その妻で元ピアニストの火冴(ひさえ)さん(40歳)、長男の英一(えいいち)さん(18歳)。

上さんは10年前に自衛隊を退職、故郷の熊本県阿蘇で喫茶店を営んでいたところ、知人の紹介で獣畜振興会警備主任のポストにスカウトされ、風太刀(かざたち)アイランド内の高級マンション「アイランド・ハイツ」に入居するため、早朝の便で東京に到着したばかりだった。

ただ1人、奇跡的に軽傷で済んだ長女の水高火里(みずたか ひさと)さん(17歳)は風太刀アイランド内の「港湾第一病院」に入院。

今回の事件については、過激な環境保護団体「アース・クルーセイダーズ」傘下の動物愛護テロ組織「ALM(アニマル・ライヴズ・マター)」が犯行声明を発表した。




あれから数日後。

放課後の校庭でアンは1人、鉄棒で遊びながら迎えを待っていた。

今日はダーちゃんはモデルの仕事、樹摩と美幸は習字にピアノ。(この2人は家が近所の幼なじみ、習い事もいつも2人いっしょ)

授業終了から30分以内に、姫百合荘「在宅シフト」の1名がアンを迎えに来ることになっている。(とりあえず10歳になるまでは1人で登下校させないで、というローラからの要望)

アンは本来、1人でいるのが好きな子だった。

それなのに学校では「アンの友達になりたい」希望者がウジャウジャ、実は愛の告白も(男子を含めて)ダーちゃんが初めてではない。

「あーあ、やんなっちゃうなあ」

「何がやんなっちゃうの、アンちゃん」

いつのまにか若葉先生が、鉄棒のそばに立って微笑みかけている。

「先生!もー! なんでダーちゃんをたきつけるのさ! 私はアリスンのパートナーになるしヒショになるし結婚もするんだよ!」

「でもアリスンさんはママのパートナーじゃないの? 歳だって10個も上でしょ? ダーちゃんなら同い歳だし、アンちゃんとお似合いなんじゃないかなあ」

「歳なんてかんけーないんだよ! 私はアリスンに初めて会った時3歳で、おぼえてるし、アリスンはキラキラしたお姫さまで、この人と結婚して私もお姫さまになるって思ったの! それからアリスンはオネショしたり、ジーンズを3ヶ月もはいて臭かったり、いろいろあったけど、それでもお姫さまなの!」

その真剣な眼差しに押される先生、「そ、そっかー。先生、よけいな口出ししちゃったかな・・・」

「そうだよ!ぷんぷん」

「アンちゃん、歳の差なんて気にしないのか・・・ それなら先生も告白しちゃおうかな」

鉄棒にまたがったアンに近づくと、その頭を抱きよせ、切なげな表情で

「先生もアンちゃんが好き・・・ 先生だって本気の恋をするんだよ!」

「え・え・え・え・え・・・」

まるで「アン大好きウイルス」が世界中に蔓延、全人類がアンを好きになってしまった、そんな感覚にアンはとらわれた。

タイミングよく、母親のローラが現れた。

「若葉センセ、いつもお世話さまでーす。ん?どうしたの?」

アンが鉄棒から飛び降り、ママに駆けより、「先生にコクられた! こわい」

「ええっ どゆこと?」

「あの、あの、実は・・・」


さすがに見過ごすことはできず、ローラは近くのドーナツ屋に先生とアンを引っ張っていった。

「小学校の男性教師ってペドフィリアが多いから、絶対担任は女性にしてくださるよう、校長先生にあらゆる圧力をかけたんですが・・・ まさか女性のペドとは・・・」

「ちがいます、ペドじゃありません! 聞いてください・・・」

なんでも若葉先生は子供のころからバストが大きく、男子にからかわれたり、いやらしい目で見られるうち、すっかり男性が怖くなってしまったという。

「あらまあ」

自身も不幸な経験から男性恐怖症となったローラ、たちまち同情メーターが跳ね上がる。

男性と恋愛なんてとても無理、女性が相手ならあるいは・・・ と思ったが同年代の女性もやっぱりちょっと怖い。

でも姫百合荘の女性たちには憧れるな・・・ お友達になりたいな・・・ ちょっと怖そうかな・・・ 恋人になりたいな・・・

「なんて思ってるうちに、幼いアンちゃんなら怖くないし・・・ いつしか恋愛の対象に・・・ ホントごめんなさい! 自分でもアブノーマルだと思ってます! でもどうしようもないんです・・・」

「私自身レイプされたし、男が怖いというのはわかる。あなたのような性的な魅力のある女性は、そりゃもう不快なこともされたでしょう。うちの娘も美少女だから、年齢が親子ほどちがっても恋をしてしまう、それも無理ないと思う。正直私自身、娘に恋してますから」

真剣な顔になり、「ただ娘を傷つけることは絶対許しませんよ! 無理やり何かするとか・・・」

「そんなこと、するわけないじゃないですか!」

先生は泣き出し、店内の注目が集まる。

「ま、先生、落ちついて・・・ ヤバイことするんじゃなければ、恋するのは自由ですよ! これからも先生を信用して娘を預けますから、好きなだけ恋する乙女になってください。ただ、その恋がかなう可能性がほとんどないことだけは自覚してくださいね」

「ハイ、それはもちろん! アンちゃんの成長を見守るだけで幸せ!」

ドーナツが食べられてラッキー、くらいにしか思ってなかったアンだが、

「先生の愛が重い・・・」

ローラが娘を抱いて、頬にキス。

「アニー、もちろんママも本気であんたに恋してるんだからね! 大きくなったらママと結婚するんだよ?」

「ママの愛が一番重い・・・」



第5話 おしまい

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ